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間取りの中に入り込む

不動産賃貸業をホビーとして楽しむ大家さんに向けて、不動産についての解像度を上げるための連載を綴るこのnoteですが、今回のコラムで扱うテーマは「間取り」です。

間取りに決まった正解はなく、物件の良し悪しは立地やデザインなど、他にも様々な要素が絡んでくるものです。


ただ、不動産のセレクトショップ「東京R不動産」で14年超、数多くの物件のご案内をしてきた僕の経験上、より決まりやすい間取りというのは存在するのではないかと考えています。

そこで今回のコラムでは、決まりやすい間取りをつくるためのテクニックをご紹介してみようと思います。


決まりやすい間取りとは?

最初にちょっとした頭の体操から。

約33㎡の面積がある下の3つの図面のうち、間取りとして最も決まりやすいのはどれでしょうか?

外観や内装の写真はあえてなしで、間取りだけでちょっと考えてみてください。

33㎡間取り3つ

スライドと違ってnoteでクイズって難しいですが…
答えは③です。

ちなみに①と②が微妙な間取りだったので、あえて③にも微妙な間取りを選んでいます。これが人気の間取りだ!ということではありませんのであしからず。


①と②は、3層の間取りやアールがかった壁はあまりレトロ物件には見られない特徴ですから、比較的新しめな物件である可能性が高そうです。デザイナーズ物件的な雰囲気も図面から漂ってきます。

一方③の浴室内に洗濯機置場があるこのつくりは昭和30~40年代の古い集合住宅によく見られる特徴なので、古い物件かもしれません。もともと2DKだった間取りをつなげて、押入れを撤去してワンルーム化した感じでしょうか。


以前書いた「体感ベースで考える」というコラムでは、主に内見する人が現地で感じるフィーリングに焦点を当てて、間取りの考え方について解説しました。

今回は「体感ベース」の考え方への解像度をもう一段階上げるために、2つの視点を新たに提示します。


動線を塗りつぶす

内見をして、そこに住もうか検討するときには当然、持っている家具がうまくレイアウトできるか?荷物が収まるか?などを考えるかと思います。

こうした内見中の思考回路を可視化するために、人が通る動線(=物を置くことができない場所)を図面上で塗りつぶしてみましょう。


33㎡間取り3つ_動線潰し_1

まず①について。

1階は玄関ドアを開けるとすぐに階段で、階段に物が置けないので塗りつぶします。

2階は、階段を上った先はトイレのドアが開くスペース、廊下、洗濯機と洗面台の前に人が立つ作業スペースが必要なので物が置けません。つまり3階へ続く階段まで、家具などは置けなそうですよね。

3階上がって正面のキッチン周りの作業スペース、洋室に続く廊下と収納の扉が開く部分にも置けません。テラスも屋外なので塗りつぶします。


となると、この物件にベッドやソファ、TVなどの家具を配置できるのは洋室とキッチン脇に残されたわずかな面積のみであることが分かります。

ベッドや布団は必須だと考えると、くつろぐためのスペースはもはや残っていない印象ですね。。


33㎡間取り3つ_動線潰し_2

次に②についてです。

玄関から土間、廊下を介してキッチンに至るまでの通り道を塗りつぶします。各水回りの前も通り道です。

この間取りだと、ベッドを置くのはアール壁の中でしょうか。キッチン背面はせいぜい家電を置ける程度の広さで、ダイニングテーブルまでは置けなそうに見えます。

となると図面右上がリビングになり、造り付けの収納がないので洋服などは土間に置く感じでしょうか。一人暮らしはできるかもしれませんが、あまり余裕のある広さではなさそうです。


33㎡間取り3つ_動線潰し_3

最後に③はどうでしょう?

廊下のないワンルームの間取りは、塗りつぶすべきスペースが玄関側に集まっており、奥側の半分強は家具のレイアウトを悩むのに十分な広さがありそうです。

収納家具は自分で用意する必要があるものの、二人暮らしにも対応できそうな間取りに見えます。


どうでしょう、こうやって図面を塗りつぶす作業をするだけでも、同じ33㎡でも間取りによってずいぶん違うことが分かったり、内見に来る方がどんなことを考えながら物件を選んでいるかを想像できる気がしませんか?


視界の広がりを想像する

では次に、内見する方の目になったつもりで、これら間取りの現地に立ったときにどんな光景が見えるか、視野の広がりを図面上に塗りつぶして想像してみます。


33㎡間取り3つ_視界広がり_1

①は、玄関入るとまずは下駄箱と階段しか見えません。

2階は左右に壁があるため見通しが悪く、先に進むと水回りを集めただけのフロアであることが分かり、家具を置くスペースはないことを確認します。

3階も階段を挟んで空間が分かれているため、ダイニングテーブルを置くにもソファを置くにも悩ましいDKと、ベッドを置いたらいっぱいになりそうな寝室を確認します。

33㎡もあれば、あわよくば二人暮らしすらできるかも?という期待はここで打ち砕かれます。一人暮らしですら、くつろぐ場所がないという事実に一瞬パニックになり、目を確かめるためにもう一回りするかもしれません。


33㎡間取り3つ_視界広がり_2

次に②です。くどくなるので詳細な描写は控えますが、土間、廊下、リビング、キッチン、水回り、寝室の空間を一望できる角度はなく、細切れに現れる空間を頭の中で足し算して、本当に33㎡あるのか、間取り図を再確認することでしょう。


33㎡間取り3つ_視界広がり_3

では③はどうでしょうか?

玄関を開けた瞬間、バルコニーの掃き出し窓まで一望できる広々とした空間に期待を膨らませて内見がスタートします。

水回り、キッチンを見て、冷蔵庫を置く場所は左側の壁になることを確認し、電子レンジや炊飯器、コーヒーメーカーはどこに置こうか?などと考えます。

数歩先に進むとこの間取りの全貌が把握できるので、あとはどんな収納家具を置こうか、広さがあるのでこの部屋なら今の家では置けなかったダイニングテーブルも置けるかもしれない、などと妄想をするかもしれません。


間取り図の中に入り込もう!

「体感ベース」という考え方について、なんとなく想像できましたでしょうか?

先日のコラムでも書いた通り、物件を決めるとき、人はその物件が何㎡なのか?ではなく、何㎡に感じるか、手持ちの荷物が置けるか、快適に暮らせそうかといった、どう感じたか?をベースに判断しています。


では、大家の立場から、気に入ってもらいやすい間取りをつくるにはどうすればいいのでしょうか?

それは、間取り図の中に入り込み、自分がその空間に立った際の視界や、そこに住もうか検討をしている際の頭の中を想像してみることです。


たとえば75㎡の物件があるとして、75㎡ワンルームのワンフロア物件と、25㎡の3階建の戸建があるとして、どちらが広く感じるでしょう?

階段を含む25㎡の空間となると、階段や廊下を除けば20㎡前後が3層あるイメージなので、いわば新卒時代に一人暮らしをしていたワンルームの空間を3回に分けて見る、といった体感値になります。

一方でワンルームの場合、ドーン!と広い空間を見ることになるので、パッと見た印象はどうしても前者の方が広く感じてしまいます。


じゃあなんでもワンルームにすればいいのか?といえば、もちろんそんな単純な話ではありませんが、人の空間認識にはこうしたバイアスが存在するということも、頭に入れておく必要があります。


33㎡間取り3つ_動線潰し

33㎡間取り3つ_視界広がり


「人の動線 = 物が置けないスペース」を塗りつぶすこと。

「人の視野の広がり」を図面上に描いてみること。

実はこれ、物件を内見しに行くことを決める前にほんのひと手間かけることで、無駄な内見を減すためのテクニックでもあります。

この2つのステップを踏むことで、間取り図の中にグッと入り込むことができ、決まりやすい間取りをつくれる打率が上げられるかもしれません。


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