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秋の風が吹く神宮で、奇跡みたいなことが決まった日 【10/2横浜戦◯】

きっと、本人たちは覚えていないと思うけれども、夏の暑い日、バックネット裏で見た巨人戦で、一緒に観戦した先輩たちが「いやーむっしーをCSに連れていきたいわー」と言った。

「あれは独特の雰囲気だよ。ペナントとはぜんぜん違う。あの空気を味わってほしいものだ」と。

その日、ヤクルトは巨人にあっけなく負けた。荒木は死球で戦線を離脱した。オールスター前の7月前半。ヤクルトはどこかしこに負けていた。CSか・・夢のまた夢だなぁ、いつか見たいなぁ、と、私は思った。いつか、と。

今日、その先輩たちと「納会」をするためにまた神宮にいた。一緒に行く最終戦。あんなに暑かった夏は、いつの間にか終わっていた。あの日戦線を離脱した荒木は戻ってきた。そして、去りゆく人たちの名前が明らかになった。秋の風は、あまりにも切なくやるせなかった。

私は基本的に楽観的な人間ではあると思うけれども、それはいつだってポジティブだということとは違う。例えば去年96敗したチームが今年きっとAクラスになれる!と、思えるような人間では、まったくもって、ない。

どちらかというと、96敗することもあるわな人生は、まあ、仕方ないよな。と、静かにため息をつく、というタイプの人間だ。「なんでもうまくいく」と楽観的に捉えているわけではなくて、「うまくいかなくても仕方ない」と捉えて生きている、ということだ。

だから今年だって、目指せ5位、と、思っていた。どうか96敗しませんように、と、思っていた。

私の母は、とてもとても優しい人だった。亡くなった時、いろんな人に、正直全然私の知らない人たちにまで、お母さんにこんな言葉をかけてもらって、本当に助けられた、ありがとう、といったようなことを言われた。たくさん手紙ももらった。私と全然違って口数の少ない母が、そんなにたくさんの人を励ましていたなんて、不思議な気がした。だけど言葉の選び方がとても優しい人だったので、そしてなんというかとことん誰かの痛みに寄り添う人だったので、誰かにそっと悩みを打ち明けられるたび、何か声をかけていたのだろうな、と思った。そういうことならやりそうだ。

だからその母自身が病気になり弱ってゆくのは、もちろん、とても切なかった。母はいつも優しく気丈なはずだった。もしこれがドラマや映画なら、いつまでも母は気丈なまま、病気に向き合ってゆくのだろう。そして奇跡が起こり、母は元気になって家に戻ってきてくれるのだ。

だけど、現実はうまくはいかない。母は見るからに弱っていった。弱音だってはくようになった。そして、病気には勝てなかった。

奇跡なんて、起こらないのだと私は思った。奇跡が起こること自体が良いとされる風潮なんてなくなってしまえ、と思った。良いことをしていたら報われるのなら、かみさまがいるのなら、一番に報われるべきなのは母じゃないか、と。

だからどれだけ頑張ったって、報われないことがあることを私は知っている。去年96敗をしたチームがどれだけ悔しい思いをして、苦しんだとしても、翌年にすぐに強くなるなんてことは、あり得ないのだと私は心底知っている。ありのままの現実を受け入れることでしか、人は前を向いていけないのだということが、私が知ったことなのだ。

でも、ヤクルトはそういう私の、なんというか現実主義のようなものを、打ち砕いてくれた。ファンの気持ちがざわざわと落ち着かない中で、ほんとうに、ほんとうに、CS出場を決め、そして、今日、2位という順位が確定し、神宮でのCS開催を決めた。あの暑い夏の日には、遠いおとぎ話のように思えていたことが、現実になった。

バカみたいに辛い試合だってあった。もう二度と見ないと何度も思った。ぐっちが死球で試合に出られなくなることもあった。エイオキが頭部死球で抹消されることもあった。てっぱちやココが打てなくなることもあった。はらじゅりが出るたびに試合をぶち壊す日々があった。チャンスで全く点を取れない日があり、サヨナラ負けをする日があり、こんちゃんや石山が打たれる日があった。

その度に、何度も不安になった。だけど、「なにもかもがうまくいったわけじゃない」のに、それでも、二位という素晴らしい結果を残してくれたこと、それが何よりすばらしいことだと思う。

なにもかもがうまくいくということは、ありえない。それは人生と同じだ。あれだけ優しくて気丈な母は、病気に勝つことはできなかった。そこには理不尽なお別れがあった。こんなに哀しいことがなんで自分の人生に起こるんだろうと私は思った。

だけど、オットと結婚し、子どもたちが生まれてきてくれた。私はまた、新しい家族を持った。そして、毎日子どもたちと野球を楽しむようになった。哀しいこともあった。だけど、良いこともたくさんあった。トータルで見た時に、悪くないなあと思える日々が目の前にある。

そしてその積み重ねで、たまには本当に、信じられないくらい良いことだって起こるものなのだ。

若いけいじくんが、横浜の怖い打者に真正面から向かってゆく。怯むことなく、強いボールを投げ続ける。絶不調だったココは、痛烈なホームランを二打席連続で放つ。「CS連れていきたいわー」と言ってくれた先輩たちと一緒に、神宮でのCSが決まる試合を目の前で見る。大好きな選手たちが、飛び跳ねて喜ぶ姿を目にすることができる。

去年96敗したチームが、今年2位になるということが、現実に起こりうる。

良いことばかりじゃない、奇跡なんてそう起こるもんじゃない。それでも、悪いことばかりでもない。良いことだって、ちゃんとある。

それを改めて教えてくれたヤクルトに、心の底からありがとう、と思う。神宮でのCSを決めてくれて、本当に本当にありがとう。今シーズンを一緒に観戦した家族も、先輩たちも、友達も、そしてnoteを読んでくれるみなさんも、みんなありがとう。おかげさまでいつも楽しかった。

まだ残るこの先も、良き試合がたくさん見られますように。選手たちの喜ぶ姿をたくさん見られますように。エイオキの怪我が早く良くなりますように。


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