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むるめ辞典

■王墓

[読]おうぼ

王の墓への侵入

[例文]

そこに並べられた車は、青いのも白いのも大きいのも小さいのも、どれも同じ方角を向いていて、ひざまづいているようにみえた。ムスクで礼拝をする人達みたいに。

流線形のフォルムの美しい旧いシトロエンもその他大勢と同じように孤独のヘリに沿ってぽつねんとしていた。外国の猟犬より黒く艶のある真新しいクラウンのバックミラーには、アニメのキャラクターのキーホルダーが取り付けられていて、高飛車な本革のシートが迷惑そうに首を傾いでいた。

ある夜、鍵のつけっぱなしになった自動車を見つけた少年がいた。翌日になるのを待って4人の少年がそこに向かった。その車は刑の執行を待つ独房の囚人のように微動だにしていなかった。誰もエンジンをかける勇気は持ち合わせていなかったけれど、車内に乗り込んだ4人は興奮と背徳に包まれて、すっかり高揚していた。

それからというもの、夜中にその車庫に向かうようになった。昼間は砂にまみれて息苦しそうにしている車の群れも、夜になると静寂につつまれた鳥のように安らかだった。その群れの間を縫うように車の間をすり抜けて車内をチェックしドアノブに手をかけた。鍵のあいた車はほとんどなかったけれど、運が良ければ隠された王の墓に侵入する興奮の音が、ガチャリと聞こえた。


サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。