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本を読んだ#1【日の名残り】

カズオ・イシグロ著(土屋政雄訳)
「日の名残り」を読んだ。

きっかけ

2018年頃、本屋の文庫コーナーでうろついていると、

「すみません」

若い男性がメモとペンを持って微笑みかけていた。
え、気持ち悪い。

「時事通信の者なんですけど」
「はぁ」
「村上...」
「(なんで名前知ってるんだ気持ち悪い!!)」
「春樹さんの本を見てらっしゃいましたけど、お好きなんですか?」
「あ?あ〜...そうですね」
「今ノーベル文学賞の有力候補ですけど」
「(え、そうなの?)ほんとですね。受賞して欲しいですね。私も村上なんで(てきとう)」
「本当ですね!受賞したら今の記事に使わせて頂きます!!」
「」

なんてことがあり、結局その年も村上春樹さんは受賞を逃していた。(なので記事にもされなかった)

しばらくしてふと、これだけ毎年のように有力候補と取り沙汰されながら受賞していないのは何故なのか。
そもそも、ノーベル文学賞は何に対しての賞なのか。気になって調べてみた。

ノーベル賞のウェブサイトによると、ノーベル文学賞が与えられるのは

“The person who, in the literary field, had produced “the most outstanding work in an ideal direction”.

とある。
an ideal direction「理想的な方向性」とは、いかに。

ひとつ先に言えるのは、そもそもノーベル賞自体が、人類の福祉に最も具体的に貢献した人々に授与される賞であるため
少なくとも、人々に良い影響を与えるものを生み出した、ということ。

理想的な方向性という曖昧な言葉は、その解釈が時代によって変化していっているようだ。

ならば実際に受賞した人の代表作を読んで実感してみよう。
ということで、当時最新の受賞者だったカズオ・イシグロさんのブッカー賞受賞作「日の名残り」を手に取った。

あらすじ

品格ある執事の道を追求し続けてきた主人公のスティーブンス。
敬愛するダーリントン卿の死後、ダーリントンホールはアメリカ人のファラディ氏の手に渡り、スティーブンスもファラディ氏に使えることになる。

ファラディ氏の留守の間、スティーブンスは車旅行に出ることになり、
かつての同僚である女中頭のミス・ケントンを訪ねることに。

物語は、スティーブンスがミス・ケントンを訪ねる旅路で、ダーリントン卿に仕えていた1930年代の回想を中心に展開する。

結果は誰にもわからない。ならば...

スティーブンスは旅の途中で、過去の自分の行いに対して想いを巡らせる。
あのときああしていたら、あのときあんな事を言わなければ、
今どんな未来になっていただろう。

私たちは正解のない時代にいる。

スティーブンスやダーリントン卿のように、信じて決断した身が、後に過てる道である事もある。

進撃の巨人のリヴァイ兵長も言っていた。

「結果は誰にもわからない」

2020年3月現在、WHOがパンデミックを宣言した、新型コロナウイルスの感染拡大も。
未来に何が起こるのか、過去から学び、現状を整理して、予測する。
そして、自分が正しいと思う道へ進むしかない。

それは過てる道かもしれない。

それでも、一瞬一瞬、そうやって決断していくしかない。
その積み重ねが、希望のある未来だと信じるしかない。

作中では、そのように何かを信じ、力を尽くすその過程を肯定的に捉え、読者を励ましているように受け取れる言葉がある。

それは正解のない世界で生きる私たちに、一つの an ideal direction として、提示されているように感じる。


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