七つの前屈ep.捺鍋手愛須編｢振り撒くハクアイ～溢れ、愛。～｣⑦

7.


「『アセクシャル』──性的嗜好を有さない人間を、そう区別するらしい。『無性愛』、ともいうんだと。男だろうと女だろうと関係なく、人間に対して、恋愛感情ってもんを一切持た
ねえやつらのことだ。あ？　なんでそんなこと知ってるのかって、そりゃあ……まあ、いろいろあんだよ。相手に感じる自分のそれになんて名前をつけるのかなんて、くだらねえ話だが
──ぶっ壊してやりてえ文脈だが──名前がついてねえもんを放ったままにしておくのは、気味がわりいからな。好きでも嫌いでも、なんでもいいから、それがそうだと証明できるなに
かしらの答えを求めちまうもんなんだろうさ、ヒトってやつは。だからお前のそのバカみてえな恋心もひょっとしちゃあ、自分を見失わないための釘差しにしか過ぎねえのかもしんねえ
ぜ……ま、俺の知ったことじゃねえけど。痛みを感じなかろうと恋愛なんてできなかろうと、それは悪いことにも、弱いことにもならねえもんだぜ。……退屈、ではあるのは、まちがい
ねえが」