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無償で「食」を運び続けたおじいの話

ニンビンで仕事をゲットして、オーストラリア生活を延長する事になった僕は、ユウキ君と共にニンビンへ向かってから、既に数日が過ぎていた。

このバイロンベイ、ニンビン周辺は、エコやシェアコミュニティという文化がとても進んでる地域だそうで、大手ファーストフード店なども見かけないし、地元の人がオーガニックの食材を使って飲食店を経営してるのをよく見かけた。

今じゃオーガニックという言葉が当たり前に使われる様になってるけど、当時、オーガニックってなによ?な僕には、その町の持つ魅力の意味がよくわかってなかった。


よくわからんけど、
なんかお洒落っぽい!!
な感じだ。

飲食店によっては、払いたい金額のみをお客さんが決めて払うシステムがあったり(ドネーション)、自分が支払った分は、次の人の食べる分に回す仕組みを導入してるお店もあるんだと、後に知ってえらく驚いた。

今思えば、まさに最先端の街だ。

普通なら、そんな事をしたらきっと誰もお金を払わずに、お店はすぐに潰れてしまうだろう。
と、きっと多くの人が考えると思う。


でも、そこで暮らす人達もそれをわかった上で、しっかり対価を支払って、彼らのやってる事をサポートし合える人間関係が出来てると、なんとその仕組みはうまく回って、本当にお金のない人も、ちゃんとした食事が無償で食べられるんだと聞いた時には、感動した。
(なんで俺はその時知らなかったんだ!行ってみたかった!)

使ってる食材も、自分の畑で育ててる野菜だというのだから、もう言う事ない。


今から10年も前に、既にそんな仕組みが街単位で出来上がってて、それがうまく回ってるのだ。
サーファーと旅人が多い、このオールドヒッピータウンは、実はオルタナティブな未来都市じゃないか!


最先端て、昼間から割とゆるいみたい。


可愛い洋服 (Phattee) を見つけて店内に入ったら、中の人がさらに上を行くほど可愛かったという。



ニンビンでの生活が始まったある日の夕方、町の中心で人が集まってるのを見かけたことがあった。

なんだなんだと、近くに寄っていくと、道の一角に長いテーブルが置かれ、その上には色んな食べ物が置いてあるじゃないか。
パンや野菜、ケーキなんかもあるし、大きな鍋には暖かいスープが入っていて、20人くらいの人が集まって、みんな食事を楽しんでる様子。

テーブルの隣には、古着らしい服もどっさり積まれていて、その中の服を、自分のバッグに詰めてるおばさまや、おじさん、若い人もちらほらいる。


話を聞くと、どうやら、これを主催してる人が、この周辺の町の飲食店で売れ残った食材を集めて、無償で配ってるらしいのだ。
スープも、食品店で売れ残った食材を使って毎日作ってるんだと言う。

初めてその話を聞いた時は、きっとボランティア団体か何かの活動なんだろう。
と、ありがたく並べられたパンに野菜をサンドしたり、ケーキをつまんだりして、お腹いっぱい満たされて帰った。


その後、毎週決まった曜日になると、この場所でフリーフードが開催されていて、他の日は別の町で同じ活動をしてる事を知った。

そして翌週、またニンビンの同じ場所に行くと、前回同様、食事を並べてるおじいさんに目が止まった。

あの人がこの活動をしてるんだって。
と、同じ宿の女の子が教えてくれた。

そのおじいさんは、この活動をもう20年以上、家族だけで続けてるそうで、彼の大きなバン型の車内には、食べ物や衣類の詰め込まれた箱が溢れんばかり敷き詰められてた。(ぎゅうぎゅうのぱんぱん)



主催者のおじいさん。英語が通じないとわかると、肩をポンポンと軽く叩いて笑ってくれた。
言葉は通じなくても、目や表情を見ればその人がどんな人なのか、大体の想像はつく。


近所の人達なのか、親子や、夫婦、カップル、色んな人が来て、みんな並んでサンドウィッチやスープを手に取り、道に腰掛けて食べてる姿が微笑ましい。


古着コーナーで隣にいたレディ。
ジャージを合わせてたら、それ似合ってるわ!的な笑顔で、親指を立ててたので、僕はその服を持って帰ることにした。


カメラを向ける度、色んなポーズで決めてくれる少年。
決して食べてる所は撮らせてくれない。


人はみんなで食事してお腹が満たされると、それだけで、こんなにもハッピーになれてしまう生き物なんだ!



当時の僕は、町中の選び抜かれたお店で売れ残った食材を、わざわざ回収して周り、それを調理してさらに振る舞うという行為を、なんでこのおじいさんがやっているのか、深く考えた事もなかった。


そんな人もいるんだ。へえーすげえなー!で終わる程度。


でも、一銭にもならないどころか、時間とガソリン代や調理に必要な経費などを自腹で使いながら、人の為にそんな事を20年以上も毎日続けてるって、一体どういう心境なんだろう。
僕が世界のお偉いさんなら、毎年ノーベル平和賞を渡したって足りないくらいだ。

しかも、ここらの土地で出来た食材を廃棄する事なく、この土地の人達で使いきれるのって、環境や循環の事までしっかり考えられてる。

丁寧に作られた食材は、ゴミにせずに人のエネルギーに変えて、人も環境も循環するサイクルを補うつなぎ目の役を、彼はずっとやり続けてるのだ。

僕は自分の食べてる物が、どこで、どういう方法で作られてるのか、それまで考えた事もなかったし、ましてや売れ残った食材がどうなってるのかなんて、全く知らぬ顔で暮らしてきた。

その後、何年か旅を続けてるうち、僕はそのおじいさん家族のやってた事の偉大さに、ようやく気付き始めたのだった。



その偉大なるおじいさんの名は、Darcy Goodwin(ダーシー グッドウィンさん)
Five Loaves という団体名で活動してて、2012年に彼が亡くなったあとは、彼の意思を受け継いだスタッフの人達が現在も運営してるそう。


毎週2回、ほぼ欠かさず通ってたあのストリートで、みんなでワヤワヤと野菜をサンドしたパンと暖かいスープを食べてた至福の時間の事を、今も時々思い出すのだった。




【Five LoavesのFacebookページ】



ダーシーさんのことが書かれてる記事やインタビューを見つけた。(英語)
国や地域から、何度も賞をもらうほど、その活動は認められてた事を知って、なんだか嬉しくなった。




【インスタでも、オーストラリア編やってます】



【感想はコチラが嬉しい】


【ケニアで出会った動物達を大判のポスターカレンダーにしました】


いや、これ誰かからサポートあった時ほんまにむっちゃ嬉しいんですよ!!