アニメ「劇場版響け!ユーフォニアム 届けたいメロディ」レビュー「「私のお姉ちゃん」を止めないで!」
アニメ「響け!ユーフォニアム」の2作目の劇場版であり
僕は前日TV放映された「北宇治高校吹奏楽部へようこそ」の様に
TVアニメ「響け!ユーフォニアム」第2期の
ダイジェスト的内容だと思ってた。
でもね。
それは違ったんだ。
第2期の第1話から第4話までかけて描かれた
「傘木希美と鎧塚みぞれの話」を全て割愛。
それだけではない。
「子供の頃から滝教諭に恋情を抱き続けた高坂麗奈の話」を全て割愛。
「死んだ奥さんの夢を滝教諭が代わりに果たさんとする」
件(くだり)を全て割愛。
「厳しい練習風景」を大幅に割愛。
「文化祭の模様」を全て割愛。
更に言うなら本作は
「吹奏楽に懸けた青春群像劇」
ですらない。
上記のエピソードを枝葉末節として全て切り,
殆ど全ての登場人物を書割と化してまで描こうとしたのは
「田中あすかと黄前久美子の話」
であり極言すれば
「「私のお姉ちゃん」を探し求める黄前久美子の話」
なのである。
黄前久美子には昔トロンボーンを演奏していた姉・麻美子がいて
久美子は姉に憧れてユーフォニアムを始めたのだ。
憧れだった姉が大学進学の受験の為に吹奏楽を止め,
「憧れの姉」で無くなった分,久美子の麻美子への憎悪は凄まじく
「お姉ちゃんはいい学校に行っていい会社に行くのが夢なんでしょう?」
とトゲトゲしい態度を取る様になる。
そんな久美子は何でも出来て何でも如才なくこなし
吹奏楽部・副部長の重責を難なくこなしてる様に思われたあすかに
「本来こうあるべきであった姉」の理想像を重ねて行く。
だからあすかが家庭の事情で吹奏楽を続ける事が困難になったとき,
久美子は恐慌を起こす。
「こんなことはあってはならない」のだ。
久美子はあすかを呼び出し吹奏楽部を止めない様説得を試みるものの
あすかの人の臓腑を抉る様な弁舌の前に説得は不調に終わりかけるが…。
久美子「私はあすか先輩と全国でユーフォが吹きたい」
久美子「わッたッしッがッ吹きたいんです!」
あすか「そんな子供みたいな事言って…」
久美子「子供の何が悪いんですか?」
久美子「先輩だってただの高校生の癖に!」
久美子「子供の癖に!」
久美子「ナニ大人ぶって小利口に立ち回ろうとしてんですか?」
久美子「そうです…私は子供です」
久美子「そうだ!私は子供の頃からお姉ちゃんと一緒に演奏したかったッ!」
久美子「お姉ちゃんと一緒にコンサートに出たかったッ!」
久美子の心中で実の姉・麻美子と姉的存在・あすかが
ドロドロに溶けて渾然一体化し
キラキラ輝く「私の憧れのお姉ちゃん」と化して行く。
久美子「こんなに言ってるのに…」「なんで諦めるんだよう…」
滂沱の涙が流れる。
久美子「私はあすか先輩に本番に立って欲しいッ!」
久美子「あのホールで先輩と一緒に吹きたい…ッ!」
久美子「先輩のユーフォが聴きたいんですッ!」
「「私のお姉ちゃん」を止めないでッ!」
久美子の一世一代の大説得が炸裂する!
本作に於いて関西大会での演奏も全国大会での演奏も
「どうでもいいこと」
であって久美子が「私の夢」って
「子供のエゴ」を通そうとした事の方が100万倍重要なのです。
久美子の「激重感情大爆発」こそが「本作品の見所」なのだ。
従って本作のラストシーンは
卒業したあすかと久美子の別れの場面が描かれるのだ。
あすかを呼び止める久美子
あすか「なになに?恋の相談?」
いつも通りおどけて見せるあすか。
久美子「その通りです」
だが最早久美子はあすかへの恋情を隠そうとしない。
もう久美子は騙されない。
ガチのストロングスタイルがあすかの急所だと
今や久美子は知っているのだ。
久美子「私…あすか先輩のことが大好きです」
「私のお姉ちゃん」を止めないでくれてどうも有難う。
あすかは聡いから
「ワタシはアナタの「お姉ちゃん」じゃない」
なんて言わない。
あすかは「返事」の代わりに1冊のノートを渡す。
そのノートにはあすかの元の父親・新藤が作曲した
ユーフォの曲のタイトルが走り書きされている。
「響け!ユーフォニアム」
作品タイトルを回収し久美子は2年に進級して
滝教諭の厳しい指導の待つ校舎に向かいながら映画は閉じる。
僕は「面倒臭いオタク」で.この映画を観てアニメの2期全13話を
観て欲しいと思ってるのは「本当の気持ち」だが,
この映画は「2期のダイジェスト」を超えて
「映画として素晴らしい」
のであって映画も等しく愛して貰いたいと祈念する気持ちに
噓偽りは一片もないのもまた「本当の気持ち」なのだ。
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