華麗なる休暇 -Works of Cornelius 005-
引き続き、1992年暮れの小山田関連作リリース・ラッシュについて。
『Trattoria Course Volume One』の6日後、12月16日に発表されたゲーム音楽CD『熱唱!! Street Fighter II』にも参加していた。当時大流行していた対戦格闘ゲーム「ストリートファイターII」のBGMをアレンジしてヴォーカルを乗せた楽曲集で、戸田誠司のプロデュースによるものだった。
小山田が参加したのは登場キャラ"ダルシム"のテーマソング「遥かなるインディア」で、コーラスの他に、なんとラップも披露している。キャリアの中でも屈指のめずらしい仕事である。
さて、今回取り上げるのは、これと同日に発表された、小泉今日子への提供楽曲である。
KOIZUMIX PRODUCTION
1990年前後の小泉今日子といえば、連続ドラマの主演やその主題歌のヒットなど、メイン・ストリームでの活躍で有名である。しかしその一方では、サブカルチャー人脈とのコラボレーションも積極的に行っていた。音楽面ではハウスやダブなど、クラブ・シーンとリンクする楽曲やリミックス作品を次々と発表している。特にアナログ盤を発表する際などには「KOIZUMIX PRODUCTION」という別名義が用いられていた。
当時の小泉のマネージャーがクラブ・ミュージックを愛好していたことや、「ポップ中毒者」を自称するライター川勝正幸がブレーンとして参画していたことから、そうしたアンダーグラウンド寄りのミュージシャンとのつながりが築かれていったという。
このような活動の基盤のひとつに、1989年から1991年にかけてFM東京で放送されたラジオ番組「KOIZUMI IN MOTION」がある。番組では川勝が構成作家を務め、いとうせいこうと藤原ヒロシが選曲を担当した。ゲストと小泉との電話を盗み聞きする、というコンセプトのトーク・セッションのほか、リスナーによるリミックス・テープを募集し、その中の優秀作品をイベント「CLUB KOIZUMI」で紹介する、といった企画もあった。
確認できる範囲では、小山田と小泉の縁はこの番組まで遡ることができる。
1990年10月10日の放送には、Flipper's Guitarがトーク・ゲストとして出演している。同年12月の第2回リミックス・コンテストの際には、Flipper's Guitar+藤原ヒロシの手による「No No No」「La La La」の2曲のリミックスも発表された。これらはイベント時に放送されたのみで市販されていなかったが、1998年のアルバム『89-99 Collection』に初めて収録され、現在は配信でも入手することができる。
いずれの曲もフリッパーズ両名の演奏するギターが大きくフィーチャーされているが、それ以上のアイディアをどこまで二人が出したのかは定かでない。曲調から受ける印象としては、おそらくギター以外のリズム・トラックなどは藤原が中心となって担当したのだろうと思う。とはいえ、この制作を体験したのがシングル「Love Train」から「Groove Tube」に至る間の時期であるということは、制作手法の変遷にいくらか影響を与えているようにも思えて、興味深い。
bambinater
さて、小泉のこうした活動の流れを受け、KOIZUMIX PRODUCTION名義のミニアルバム『bambinater』が1992年12月16日に発表された。
Pizzicato Fiveの小西康陽、テイ・トウワ、Original Loveの田島貴男など、90年代ポップ・カルチャーの代表的な作家陣が名を連ね、それぞれが得意とするジャンルで楽曲を提供している。小泉のヴォーカルを軸にしたコンピレーション・アルバムとでも呼べそうな趣である。
小山田はテイ・トウワによる提供楽曲「DRIVE」にコーラスとして参加しており、小泉とユニゾンでサビのメロディーを歌っている。Flipper's Guitar解散以来、久々の歌声をここで聴くことができる。
さらに、小山田自身もアルバム3曲目の「華麗なる休暇」を制作した。ほぼ身内ともいえるカヒミ・カリィの作品を除き、全くの他人へ個人名義で楽曲を提供したのはこれが最初である。
華麗なる休暇
フランス語のサブタイトルがついていることからもわかるように、曲調は一聴して「おしゃれな」フランス風である。ウェルメイドなポップスでありながら、若々しい印象も受ける。Flipper's Guitar『Camera Talk』とも通ずる特徴だと思う。
楽しげにギャロップするリズムに乗って、「ミュゼット」風のアコーディオンとヴァイオリンが絡み合い、パリの街並を想起させる。小山田によるギターは全体をナチュラル・トーンのカッティングで支えており、間奏やアクセントとなる箇所ではアコースティック・ギターも登場する。
ちなみに、アコーディオンを演奏するCobaこと小林靖宏とは、Flipper's Guitar「Friends Again」以来の共演である。
参照元のひとつは、1962年のイタリア映画「Jessica(すてきなジェシカ)」のサウンドトラックから、「The Vespa Song」である。「華麗なる休暇」と比べると、こちらはゆったりとしてのどかな印象。テンポ感やサウンドの軽快さ、メリハリといった微妙なさじ加減が違いを生んでいる。
そして本作では、小山田が歌詞を書いていることにも注目したい。実はこれがキャリア初の作詞となる。二人でパリをのんびり旅行する計画について、地名なども交えながら順番にイメージしていくという内容だ。素直に読める歌詞で、凝ったところは少ないのかもしれないが、「〜しましょう」と繰り返される言葉遣いは曲調ともマッチしていると思う。
Alternate Version
Rapino In Kabuki 12" Mix
1993年4月7日リリースのアナログ盤『KOIZUMIX PRODUCTION VOL.2 LONDON REMIX OF BAMBINATER』には、本作のリミックス版「Rapino In Kabuki 12" Mix」が収録されている。
リミックスを担当したのはThe Rapino Brothers。UKで活躍したハウス・ミュージックのトラックメイカーのようだ。
曲調はFlipper's Guitar「Big Bad Disco」以来のハウスである。大胆なリハーモナイズが施されており、メロディーとバックトラックの調性が合っているようで合っていないような浮遊感がある。原曲の要素として残っているのは小泉のヴォーカルのみであり、小山田が作った曲としての面影はほぼ感じられない。リミックスによって全く新しく曲が生まれ変わっており、これはこれで面白いと思う。なお、このリミックスものちに『89-99 Collection』に収録された。
本作オリジナルのリリース翌年の1993年5月頃、こんどは小沢健二が小泉と共演することになる。佐藤雅彦が広告を担当したJR東日本のテレビCM「房総バケーション」である。
このとき小沢は小泉とのデュエットによるCMソングも歌っており、ソロデビュー直前の歌声がここに収められた。ただし作詞作曲は、のちの「カローラIIにのって」と同じく佐藤雅彦・内野真澄らの手によるものであるため、厳密には小沢の手がけた作品ではない。
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