話し言葉と書き言葉 ①
話し言葉と書き言葉について考えてみる。
この二つの厳密は違いは何かと言われると非常に曖昧なように思われる。
よく言われるのは、話している時のような言葉遣いが話し言葉で、文章に書くときに使うのが書き言葉であると言うことだが、これでは何も説明になっていない。
話し言葉を書く人たちもいるし、人によっては書き言葉のような話し方をする(少し面白い)人もいる。
ここに厳密な定義を求めるのは難しいかもしれないが、話し言葉と呼ばれるものには、いくつかの特徴があるように思う。
その特徴を、カジュアルであるとか、フランクなどと説明しているものも多くあるが、それらは印象であって、これらの言葉の特徴を説明したものではない。これらの言葉を受け取った結果、どう思うかというものである。
それらの説明は、話し言葉の特徴の説明として倒錯してしまっている。
さて、本題。
ひとつ目にして最も大きな要素は、音に忠実な書き方をすると言うこと。
これらは、言文一致の時代から長く経っていない、もしくは最中にある人々の文章である。梶井は言文一致の時代からは少し遠いものの、この特徴を表すには好例であるために持ってきた。
当時は明確に話し言葉にどれだけ近づけられるかと言うことも考えられていた。有名な話ではあるが、「浮雲」に関しては、三遊亭圓朝の落語を参考にしている。
これらの、音に忠実であろうとする姿はわかりやすい。
咳の音、少し伸びて話す時の母音、文末にある調子を整えたり印象のためにある語、感動詞のように使われる「まあ」、そして、言葉と言葉の間の間を示す「…」と、いかにも「話している言葉」の音を表そうとしている。
他にも、穏便、略語などは話し言葉に分類されるが、これも使っている言葉の音を忠実に表そうとしている結果なのだろう。
他に現代になってきて表れ始めている面白い例がある。
我らが、久保田ひかるの「■りある」での一節。
「?」が、本来の使われ方を逸脱している。これはチャット系のアプリに慣れている方なら使ったことも多くあると思われるが、疑問を表さない「疑問符」である。読んでいただければわかるように、ここでは疑問を投げかけているわけではない。強いていえば強調くらいのニュアンスになる。
それでは何を表そうとしているかといえば、語尾の音変化となる。
軽く調べたところによれば、疑問符の日本での使用は明治期頃くらいからと言われているらしい。それは、言文一致の中で疑問を表す言葉を使わずとも疑問を表さなければいけなくなったからではないかと思う。そのため「?」を使い「疑問」を表していた、その副産物として音変化があったのだろう。しかし、現代ではチャットなどで話している感覚が強いためか、疑問の意味を持たせない「?」の使い方をする。
しかし、それもお互いに疑問でないことはわかっている(不思議なことに)。
ここで重要なのは、「?」が意味を表すと言うよりも、音として表象され始めていることである。おそらく話し言葉は内容を捉えようとしているわけではないと言う点である。これが、二つ目の理解につながる。
二つ目の特徴としては、文法的な正しさに無頓着という点である。
よく言われるものが、文頭に置かれる「なので」や「だから」がある。
詳しくいえば、語の成り立ちを辿れば付属語である助詞が文頭に来てしまったり、合わせても付属語のみで文節を作ってしまうことになるため違反であるということになる。
文法とはなんぞ、といった話になりかねないが、ここでは意味のつながりや役割、その関係性という程度に限定しておく。その補助や規則の中に現れるのが、音の並びの規則ではないかと思う。
そのように考えれば、書き言葉と話し言葉が分かれなければいけない理由にもつながる。
例えば、契約書などの厳密な約束が必要な文章においては解釈の多様さがあると困ってしまう場合がある。それを厳密に縛るためには、この言葉を使い、このように並んでいるときには、このようなルールによって、このように解釈するという必要がある。
しかし、ひとつ目の特徴にある「音に忠実」である話し言葉は、「?」の例からもわかるように意味や内容からには、少し無頓着である。また、いちいち咳払いなどを書いてしまっては契約書が何枚必要になるかわからない。そこに、間を持たせてお気持ちを表明したところで意味がない。
こうして考えてみると、若者言葉や略語が話し言葉とされるのは、厳密なルールに従っておらず、しかし現実には存在しているためであると考えられる。
逆説的に、書き言葉はルールに忠実な言葉であると考えてよさそうである。音の忠実さよりも、「意味、内容の厳密さ」に準拠した言葉であり、統一的である必要のある言葉としてもよさそうである。
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