嫌な感情は薄く伸びて見えなくなった。

この間、はじめて買ったパンがおいしかった。つい食べ過ぎてしまう。偶然の割引は運が良かった。明日もしていないだろうかと期待を膨らませて夜にまた消費する。

明日は早起きだから寝るのはあまり遅くなれない。睡眠に向けて、起きている神経をなるだけ落ち着けながら、おいしいパンを食べたい気持ちを満たす。こんなふわふわで焼きたてのような食パンが普通に買えるなんて知らなかった、と感動しながら一口ずつ頬張る。

テレビは消して音楽を聴く。ビル・エヴァンスではじめてジャズと出会った。歌がなくても、ないからこその良さを感じた。深くて温かく、重厚感のある音だった。喫茶店で過ごしているような気持ちになった。ありふれた感想だろう。それでも素直に言えばそうだったし、ただでさえおいしいパンがより味を増した。バターの塩味がこれほど引き立つのか、分厚いのにこんなにふわふわしているのか、と溜息が漏れる。

日が変わり、小沢健二の新譜を聴く。これも最高の音たちが絶妙なリズムで重なり合っている。炎は赤より青の方が熱いように、激しいより穏やかなほうが熱量を持つこともあると思った。

良い夜を過ごした。今日は良い夜だった。課題も皿洗いもバイトも明日で待っているけれど、それも幸せなことだと思えた。嫌な感情が薄く伸びて見えなくなった時間、とても気持ちが良いものだった。

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