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ロズウェルで目撃したUFO墜落の痕跡/保江邦夫・UFO墜落現場探検記(5)

湯川秀樹博士の最後の弟子にして武道家、そして伯家神道の祝之神事(はふりのしんじ)を授かったという異能の物理学者・保江邦夫氏は、もうひとつ「UFO研究家」の顔を持つ。20余年前に材質に関する研究報告の専門誌「バウンダリー」(コンパス社)に連載されていた「UFO調査」がここに復活!

文=保江邦夫 前回はこちら

前回までのあらすじ

 1994年4月アリゾナ州セドナで開かれた国際会議での出会いをきっかけに、筆者一行はUFO調査の冒険へ繰り出すことになる。
 調査の中で、アメリカ大陸の先住民を指導していたノルディック宇宙人のアナサジの存在や、現在エリア51と呼ばれる場所がもともとは彼らの地下施設であったこと、来たるアナサジの地球帰還へアメリカ政府が備えていることを確信する。天文学や素粒子物理学の発展のために建設されるはずだった巨大な電波望遠鏡や超伝導粒子加速器などが、宇宙人対策のものだったのだ。

物理学者としての苦悩

 ソコロからロズウェルへ抜けるハイウェイ380号線は、ニューメキシコ南部に特有のなだらかなメサの上の広大な起伏を一直線に東西に貫き、まさに荒れ野の中の一本道というにふさわしい雰囲気がありました。闇の支配がだんだんと強くなる方向へと向かう私達3人の右手側には、エリア51と同じように一切の民間人の侵入を禁じた広大なホワイト・サンズ実験場を隔離する山並みが続いています。ドライブマップと車外の景色を見比べながら、スコットが口を開きました。
「マリーもクニオも知っているだろうが、あの山の向こうには、真っ白な砂が果てしなく広がった砂漠を隔離したホワイト・サンズと呼ばれる空軍のミサイル試験場があるはずだ」
 マリーは、車窓を眺めたまま答えました。
「先生が前に言っていた、アメリカで最初に原爆実験をやったところね」
「そうだよ。その場所はトリニティ・サイトと呼ばれ、記念碑的のようなものがあるらしい。愚かな科学者を記念して、というわけさ。なあクニオ!」

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ホワイト・サンズミサイル試験場の看板?

 急に話の矛先が私に向けられた理由が第2次世界大戦末期にヒロシマとナガサキに落とされたアメリカの原爆のことだと気づいた私の口をついて出てきた言葉は、疲れ切った自分の意志とは無関係な、それでいて何か真実を含んでいるようなものでした。
「なあ、2人とも。我々物理学者が大自然の神秘を解きあかしていく方法のうち、半分以上はまちがっていたんじゃないだろうか。その典型的なものが、あの山の向こうで行われた原爆実験だったんだ」
 マリーは鸚鵡返しに問いかけます。
「半分以上?」
「そう、半分以上。というか、現在ではほとんど全部といってもいい。だって、いくら僕ら理論物理学者が理論的に何かの結論を導いてみたところで、一応は実験で確認されなければ真実にはなり得ないという考えが学界を支配しているからね。そして、この実験というやつが、我々人類の科学にとっての諸刃の剣だった。実験なんて、本当は必要なかったんじゃないだろうか。実験に頼りすぎたからこそ、我々物理学者は原爆などという愚かなものを作り出すはめになったんだ。理論だけで満足してさえいれば、あのヒロシマやナガサキの悲劇は現実のものとはならなかったし、山向こうのトリニティ・サイトにも美しい花が咲いていたはずだ。物理学は理論物理学だけにしておくべきだったのかもしれない。そうしていれば、数学と同じで、誰も殺したり傷つけたりすることもなかったはずさ。だって、そうだろ。いままで、愚かな数学者が考え出した数式で、だれかが殺されたことがあったかい?」

 私自身、自分が発している言葉の内容に戸惑いながら、それでいてある面では第三者的に納得していることに驚いてもいました。まるで誰かにしゃべらされているかのようです。いつしかスコットとマリーは真剣な顔になり、黙り込んでしまっていました。やっと自分の意志で身体を操れるようになった私は、逆に2人のあまりの真剣さに狼狽えてしまい、慌ててその場を取り繕ったのです。
「ははは、これはとんでもない高慢な理論物理学者の戯れ言さ。自分でも嫌になるくらいね」
 重すぎる沈黙を最初に破ったのは、気丈な大和撫子でもなければ、カナディアン・ロッキーの麓で育った好青年でもなく、完全な暗闇に支配された原始の世界さながらの荒野から立ち上る巨大な一閃の稲妻でした。
「クニオ、道のすぐ近くに落ちたぞ、今の雷は」
 助手席からのスコットの声をかき消すように、今度は左後方から激しい閃光とともに耳をつんざく雷鳴が飛び散ったのです。
「すごいわ。まるで、私たちの車を狙っているみたい!」
 マリーの戯れ言に信憑性を与えようとしたのか、ニューメキシコ南部の雷神は矢継ぎ早に稲妻の矛先を我々の行く手に投げ降ろしてきました。
「どこかに避難したほうがいいな、クニオ!」
 何発もの雷の至近弾に怯え始めたスコットが声をかけたと同時に、車外の暗闇に猛烈な水しぶきが舞い立ち、エクスプローラーのフロントガラスは滝のようになったのです。
「これじゃ、どこにいても同じよ。いっそ、このまま突っ走ったら!」
 マリーに急かれるようにして、私は辛うじてヘッドライトに浮かび上がる舗装道路のセンターラインだけを頼りに、荒れ狂う雷神の刃をかわしながらニューメキシコの原野を走り抜けていきました。

「しかし、さっきのソコロといい、これから行こうとしているロズウェルといい、昔UFOが墜落して、その原因が落雷だと聞いたときには、こう考えたものさ。まあ、百歩譲ってUFOの実在を認めたとして、いくら何でもそのUFOがニューメキシコの荒野の上空を飛行しているときにうまく雷が落ちるなんてあり得ない。しかし、こいつは考えが甘かったね。モントリオールなんて、ほとんど雷が落ちることもないから、ついそう信じ込んでしまったんだが、このニューメキシコのメサはまさに雷の目抜き通り。なるほど、百聞は一見に如かずだ。こんなところを飛んでいたんじゃ、どんな超ハイテクUFOだって、雷の直撃でお陀仏だ。この借り物のエクスプローラーだって同じこと。クニオ、まだ街の明かりは見えないか?」
 スコットに促された私は、ヘッドライトが照らし出すわずかな空間に釘付けになっていた眼を緩め、少し前方の暗闇を凝視しました。
「ねえ、2人とも。いま道路標識があったわね。チラリとしか見えなかったんだけど、他にもよくあったようにどこかの村の名前らしき文字の下に10ってあったから、あと10マイルでこの荒野も終わりになるんじゃないかしら?」
 マリーが見た標識がイリュージョンでないことを祈りながら、私はマイレージメーターを0に合わせました。
「よし、あとはカウントダウンだ。このスピードでいけば、10分といったところかな。もうかれこれ2時間近くも激しい雷の中を突っ走ってきたんだから、いくら何でもそろそろ終わりにしてもらってもいいだろう。それに、あと少しでとにかくどこかの村に着くことが分かったら、安心したのか急にお腹が空いてきた。今日は次の村で泊まることにして、せめて何か旨いものを食べようじゃないか。明日の朝早く起きれば、午前中にロズウェルに着くだろうし……」
 マリーもお腹が空いていたとみえて、すぐに反応しました。
「そうね、この車はクニオのタウンカーよりずっと乗り心地が悪くて、これ以上この石のようなシートに座っていたらお尻が堅くなってしまうわ」
「そりゃあ大変だ! 大和撫子にとっては致命的だな」
 ニヤリとしながら冗談を飛ばしたスコットのおかげで、車内はやっと緊張感から解放され、それと同時に滝のような雷雨も跡形もなく消え去り、フロントガラスを挟んだ暗闇の前方に仄かな街の明かりが見えたのです。

「カリゾゾ。ヘンな名前の村ね」
 マリーの声を後ろに聞きながら、スピードを落としていった私には、それが村とは名ばかりの、単に2本のハイウェイの交差点の四隅にそれぞれ古いガス・ステーションが2軒とレストランが1軒、それに小さなモーテルが1軒あるだけの場所としか映りませんでした。
「クニオ、こいつは何も悩まなくてもすむぞ。モーテルはたったの1軒、そしてレストランもたった1軒。こいつは、ご機嫌だ」
 スコットのジョークを聞き流しながら、私はエクスプローラーを交差点の手前の右側にあった小さなモーテルの駐車場に向けたのです。幸いにも、事務所の前には手書きでVacancyとありました。
「まあ、とにかくこれで今夜の宿にありつけたわけだ」
 車を降りながらのスコットの言葉に、マリーは早口で釘を刺しました。「まだ分からないわよ。空き部屋がひとつだけの場合は、お2人は仲良く車の中で寝るわけだから。ま、バスルームくらいは貸してあげるわ」
 大きいジェスチャーで肩をすくめてみせたスコットは、マリーのために事務所のドアボーイをして先に通した後、私のほうに向き直って耳打ちをしました。
「大和撫子ってのは、腹が減るとイラつくのかね?」

ロズウェル事件の真相を語る男

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