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まだまだ野球人生は、始まったばかりだ【10/29広島戦△】

新聞社の若手社員だった頃。先輩が提案しようとしていた企画を、そのまま引き継いだ。

クリエイティブの先輩にお願いして作ってもらった企画用のゲラは、めちゃくちゃカッコよかった。さらに、初めての仕事にしてはクライアントの感触が良く、ぽんぽんと話が進みそうだった。これはいけるんじゃないか…!と、思った。

…のだけれど、企画がまとまりそうになった最後の最後で、私の手に届かない範囲の思わぬことが起こり、企画はそのままおじゃんになった。

「この企画が決まっていれば、最高のスタートが切れたのに…」と、私は思った。「新人」として、ちょっと爪痕が残せるかも、とかもきっと考えていた。でもそれは全部、あっという間になくなってしまった。

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金久保くんは今日、デビュー戦とは思えないくらい、堂々たるピッチングを見せてくれた。これは未来のエース!と、叫びたくなるくらい、立派な投球だった。そして何といっても先輩たちは、3点という先制点を、金久保くんにプレゼントした。3点という先制点なんて、久しぶりに見た。

そのまま5回無失点でマウンドを後にした金久保くんに、もちろん勝たせてあげたい、と思った。記念すべき登板となるといつも勝たせてあげられない今シーズンだったけれど(吉田大喜くんもカツオさんもなかなか勝たせてあげられなかった)今日はいけるのでは、と、思った。そう期待したし、本人だって意識しただろう、と思う。

だけど、そうなのだ、なかなかうまくはいかない。0点で迎えた7回裏、今日は清水くんが3失点を許し、金久保くんの勝ちはあっさりと、消えていった。

「ううう…」と、もちろん思う。むすめは音読の宿題で、「ショックでしょげる、しょんぼりしょげる」と読んでいる。そんなもの私が一番しょげている。

勝たせてあげたかった。自信をつけさせてあげたかった。私の仕事の企画とは違って、これは間違いなく、金久保くんが自分の手でしっかりつかもうとした1勝だったのだ。

でも同時に、今日「勝てなかった」ことは、それは金久保くんの一つの経験として、長い野球人生の一日として、そっと刻まれるのかもしれないな、と思う。これはあくまでも始まりの一日にしか過ぎなくて、これからだって好投しても勝てない日があるかもしれなくて、でもきっと、みんなが勝たせてくれる日が来る、と思う。

そして今日打たれた清水くんだってきっとまた、チームを救うピッチングを見せてくれて、そしてそれが勝ちにつながる日が、来るはずだ。

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私はもう新卒の頃からもう15年くらいが過ぎた。今になって、思う。最初の企画が、トントン拍子に企画が決まらなくてよかったのかもな、と。

そもそもあれは、アイデアは先輩が出したもので、私はそれを持ってあちこち飛び回っていただけに過ぎない。クライアントの感触が良かったのは企画が良かったからというのが99.9%を占めていたと思うので、「いけるのでは…!」と思った感触のほぼ全ては、先輩のお膳立てだったのだ。

そしてなにより、そこであっさり「こんなものか」と、思っていたら、その先うまくいかなかった時に(それからうまくいかないことなんか500万回くらいあったのだ)、余計に凹んだかもしれない。

「なかなか厳しいな、仕事というものは。」と、そう実感として知ったことは、それは大事な経験だったように、15年くらいが過ぎた今、思える。

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大事なことはいつも、振り返った時にわかるものだ。

今年大活躍の清水くんも、去年はなかなか思うような結果が残せなかった。でも去年の先発での経験はきっと、今の中継ぎの仕事に生かされているのだと思う。

金久保くんが今日の投球を自信にして、これからますます成長して行ってくれますように、と願う。そして清水くんが今日の経験を糧にまた、さらに良いピッチャーになっていきますように、と。

まだまだ、野球人生は始まったばかりなのだから。



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