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トランプ大統領を産んだ陰謀AI「Qアノン」が築く”新仮想秩序”の脅威/宇佐和通

ロシアゲートをはじめとした数々の疑惑をうやむやなまま、トランプ大統領の地位は盤石なものとなっている。その強固な岩盤を固めるのが「QAnon」と呼ばれる匿名の熱狂的な支持者たちだ。
しかし、この支持者たちは本当に自分の意思でトランプ大統領を応援しているのか? もしかしたら何ものかに、知らずしらずコントロールされているのではないか? QAnon現象のような次世代情報戦は、今や世界中で日常的に潜んでいる。実態は、いわゆるエコーチェンバー現象どころではない。
(ムー 2019年6月号掲載)

文=宇佐和通

まさかのトランプ大統領を産んだQAnonの正体

 日本時間2016年11月9日午後。テレビやネットで、世界的イベントといえるアメリカ大統領選挙の開票速報をリアルタイムで見守っていた人は多かっただろう。そして時間の経過とともに、アメリカ3大ネットワーク各局で放送されていた特別番組のキャスターたちが心なしか声の張りを失っていくことに気づいた人もいたに違いない。

 まさかドナルド・トランプ候補が大統領になることはないだろう。
 大多数の人間がそう思っていたはずだ。

 ところが、その「まさか」な展開の戦いに勝ったトランプ大統領の誕生が、就任以来2年間にわたってさまざまなインパクトをもたらしつづけている。
 だが、まず考えていただきたい。2016年の大統領選挙におけるトランプ候補の勝利は、本当の意味で「まさか」だったのだろうか。

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イラスト=PIXABAY

 2017年1月20日の就任式を迎えるころになると、「なぜトランプ大統領が生まれることになったのか」「トランプ大統領誕生を決定づけた理由は何か」という方向性の議論が盛んになりはじめた。民主党の牙城だった“ラスト・ベルト”(ペンシルベニア、オハイオ、ミシガン、ウィスコンシン各州)での勝利。意外にも高かったマイノリティーからの支持率。そしてヒラリー・クリントン候補の国務長官時代の私用メール問題。
 勝利へつながる目に見える形の要素もさまざまあった。しかしそんななか、トランプ氏は“意図的に生みだされた大統領”であるという説が囁かれはじめ、時間の経過とともに説得力を強めていった。

 やがて、決定的な出来事が起きる。
 2017年10月、アメリカの匿名イメージボード型SNS(画像掲示板)「4chan」に、Qというハンドルネームの人物が、とある文章をアップした。Qのプロフィールには「アメリカ政府の機密情報にアクセスできる権限を有する」とあった。
 文章はいわゆる陰謀論で、彼――あるいは彼ら――の主張によれば、トランプ大統領とその支持者に敵対する“ディープステイト”という反政府勢力が存在し、さまざまな陰謀を画策しているという内容だった。
 この文章はトランプ大統領支持者の間で瞬く間に拡散し、各地で開かれる集会で「I am Q」(私がQである)とか「Q: The Great Awakening」(Qは偉大な覚醒)などと書かれたプラカードや横断幕を掲げる人が多く見られるようになった。やがてディープステイトに関するバリエーションに富んだ文章がネット上でさらにアップされるようになり、トランプ大統領支持層の内部にQAnon(キューアノン)という概念が生まれた。QのAnonymous(名もなき)支持者たち。転じてQの熱狂的支持者というニュアンスの言葉だ。

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 一連の流れを時系列的に追っていくと、“Q”の存在は大統領候補指名選挙あたりの時点から芽を出していたようだ。
 それが民主党のヒラリー・クリントン候補との激戦となった選挙戦最終盤に本格化し、現在はトランプ大統領支持層のマジョリティーから支えられ、なかでも熱狂的なグループがいつのころからかQAnonと呼ばれるようになった。そんな図式が見てとれる。
 ただ、Qもディープステイトも存在が確認された個人、あるいは組織や団体ではない。ならばQとは何なのか。
 QAnon現象そのものを陰謀論として見る人たちがいる一方で、少し前から、Qの正体は超高性能AIではないかという仮説が浮上しはじめている。
 すべてを陰謀論という言葉で片づけるのは簡単だが、事実はそう単純ではなさそうだ。そして、トランプ大統領はAIによるSNSを通じた世論操作によって生みだされたと主張する意見は根強い。こうした見立てをするのであれば、トランプ大統領を生みだしたのはQを名乗るAIにほかならないということになる。

情報の価値に事実かフェイクかは関係ない

 AIがSNS経由で拡散する情報がアメリカ大統領選挙の結果まで左右するとなれば、現実社会にもたらされる影響がきわめて大きくなることはいうまでもない。ただ、こうした形で世論が形成されていく過程はすでに普通のことだと受け止めるほうが正しいかもしれないのだ。
 ごく最近の例を挙げれば、あのユリ・ゲラーがSNS経由でEU離脱の手続きを進めるメイ首相に対する公開書簡を発信して注目された。SNS経由で拡散する情報が世論に影響を与えるという意味では、同じ方向性の話といえるだろう。

 こうした風潮の背景には、既存メディアではどうにもならない、あるいは、もう信用できないという、いわゆるサイレントマジョリティーが抱いているそんな思いがあるはずだ。トランプ大統領も、意図的かどうかは別にして、こうした思いに敏感に反応する姿勢を見せている感が否めない。

 QAnon現象を下支えする大きな要素として挙げておきたいのが、トランプ大統領が多発する「フェイクニュース」というフレーズだ。日本に伝わってくるニュースの内容を見る限りでは、トランプ大統領は自分に都合の悪い事実はすべてフェイクニュースという言葉で切り捨てる態度が目立つ。

 QAnonから見れば、アメリカの主流派マスコミはすべてディープステイトの陰謀によって支配されており、アメリカを超大国に戻そうと努力しているトランプ大統領を潰すための計画が着々と進んでいる、ということになる。反トランプ的な論調の記事はすべてフェイクニュースという言葉で斬って捨てられるのが当然というメンタリティが根本にあるため、トランプ大統領がこの言葉を発するたびに、QAnonは理屈抜きにその存在感を強めてしまう。

 こういう状況を見て、筆者は思う。いわゆるネット世論をリードする“支配者”がいたとしたらどうだろうか。個人レベルで自由に情報をやりとりできるようになった現状を利用し、ネットから始まって実社会の世論を特定の方向に持っていこうとするものが存在したら……。そして支配者の座に就いているのが、すでに人間ではなくなっているとしたら……。現時点で、こうした可能性を完全に否定することは不可能に思えるのだ。

 現代人にとって、情報の価値判断基準は事実かフェイクかという二極構造ではなくなってきている。判断基準は、強いていうなら、触れていて心地よいかどうかだ。ミーム(meme)という言葉がある。ごく簡単に定義するなら、次のようになる。「人類の文化を進化させる遺伝子以外の遺伝情報であり、たとえば習慣や技能、物語といった人から人へコピーされるさまざまな情報を意味する科学用語」――と。
 こういおう。たとえば、触れる人を心地よくさせるミームを自由に操るAIが存在するとしたらどうだろう。“それ”はミームを通じて、新しい仮想秩序(New Virtual Order)とでも呼ぶべきものをいとも簡単に構築してしまうだろう。こうした状況はすでに実在するのではないか。そんな疑念を抱く人がいたとしても、検証はとても追いつかない。AIの進化のスピードのほうが格段に速いからだ。

世界規模でネット世論を先導するAI

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