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【ショートショート】ハイキングタワー

「ねぇ見て見てお父さん!お母さん!東京タワーがついてくる」

後部座席で娘がはしゃいでいる。

長期休暇で祖父母の家に顔を出した帰り道。

東京タワーのそばを通ると娘は窓ガラスに張り付いて騒いだ。

「こら、大人しく座ってなさい」

私がたしなめるが娘はそわそわと落ち着かない。

「ははは、大きな建物はそんなふうに見えるんだぞ。不思議だな」

運転席の夫は笑って返す。

まったく、夫がこうも甘いから娘のしつけは全部私にまわってくる。

「すごーい!大きな建物は歩けるんだね!」

娘はおでこがひっつくんじゃないかというくらい窓に顔を近づけた。

建物が歩く、なんて私が小さい頃はそんな発想を持っただろうか。

どうだっただろう。思い出せない。

「なんで東京タワーは走ってるの?」

「変なこと言ってないの。さあ、もうちゃんと座ってなさい」

娘に正面を向かせる。

いつからだろう。私が現実にしか目を向けなくなったのは。

「ホントなのに」

娘は悲しそうな顔をしてうつむいている。

その表情が胸を締め、私は窓の外に視線を逸らした。

東京タワーは止まってるようにしか見えない。

私にも昔、あれが歩いてるように見えたんだろうか。

どうだっただろう。思い出せない。

✒あとがき

読んでくださってありがとうございました!

東京タワーとかスカイツリーとかっていつまでも追ってきますよね。

家まで連れて帰りたかった。

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