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【短編小説】お見合い

いい年をして結婚をしない俺に対して
この人はいいんじゃないかと、
年上の信頼できる知人が女の人を紹介してくる。

こうして初めて女の人と会うことを俺の中では
「お見合い」と呼んでいる。
というのも、結婚を前提にして会うからである。

大人になると自然に彼女ができて、自然に結婚するものだと
思っていたけれど、俺の場合、そうはならなかった。
若い時に彼女ができて、結婚直前まで行ったことはあるけれど、
それが破局してからは、女とはさっぱり、縁というのがなくなった。

年上の信頼できる知人の紹介で、これまでに何人かの女の人に会って
短い時間ではあるが会話もしたけれど、まだ交際に至ったことがない。
女の人を紹介した人に、断られた理由を聞いてみると、
女の人の言うことは、おおよそ、決まってるらしい。
「いい人そうなんだけど...…」「仕事は安定してるけど...…」
その後が問題のようだった。

この前女の人と会ったのは日曜の午後で、場所は駅の近くの喫茶店だった。
落ち着いた雰囲気の店で、お互いにまずは自己紹介をした。
銀行に勤めているという彼女は堅実で真面目そうな感じだった。
俺が「仕事は公務員です」と言うと「安定が一番です」と微笑んだ。
結婚してないことに関しては「いい人がいなくて」と互いに言い合い、
初対面なので、それ以上、異性の話を深くすることはなかった。

お見合いには定番の質問があるが、二人の話題は自然とそうなっていった。
「趣味はなんですか」と聞かれて、俺が「趣味で小説を書いてます」と答えると、はあーと驚いた顔をした後に、俺を見る彼女の目がそれまでとは変わった。「休みの日には何をしてますか」と聞かれ、俺が「猫を見ています」と答えると、微妙な表情になり、取ってつけたように「猫って可愛いですよね」と応じた。それから、二人の会話は弾むこともなく、しばらくして別れることになった。

お見合いの話が決まらないのは俺が馬鹿正直に質問に答えるのが悪いのだろうか?しかし恰好をつけて質問に答えても、結婚をしたらボロが出るに決まっている。長くつき合うつもりなら、最初が肝心じゃないか。ましてや一緒に生活するなら、なおさらそうだろう。小説を書き猫を見る生活というのは誰にも迷惑をかけずにお金も使わないので、そんなに悪くないと思うのだけど、女の人にはいまいち受けが良くないようだった。その理由はよく分からないけれど、いい年をして小説を書き猫を見るというのは、どこか普通とはズレている変な人だと思われるのだろうか。

お見合いの話がまとまらず、もう結婚はいいかと思い始めたころ。
こんな俺にもついにいい人が見つかった。年上の友人の紹介だった。
ちょっと変わってるけど、天真爛漫ということだ。
お見合いの会話で俺がいつものように趣味を聞かれて、
「趣味で小説を書いてます」と言うと、へーという顔をして
「あなたの小説を読んでみたい」と彼女は言った。
「素人なんで下手くそですよ」と俺が言うと、
「私をモデルにして書いてみて」と言うではないか。
「というとことは、つき合ってくれるの」と俺が聞くと、
「小説の出来しだいね。読んでから決めます」と微笑んだ。

天真爛漫というより天然記念物のような稀なタイプではないか。
小説を読みたいとかモデルにしてとか生まれて初めて言われた。
そんな自由な彼女であったが、休みの日については定番の質問をした。
「休みの日は一日猫を見てます」と俺が言うと、
「若いのにおじいちゃんみたい」と彼女は笑った。
「休みの日はのんびりしたいんです」
「私も部屋でゴロゴロするのは好きです」
「もしかして、インドア派ですか」と俺が聞くと、
「ええ、日光は嫌い。ちなみに猫は好きです」と彼女は答えた。
このあとも、二人の会話は弾んで、その場でつき合うことが決まった。

つき合い始めると、俺と彼女は電光石火の早さで、結婚をした。      
まず一緒に生活をして、次に結婚届けを出し、すぐに新婚旅行に行った。
二人で一緒に生活をしてみると、彼女はまるで猫のようにマイペースだった。しかしべたべたしないクールな二人の距離感が俺にはとても心地良かった。結婚しても独身の時と同じように小説を書いて猫を見る生活は続けていた。けれど、時々、気まぐれに俺の書いてる小説を読んで、彼女は
「別の女をモデルにしてるの。私が全く登場しないけど」と文句を言う。
そして、愛する飼い猫に何かあり大騒ぎする俺に対して、彼女は
「あなたって、私より猫のほうが大切なんでしょう」と猫に嫉妬するのだ。

(おわり)

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