本多勝一「アムンセンとスコット」レビュー
南極点初到達を競ったアムンセンとスコット。
スコットに関してはA・チェリー・ガラードの「世界最悪の旅」,伝記作家シュテファン・ツヴァイクの「南極探検の闘い」等で「悲劇の人」「悲運の人」と描写され,彼が遺した遺書は最期迄任務を全うしようと試みた「責任感の人」である事が判明して更なる涙を誘った。
対して南極点到達競争の勝者のアムンセンについて触れられる事は少なかったと思う。
勝者より敗者に寄り添う判官贔屓は本邦の専売特許ではないのだ。
特にスコットを送り出した英国の怒りは凄まじく英国地理学協会会長カーソン卿はアムンセンを講演に招いて昼食会にも招待しておきながら「極点到達の殊勲者はソリ犬なのだから拍手はソリ犬に対して贈りたい」と面と向かって彼を侮辱したのだ。
本書ではアムンセンの生い立ち,探検家を志した動機,彼が極地探検の為に行った入念な準備について触れ,彼が南極点到達に成功した理由を結論して行く。
反面スコット隊に対しても分析し,失敗の原因の幾許かは彼の浅慮に基づく判断ミスにあると結論する。
しかしながらスコット隊の献身的努力を軽んじるものでは決してなく,隊員たちの最後の描写は目頭が熱くなる。
本書の解説文を執筆された作家の山口周氏は本書を「組織とリーダーシップ」を考えるに当たって最高のケーススタディであると受け取られた様だ。
極左の本多氏の書籍が今や企業のビジネス講座の副読本である。
本多氏は「ちっとも嬉しくない」と思うよ,きっと。
本多氏は非常に左寄りで岸信介元総理を「A級戦犯岸信介」と呼び,「南京大虐殺はあった」と主張し右翼に命を狙われ常に変装してる程で思想的には到底共感出来ない向きも多いだろう。だが氏は冒険に関しても一家言があり,その主張は思想に関係なく傾聴に値すると思う。
Amazonの本カテゴリで「本多勝一」で検索すると「日本語の作文技術」と本書がヒットして文庫化を知った次第である。
思想的に偏向した本は絶版となり「綴り方読本」や「「組織とリーダーシップ」を考えるビジネス書」が生き残る事に隔世の感を覚える。
是非とも(思想的に比較的偏向してない)「マゼランが来た」も文庫化して欲しい。