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土瓶が、下がる。/黒史郎・妖怪補遺々々

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」! 今回は、藪や枝に〝下がる〟土瓶の怪異を補遺々々します。

文・絵=黒史郎 #妖怪補遺々々

なぜ、その姿に……

 古い道具や棄てられた道具が、化けて妖怪となる――そんなお話があります。茶器、仏具、食器、その他日常品に目や口や鼻が現れ、角や手足や尻尾が生え、歌い、踊り、飲み食いし、時には人々を脅かします。このような「道具が化けた妖怪」は絵巻や昔話から採集できます。

 道具がなるお化けの姿は、およそ元の道具がもつ形状や機能などに影響されるものと考えられますが、元が道具ではなく狐狸や、その他の動物、鬼、怨霊といったものが化ける道具の姿の妖怪には、「なぜ、それを選んだのか」と訊ねたくなるものもあります。

 妖怪には薬缶(やかん)の姿をしたものがあります。いわずと知れた湯沸かし道具。その薬缶が、木から下がる、坂から転がり落ちてくる、といった怪異は各地で類例を見つけることができます。
【ぶんぶく茶釜】はその代表的な例ですが、狐狸など「化ける」とされた動物の変身のバリエーションとして、湯沸かし道具は欠かせないものなのかもしれません。

 次にご紹介するのは、京都府竹野郡(京丹後市)網野町に伝わる、土瓶(どびん)の怪です。

和尚VS土瓶

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