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水玉螢之丞さんの「SFまで10000光年」レビュー「パッと咲き散る花火の様に」

本書はSFマガジン1993年1月号から2002年12月号まで連載された
水玉螢之丞氏のイラスト入りコラム
「SFまで10000光年」を書籍化したものである。
(但しSFマガジン1998年1月号に掲載された
「SFまで10000光年スペシャルメガミックス SF者すごろく」は解説の
大森望氏曰く「主にページ数の都合から」本書には収録されていない。)
また水玉氏は本作品の連載終了から8ヶ月後,
表題を「SFまで100000光年」と改め(光年の桁(ケタ)が1つ増えている)
SFマガジン2003年9月号から2014年12月号まで全130回連載されており,
そちらは「SFまで10万光年以上」というタイトルで書籍化されている。

素朴な疑問として,なぜ本コラムが,
これまで書籍化されなかったのか,もっと有体に言えば,
水玉氏が逝去されて初めて書籍化されたのかが気になるところではある。
僕は本書を読む前は両疑問に対する回答を
「早川書房の怠慢」と思い込んでいたが巻末の大森氏の解説を読むと,
どうも僕の思い込みとは「違う」のではないかと思われてきた。

2014年12月13日に水玉氏が逝去された際,水玉氏の実兄である
軍事評論家の岡部いさく氏はツイッター上で,こう「呟かれて」いる。

「ずいぶん前だけど妹が「自分の仕事は画集や単行本として残らなくていい消えてなくなるものだ」と言ってた。」
「ご大層なものにならない,祀り上げられるようなものにならない,
という自分と仕事に対する矜持は私なんかよりもっと強かった。」
「自分が偉くなったり自意識を満足させるより
「ぎゃはは,こりゃおかしい」,「こりゃ面白い」と人様が,自分が,
感じる瞬間だけのために絵を描く,ってのを妹は目指してたんだろうな。」

…大森氏は上記の「呟き」を手掛かりにこれまで本コラムが
書籍化されなかったのは「早川書房の怠慢」が原因ではなく
水玉氏の「信念」に因るところが大きいのではないかと推測されている。

「自分の著作は書籍化なんてしなくていい」

が水玉氏御本人の希望だったのではないかと。
当然ながら今となっては「答え合わせ」のしようのない疑問に対しては
推測以上の回答は存在しない。

ともあれ本コラムがこうして書籍化されたのは
早川書房を筆頭とする関係各位の尽力があればこそである。

本書を読むとコラムの内容はSFに留まらずゲーム,アニメ,漫画,映画,小説,
PC,フィギュア,人形の衣服の裁縫等々,実に多岐に渡り
また正直「SFマインド」が心もとない僕にとっては
一読しただけでは理解が困難な局面に非常にしばしば出くわしてしまう。
因みに僕の「SF脳」を恥ずかしながら一部開示すると

「好きなSF小説が子供向けに平易に書き直された
アイザック・アシモフの「鋼鉄都市」」
「好きなSF漫画が横山光輝氏の「マーズ」」
「好きなSF映画がリドリー・スコット監督の「エイリアン」」
「好きなSFアニメが宮崎駿監督の「未来少年コナン」」

うーん…僕の「SF脳」は1980年以降,「まるで成長していない」…!
そんな僕でも本書を愉しめるのは
本書に様々な「フック」が用意されているためだ。
全体像の把握は困難でも
「フック」の内容が琴線に触れる部分だけなら何とか分かる!
因みに僕の琴線に触れた「フック」の内容を列挙すると、

「アニメ版「セーラームーン」」,「少女革命ウテナ」,
「ストリートファイターシリーズの春麗」,
「サムライスピリッツシリーズのナコルル」,「島村ジョー」,
「スーパーマリオ」,「大槻ケンヂ」,「くいだおれ人形」,「ガラスの仮面」,「「ストレス」を歌う森高千里」,「アニメ版「炎の転校生」の主題歌」,
「ウルトラ警備隊隊員の人形(女子)」,「特捜ロボ ジャンパーソン」,
「スラムダンクの流川」,「ブリキの太鼓のオスカル」,「イヤミ」,
「チビ太」,「バーチャファイターのジャッキー」,
「シャイニング・フォースCDのマリアン」,「ランドストーカーのライル」,「葉隠覚悟」,「堀江罪子」,「アンジェリークのクラヴィスさま」,
「魔法陣グルグル」,「銃夢のガリィ」,「ジョルノ・ジョバァーナ」,
「空条徐倫」,「ドドドドド」,「ゴゴゴゴゴ」,「渚カヲル」,
「ファイアーエムブレム 聖戦の系譜」,「神聖モテモテ王国のファーザー」,「あずまんが大王」,
「「セガのゲームは世界いちぃぃぃ!」のドリームキャス子」,
「少林サッカー」,「ゼルダの伝説のリンク」,「THEビッグオーのドロシー」,「ヘルシングのアーカード」…。

…切りがないので,この辺で止めておくが
上記の「フック」は本書の「フック」のほんの一部に過ぎないのである。
思わず「ウッキャー!!!」と叫びたくなるのである。
この「フック」の名称の数々だけでも
水玉氏がカバーされている「守備範囲」の広さに驚かされる。

そしておそらくSFに造詣が深い方が本書を読まれたなら夜空いっぱいに
輝き瞬く星々のように無数の「フック」を見い出されるのであろう。
その「絶景」を目撃できないことが無性に口惜しく自身の不明さを
ただひたすらに情けなく思う。

「フック」のおかげで「間口」は広いが「奥」は相当深いと思われる
本作品を描いた水玉氏を,その圧倒的に深い知識と洞察力から
「思想家」と呼びたくなる誘惑に駆られると大森氏は告白されている。

本書の巻末にはコラムの副題とその元ネタの一覧と本レビューを記入する際,大いに役立った大森望氏の解説が掲載されている。

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