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福島県甲状腺調査について対立する三つの立場

2011年の福島原発事故によって福島県民に健康影響がおきたかの調査がなされてきました(県民健康調査).事故後10年以上がたって,妊産婦や子どもについてはまったく影響がなかったことが結論づけられました.現在焦点になっているのが,事故当時20歳未満だったこどもたちの甲状腺への影響です.

甲状腺調査は現在5巡目にはいって,これまでに悪性ないしは悪性疑いが250名以上みつかっています.しかし今年4月にだされたUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の最終報告書では,福島ではチェルノブイリのように多数の放射線誘発甲状腺がんが発生するとは考えられないと結論されました.

福島県の住民の甲状腺吸収線量はチェルノブイリ事故後の線量より大幅に低いためです.また無症状者にたいして,超音波による(高精度)スクリーニングをおこなうことは,過剰診断によるデメリットをまねく可能性が高いのでやるべきでないと、現行の甲状腺調査を間接的に批判しています。

甲状腺調査についての国内の意見は,現在三分されています.ひとつは市民団体や革新政党によるもので,原発事故の直接的な被害として甲状腺がんの多発がおきているのであり,これは深刻な大問題である.甲状腺調査はかならずつづけるべきだというものです.メディアの論調もこれに近いかもしれません.

もうひとつは甲状腺がんが多くみつかるのは,将来発症する早期がんをみつけているのであり,いわゆる「スクリーニング効果」によるものである.早期治療につながるもので,現行の甲状腺調査を継続する意義はあるというものです.これは福島県および県民健康調査検討委員会の委員の多数派の意見です.

最後の立場は,UNSCEARとおなじ見解にたちますが,甲状腺調査でみつかる「甲状腺がん」は,甲状腺のなかに一生そのまま存在しているもので,とくに悪さをするものではない.超音波スクリーニングによってそれをみつけだすのは「過剰診断」であり,外科的手術をするのはむしろ「過剰治療」となります.

ここで注意していただきたいことがあります.この最後の立場においては,甲状腺検査の過剰診断問題は,被曝で甲状腺がんが増えたかどうかとは論理的にまったく無関係であることです.被曝影響があろうがなかろうが,無症状の甲状腺がんをエコーで見つければ過剰診断が発生します.それが仮に被曝によって発生したがんでもまったくおなじことが言えるのです.

検診をうけることはむしろデメリットを引きおこすため,甲状腺調査はここで終了とすべきであるという考えです.少数派の委員の意見であり,わたしもこの立場にたちます.おおくのかたに福島県県民健康調査について関心をもっていただき,甲状腺調査の問題点についてご理解いただければと願っています.

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