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白くてつるんとした食べ物|好きなものを好きというエッセイ

うどん、杏仁豆腐、そうめん、ライチ、クリームチーズ。
わたしの好きな食べ物には、白くてつるんとした食べ物が多い。

カラフルなものが多いなかで、真っ白な食べ物たちは主張しすぎずも気高く、清潔で、惹かれてしまうのかもしれない。
しかもつるんとした質感のものは、どんな気分の時にも食べやすくて、やさしくて、涼やかな感じを運んでくれる。

そんな白くてつるんとした食べ物の中にも、特別な存在たちがいる。



ヨーグルト

「好きな食べ物はなに?」と聞かれたら、わたしの1位はダントツでヨーグルトだ。
(ちなみに2位は餃子。)
毎日食べている。健康にいいからとかではなく、好きだからだ。

もったりとした純粋なヨーグルトがいい。低脂肪、とか砂糖ゼロ、とかじゃない、濃厚さが感じられるタイプのもの。
もったりしているのに、パックを開けた瞬間は、表面がつるんと整っていて、それを見ると美しい食べ物だなあと思う。

そこに真っ赤な苺ジャムや、とろりとした蜂蜜をかけるときなんかは、これは見方によっては官能的だな…とすら思う。大げさだけど。


わたしがここまでヨーグルトを崇拝するようになったのは、子供の頃の記憶が関係しているような気がする。

子供の頃、風邪とか仮病で学校を休むと、お母さんもパートを休んでくれて、一緒にお昼ご飯を食べた。

お母さんは食後に必ず、大きいブルガリアのヨーグルトを、パックから直接食べていた。

ダノンとか、イチゴやブルーベリーの味がついている、小さくてピンクや紫の色をしたヨーグルトしか出してもらったことがなかったわたしには、大きいパックから食べるのは大人の特権だと感じられて、心底羨ましかった。
そして甘い味がついていないヨーグルトを食べる行為は、最高にクールだと思っていた。

お願いして一口食べさせてもらったことがあるけど、酸っぱくて、よくこんなの食べてるなあ、かっこいい、と思った。子供の頃から、白いヨーグルトは、わたしの憧れだった。


それから中学生、高校生になっても、わたしのヨーグルトはいつまでも味付きの、カラフルなものだった。反抗期だったのか、親にお願いして白いヨーグルトを一口もらうことも、なんとなく小っ恥ずかしく感じられて、なかなか食べる機会がなかった。

その分、わたしの中の憧れは少しずつ育っていたような気もする。


大学に入学する春、上京して一人暮らしを始めたわたしは、真っ先にブルガリアの大きなパックのヨーグルトを、小さな冷蔵庫に入れた。
自炊は実家で練習してきたけれど、自分で作ったご飯なんかより、白いヨーグルトを、大きなパックから直接食べたかった。

子供の頃、一口食べた以来久しぶりに食べた、白くてつるんとしたヨーグルトは、記憶していたほど酸っぱくなくて、自分が大人に近づいたことを示してくれるような気がした。
一人暮らしを始めたことよりも、大人になったんだ、と感じた瞬間だったかもしれない。


上京して以来、わたしの冷蔵庫には必ずブルガリアがいる。たまに、恵に浮気したりもするけれど。
二日酔いデビューした日も、単位を落とした日も、大好きだった人と決別した日も、就職活動の間も、仕事で怒られて落ち込んだ日も、いつもヨーグルトがそばにいてくれた。
多分これからも、白くて美しいヨーグルトを、大きいパックから食べ続ける。




目玉焼きの白身のところ

「オレ、白身のとこ、だめなんだよね」
大学の頃、半分同棲していた彼に、朝ごはんを作った時のことだった。半熟と固めはどっちが好きー?と聞いたわたしへの答えが、それだった。

今思えば、なんとわがままな、とも思うけど、同棲したてホヤホヤで新妻気取りのわたしは、2つ目玉焼きをつくった。
そして黄身だけを1つ彼にあげて、わたしが黄身1つ、白身2つ分の目玉焼きを食べることが日常になった。

ちなみにわたしは半熟が好きで、かれは固めに焼いた黄身が好きだった。


嫌いじゃないけど、特別好きなわけでもない、白くてつるんとした2つの白身を前にするうちに、わたしは目玉焼きの白身のところを食べるプロになった。

①醤油
②ソース

とまあ、ここまでは割とメジャーな食べ方だ。ちなみに塩だけで食べるのはわたしの好みではないので、あまりやらなかった。

③醤油+ラー油
④ガーリックパウダー
⑤ケチャップ+ソース
⑥醤油+チューブの柚子胡椒
⑦粉チーズ+蜂蜜
⑧焼肉のタレ

いろいろ試した中で、お気に入りはこの辺りだった。

どれも、調味料自体が美味しいので、あまり特別な味がしない白身にかけたら、美味しいに間違いない組み合わせだ。でも、実際にやったことのある人は少ないのではないだろうか。
わたしも、かなりのペースで白身を2つ目の前にすることにならなければ、こんなにいろいろ試す気にはならなかったと思う。

いつも王様みたいに君臨している黄身がくり抜かれた目玉焼きは、ちょっと物寂しくもあったけど、それでも白くつるんと美しかった。
多いなと思いつつも、捨てることなんてできなくて、真ん中にぽっかり開いた穴にいろんな調味料を入れて楽しんでいるうちに、目玉焼きの白身は好物になっていった。


1年と少しが経って、彼とはお別れした。一緒に暮らしていた部屋も随分前に引っ越した。連絡もとっていない彼を思い出すことは少ないけれど、なんだか目玉焼きを焼くと、彼と朝食を食べたテーブルや、昼に近い朝の光が差し込む部屋などを思い出してしまう時がある。

たまに、黄身をわざとくり抜いて、あの頃お気に入りだった組み合わせをその穴に注いでみたりしてしまう。わたしには白身を食べるバリエーションが残り、単純な目玉焼きという料理がなんとも思い入れ深いものになった。





白くてつるんとした食べ物が、好きだ。
そういえば今日の朝ごはんはヨーグルト、昼ごはんはそうめんだったな。



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