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お義母さん、お母さんって呼んでもいいですか?

義母は優しい人だ。人に手を差し伸べることを知っている人だ。
わたしたち夫婦が困っていると、必ず手助けしてくれる。
何度も見捨てる機会はあったと思う。
それでも手を伸ばし、わたしたちを守ってくれた。

義母との初対面は最悪だった。
レストランで義父、義母、わたしたち夫婦で食事をしたのだけど、義母は苛々を隠さずにいた。

「二十歳の女の子なんてすぐ他に目移りするわ」

当時、わたしは二十歳になりたて、夫は二十代後半。
要は若い二人が一緒になっても駄目になるだけ、と言いたかったのだろう。

「いえ、夫さん以外にもう考えられません」

もう夫の朗らかな人間性に泣きたくなるほど惹かれていたわたしは、義母をまっすぐ見て言った。
義母は言いたいことを押し込めるように水を飲んだ。

結婚してからも、義母との歯車が合うことはなかった。
それなのに、新居を見つけてくれたり、家財道具を揃えてくれたり、柔らかい優しさが滲み出ていた。

しかし、日曜にみんなで食事に行こうと義父が言っても、義母は家から出てこなかった。わたしに会いたくないのだろう。想像は容易にできた。

ひとりかけた三人で、決まったレストランで食事をする。
お義母さんがいたら、なんで言ったかな。
食事が楽しければ楽しいほど、かけた穴から風が吹いた。
「お義母さんにお土産にすんねん」
お義父さんはちょっぴり寂しそうに、レストランに併設されているケーキ屋でケーキを買っていた。

変わったのは、私が病気になってからだ。
引きこもりがちなわたしを「いいから行こう」と、美味しいうどん屋さんに連れて行ってくれた。
人前だと手が震えて箸も持てないわたしのうどんを一口大にきって、食べやすくしてくれたのは義母だ。
かなり情けなく、しかしそれ以上に優しさが身に染みた。

段々と雪解けのように、義母の頑丈な氷で出来た城が溶けていく。
出てきたのは、少し頑固な、そして人にとてつもなく優しい人だった。

お義母さん?わたしは貴女をお母さんとよびたいのです。
あたたかな貴女を、お母さんと呼ばせてください。

お母さん、ねえ、お母さん。

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