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「泡盛」ではない沖縄の島酒、「イエラム サンタマリア」を求めて

「泡盛」ではない「島酒」に会いに

沖縄のお酒といえば、もちろん泡盛である。お酒というのは、それが生まれた土地で飲むのが一番おいしいので、もちろん泡盛は沖縄で飲むのが一番おいしい。沖縄で飲むオリオンビールは本島の7倍くらいおいしい(個人比)。

ところが「島酒」として、泡盛ではなくラム酒を作っている島があると聞き、どうしても訪ねてみたくなった。奇しくも、二週間後に私は沖縄旅行を控えていたのだ。そう、ヤクルトのキャンプのために。

これはは見学へ行けということだ、と、勝手に思い込み、早速蒸留所を調べて連絡を取ってみた。私たち家族が自由に動ける日は日曜日の1日だけで(あとは紅白戦とか練習試合とかで忙しかったのです。そう、忙しいのだ)、その日は蒸留所がお休みの日。だけど問い合わせてみると、親切にも見学させてもらえることになった。

本部港からフェリーで30分、伊江島へ

那覇から車で一時間半、本部港からフェリーに乗ってさらに30分。そこに伊江島という小さな島がある。

沖縄本島と伊江島の距離感は、宮古島と伊良部島の距離に似ている。デッキに出てフェリーの風に当たっていると、あの頃フェリーで伊良部島に渡っていたことを思い出す。乗客はほとんどが島の人で、生活手段として使う船に、観光客の私たちがそっと乗せてもらうのがなんだか楽しかった。今は大きな橋ができてなくなってしまったあのフェリーの、係員のおじさんたちはいつもとても親切だった。

あのおじさんたちは今頃どうしているんだろう。

伊江島へいく船は、それでも、あの伊良部へ行く船の数倍立派で私たちは驚いた。中にはなんとテーブル付きのボックス席まであった。フェリーの中の売店で(売店だってあるのだ)コーヒーとスナックを買い、ボックス席に座って外を眺めていると、あっという間に伊江島に着いた。

島に馴染む蒸留所で

約束の時間より10分早く蒸留所へ着くと、もう案内役の知念さんが待ってくれていた。沖縄で時間を守る人に会うことなんてなかなかなかったのでちょっと驚いてしまう。

もともとバイオエタノールの実験工場として国が作ったというその施設は、今なぜか、島の風景に馴染んでいるように見えた。

施設を案内していくれる知念さんのお話はとてもわかりやすくユーモアとそしてラム酒への愛にあふれていて、ぐんぐんその世界観に引き込まれている。

そしてお話を聞いていると、ああそりゃ10分前に待ってくれる人だわ・・というのが伝わって来る。お酒に、仕事に、しっかりまじめに向き合っているのだなあというのが。

貴重な「アグリコール・ラム」をつくるために

世界中に、ラム酒というのは4万種類くらいあるそうだ。でもそのうちの95%以上は、「廃糖蜜」という、さとうきびから砂糖を作る時にできる絞りかすを原材料に作られている。

一方、この伊江島で作られるラム酒、その名も「イエラム サンタマリア」は、生のさとうきびそのものを絞って作られる「アグリコール・ラム」と呼ばれるラム酒。その生産量は、世界でも5%に満たないそうだ。そんな貴重なお酒が、この小さな島で、たった四人の手で作られている。

世界中から集めたヴィンテージの樽で熟成させる

ここで作られるラム酒は、オーク樽で熟成させる「ゴールド」と、ステンレスタンクで貯蔵する「クリスタル」の二種類。

貯蔵庫には、ゴールドラムを熟成させるためのオーク樽がたくさん並んでいる。この樽は世界各国から仕入れいているそうだ。

新品の樽というものはなくて、何年も、時には何十年も前から使われていたものをメンテナンスして再利用する。

もともと入れられていたお酒も様々で、例えばシェリー酒が入っていた樽に入れたラム酒は、赤みが強いお酒になる。こういう過程も、大きな工場ではない、小さな蒸留所ならではだなと思う。作られた一つ一つに、物語があるのだ。

島の自然に晒すことで「島のお酒」を育てていく

伊江島には、ずっと「島のお酒」がなかった。泡盛すら作られていなかったのだ。

そんな中でラム酒を作り始めた時、もちろん「なぜラム酒なんだ」という声は、島からも上がった。でも知念さんたちには、このお酒を「育てていく」自信と覚悟があった。

だからこのお酒には「イエラム サンタマリア」と名付けた。伊江島に咲く「テッポウユリ」が由来だ。かつて、海を渡って世界中に広がったこの花のように、世界にインパクトを与えるお酒になるように。

初めての「島のお酒」をつくるため、そして育てていくために、こだわっていることがある。

それは、あくまでも、島の自然に合わせてお酒を作ること。特殊な施設を作るのではなく、窓の開け閉めなどで温度を調整する。「島の環境にさらして初めて、その島のお酒として育っていくんです」と知念さんは言う。

島を愛しながら、大切にしながら、新しいものにチャレンジする。その覚悟と思いが詰まっている。

女性でも手にとって飲みやすい「ラム酒」を

もう一つ、この名前に込めた思いがある。

「ラム酒には、パイレーツ・オブ・カリビアンで海賊が飲むような、男性的なイメージが強かったと思うんです。でも僕は女性にも飲んでもらいたかった。女性が飲みやすい名前にしたかったというのもあります」

私もまさに、このパッケージに目が止まり、まんまと伊江島まで足を運んでみようとまで思ったのだ。マーケティングは大成功していると言える。

でもその裏には、やっぱり人の想いがある。確固たる意志と、お酒とそして自分たちが住むこの島と、さらにはそれがつなぐ人を大切に思う気持ちが、ぎゅっと詰まっているな、と思う。

照明を暗くして、少しだけラム酒を飲む

ショットグラスに「イエラム ゴールド」を少しだけ注ぎ、ストレートでラム酒を飲む。昔宮古島でテキーラを飲んでたいへんなことに(本当にたいへんなことに)なったことを思い出しつつ、「嗜む」ように飲めるようになったなんて、たいへん大人になったなととしみじみ思う。

子どもたちがみんな寝た後、照明を暗くして、ジャズなんかを流して、少しだけ飲む。「良いお酒」は、日々を、そして旅を、穏やかに彩ってくれる。

「イエラム クリスタル」に炭酸水を注いで、シークワーサーを絞ると、極上の「ラムハイボール」ができる。あーこれは南の島のお酒だな、と思う。夏になったらミントをたっぷり入れてモヒートをつくろう。

あとはヤクルトがひっどい負け方をした時にこの良いお酒を間違ってもやけ酒なんかにしないよう、大事に大事に飲んでいこうと思います。 


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