挨拶の不思議~「おはよう」の語源ってなんだ?~

序文

 挨拶は人間関係を築くうえで一生涯必要なものだ。
 知り合いに会ったら挨拶をする、これは日常生活で当たり前のこととされ、朝から晩まで私たちは知り合いに会うと礼儀として挨拶をする。
 これはこの社会を生きるうえで基本とされ、某メーカーのキャッチコピーとして"「おはよう」から「おやすみ」まで"と上げられているぐらいだ。

 しかし、一度ふと立ち止まって考えてみよう。
 自分たちが使っている挨拶だが、「あれ?冷静に考えるとなんでこんな言葉なんだ」と思うことは無いだろうか?
 かく言う自分は小学生の頃から疑問だった。
 
 例えば。
「おはよう。」
 朝の挨拶であるが、これは別に早朝に言わなくても良い言葉である。
 語頭に付けると尊敬語になる「お」がついている。
 部下に対しての挨拶でも「はよう」とは絶対言わない。
 漢字に直すと「お早う」である。
 ―――何が早いのだ。

 「こんにちは。」
 昼頃に言う挨拶である。
 漢字に直すと「今日は。」
 今日に何があったというのか?
 主語があるのに述語が無い。
 これは夜の挨拶である「こんばんは(今晩は)」にも言える。

「さようなら」
別れの挨拶だが、漢字に直すと
「然様なら」
簡単に訳すと「そうならば」という意味だ。
「そうならば…」何が起こるというのだ。

 上は、一例である。今回はそんな挨拶について詳しく調べていこうと思う。
 種本というか参考文献は基本、小林寿雄 鈴木英夫編(2011)『新明解語源辞典』三省堂 である。
 他にも、森山卓郎監(2020)『旺文社 標準国語辞典 第八版』旺文社や山田忠雄他編(2022)『新明解国語辞典第八版』三省堂を使うこともある。

基本の挨拶

挨拶

 そもそも、挨拶とは何なのか?
 実は元々は、仏教用語である。
 「挨」は「押し合うこと」
 「拶」は「迫ること」

 である。
 同義語が重なって意味を強める漢検でよくあるあれである。
 最初は問答のようなものとして使われた言葉だったが、「受け答え」の意味が加わりやがて現在の形で使われるようになったという。


「おはよう」

 先程も述べたが、なんで早いのだろうか。
 そして語頭に「お」がついて尊敬語になっている。
 英語ではGood morning.
 直訳すると「良い朝だね。」こっちの方が断然分かりやすい。
 これの語源はそのままで、朝早く出てきた人に「早いですね」という気持ちを込めて言うようになったらしい。そしてそれが形式化して今の形になったという。
 つまり、元々は尊敬のニュアンスや「早い」の意味がついていたが、もはや今は機能していないわけである。「おはよう」という一塊の語になったわけだ。なので「はよう」とも言わないし、「お早う」とも書かない。


「さようなら」

 漢字で書くと「然様なら」である。
 文法的に正しい書き方なら「さようならば」になる。
 なので、「ば」抜き言葉だ。
 「さようならば」は現代語で「そうならば」
 なので、まあ、普通に考えると述語が無いため文法的におかしいのだ。
 元々はやはり述語があったらしい。
 述語に別れの意味がこもっていたのが、省略されて「さようなら」と使うようになったという。
 「さらば」「それじゃあ」も同じように述語が省略された言葉らしい。
 今でも「それじゃあ、また会おうね」を「それじゃあ!」とか略しているし納得ができる話だ。


「こんにちは」

 これも、「さようなら」同様、述語が略されて形式化しただけらしい。
 確かに、「今日(きょう)は良い天気ですね~」という感じで読み方は違うけれども今日(こんにち)でもよく言う。


「こんばんは」
 
 言わずもがな…これも単純に述語が省略化して形式化しただけである。


 基本的な挨拶の結論…
 単純に述語が省略化されて形式化されたものが多い。

社会人の挨拶

「お疲れ様です」
 
 
職場で「さようなら」の意味で使うことが多い。
 「お疲れ様です」の語源は『新明解語源辞典』には載っていなかった。
 そのため、他の辞典で調べてみた。
 森山卓郎監(2020)『旺文社 標準国語辞典 第八版』旺文社によれば「相手の仕事が終わったとき、労をねぎらって言うあいさつのことば」(p.149)らしい。
 比して、山田忠雄他編(2022)『新明解国語辞典 第八版』三省堂によれば、「同輩以下に対するねぎらいの言葉として用いられる」(p.199)とされている。つまり、上司に使ってはダメな言葉というわけだ。
 しかし、上司でもメールなどの文章では使うことはある。
 手持ちの電子辞書に入ってた『広辞苑 第八版』『明鏡国語辞典 第二版』で「お疲れ様」を引いたが、新明解のように同輩以下という記述はどれもなかった。なので、同輩以下というのは新明解の解釈なのではないだろうか。後、「仕事が終わったとき」限定で使うとされているのは手持ちの辞書の中では『旺文社 標準国語辞典 第八版』のみだ。
 「お疲れ様です」の謎は深まるばかりだ。「相手の労をねぎらう言葉」という点ではどの辞書も共通しているのでそれで覚えるのが賢明だろう。


「かしこまりました」
 
 
接客業でお客様に何か物事を頼まれた際に言う言葉だ。
 「畏まりました」と書く「畏怖」の「畏」を使っていることもあり、恐れという意味が入っている。
 「かしこまる」は慎んで姿勢を正すという意で、相手を恐れ敬う気持ちにより身を縮こませることから「恐縮する」や「お詫びを言う」、「承知しました」の意味に派生していった。
 自分をへりくだらせた言い方なので、当たり前だが目下の人には使わない。


「ご無沙汰しております」

 これは久しぶりに会った人に使う言葉だ。
 「地獄の沙汰も金次第」や「色恋沙汰」、「正気の沙汰ではない」のあの「沙汰」だ。
 「沙汰」は多義語で「事件」「知らせ・便り」「命令」「噂」などいろいろな意味があるが、今回は「知らせ・便り」の意味で使われている。
 そして、上につく「無」が下につくこの「沙汰」を打ち消し、
 「知らせ・便りが無い」という意味になる。
 「ご」は尊敬語にするための語頭語である。
 なので、「ご無沙汰しております」は「お知らせがない状態でおります」つまり、「長い間、便りや訪問をしないでいること」(森山卓郎監(2020)『旺文社 標準国語辞典 第八版』旺文社 p.406)という意でそこから、それを詫びる挨拶として用いられるようになったのだ。

マンガやドラマ、ゲームの挨拶

 ちょっと真面目に挨拶のこと調べて疲れてきたのでここからは漫画やドラマ、ゲームの印象的な挨拶の語源や個人的解釈をまとめていきたいと思う。

『るろうに剣心』の「おろ?」
 
 
これは挨拶というか感嘆表現に近い。
 今、続編漫画や新しいアニメがやっている『るろうに剣心』だが、主人公剣心の口癖で「おろ?」という言葉がある。驚いたときなどの「え?」っていう聞き返しの意味で使われたりする。
 この「おろ?」は「おろおろ」の略と考えられる。
(※あくまで個人的解釈)

 「おろおろ」は「おろか・おろそか」の「おろ」を重ねたもので「不十分」という意味から「うろたえる」、「どうしてよいかわからず、右往左往して取り乱す様子」(林寿雄 鈴木英夫編(2011)『新明解語源辞典』三省堂(p.200))を表す言葉に変化した。
 つまり、剣心は取り乱した際、思わず「おろ?」と答えていたのだろう。

※ここから下は、語源辞典には載っていなかったため、個人的解釈です。(当たり前)

『Dr.スランプ』の「おはこんばんちは」

 アラレちゃんの挨拶で「おはこんばんちは」というのがある。
 これは、「おはよう」の「おは」、「こんばんは」の「こんばん」、「こんにちは」の「ちは」がいつでもどこでも使える最強の挨拶である。
 だからどうしたという話だが、悟空は「おっす」が口癖である。
 「おっす」は単純に「おはようございます」を略した言葉であるので悟空は「お早う」としか言えない不届きものだ。
 一方、アラレちゃんはというと「んちゃ」「おはこんばんちは」という独自の言語を使い、相手を敬う気持ちを忘れていない…のか?

『とっとこ ハム太郎』の「はむはー」

 ハム太郎の世界において公用語として使われているハム語という独自言語の内の挨拶として使われる語である。
 ハム語は他にもあって任天堂が発売したゲーム『とっとこハム太郎2 ハムちゃんず大集合でちゅ』の公式ホームページにその多くが載っているので気になる方は確かめてみて欲しい。奥の深い言語である。


 「ちゅ」が付く言語が多いのは『おるちゅばんエビちゅ』の影響かもしれない。『おるちゅばんエビちゅ』の主人公エビちゅは人語を話せるハムスターで語尾に「ちゅ」を付けがちなのだ。
 『おるちゅばんエビちゅ』は勘違いされがちなのだが、『とっとこ ハム太郎』の原作マンガよりはるか前から連載してた漫画である。ハムスター漫画の始祖ともいえる存在だが、内容が過激なので、間違っても子供に読ませてはいけない。最近なぜか韓国で人気が出始めて続編がやっていた。

 
『野ブタ。をプロデュース』の「バイバイバイシコー」
 
 
これはもちろん『新明解語源辞典』には載っていなかった。
 「バイバイ」は英語でBye-bye.「さようなら」の意だ。
 「バイシコー」は英語でbycicle「自転車」の意だ。
 「バイ」の部分の発音が共通しているので両者を合わせて作った造語である。ドラマでは「帰る」という意で確か「自転車で帰る」際に使うというわけではなかったはずだ。単純にゴロが良いから使ってたのだろう。
 どうでもいい話をするが、この『野ブタ。をプロデュース』は原作小説があるのだが、原作では野ブタは小谷信太という男子高生だ。

 『NEEDY GIRL OVER DOSE』の「ジェルばんは!」

 最後は、最近筆者がはまっている『NEEDY GIRL OVER DOSE』のヒロイン超天ちゃん(ヒロインあめちゃんのもう一つの姿)が配信の挨拶として動画配信の最初に言っている「ジェルばんは!」について解釈して終わろう。
 「ジェルばんは!」は「エンジェル」と「こんばんは」を無理くり合わせた言葉である。
 ここからは、勝手な深読み考察(作者が絶対考えてないことを述べる)だが、「ジェル」はgelと英語で綴るが、これには固形物である「ジェル」の意味の他に「うまくいく」「(考えが)固まる」「(人が)互いに馴染む・溶け込む」という意味もあり、ゲームのストーリーを考えるとちょっと関係ある気がするが絶対そんなことないだろう…
 後、『シュタインズゲート』のヒロインまゆしいが「ゲルまゆ」になるところから取っているのかもしれない。
 ちなみに、天ちゃんのニックネームが天使なのは『さよならを教えて』というアダルトゲームの影響でもある。

 今回はここまで…
 もしかしたら他に気になった語もいつかやるかも…
 個人的に「一昨日きやがれ」と「お前何中だ?」の語源が気になる…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?