宿の2階/黒史郎・化け録
日常に突然姿を見せる怪異の記録、化け録。
今回は、仲のいい姉妹の間にあらわれた、姉妹だからこそ気がつけた奇妙な話。
文=黒史郎
挿絵=北原功士
その宿の2階には
K美さんには双子の妹がいる。顔は見分けがつかないほど似ているが、性格、趣味、好みといった他の部分は面白いほど正反対であるという。
そんな姉妹には、あることに関しても決定的な違いがあった。
30年ほど前まで、伯父が富山で民宿を営んでいた。
海の近くの高台にあるこじんまりとした木造2階建てで、1階が住居、2階が客室だった。
毎年、家族で泊まりにいき、客室ではない1階の部屋を使わせてもらっていた。決まって宿泊客がひとりもおらず、民宿のなかは妙に静かだった。
客がいないので、2階へは自由に行かせてもらえた。客室からの眺めは素晴らしい。連なる緑の山々、濃い青の海、遠景に架かる赤い高架橋と、その橋をのろのろと往く田舎電車が見える。小さいころから大好きな窓景色だった。
毎年、夏休みと冬休みには必ず泊まりにいったが、高校に入学した年からパタリと行かなくなった。それについて親からはとくに理由などは聞かされなかったが、大人の事情があるのだろうとK美さんは察し、なにも訊かなかった。
だが、妹は違った。旅行がなくなったことに不満をあらわにし、親に猛然と抗議したのである。
無理もなかった。
妹にとって一年のいちばんの楽しみが、年に2度、伯父の民宿に泊まることだったのだ。妹はあまり活発なほうではなかったが、なぜか伯父の民宿に行くと異様なほどにはしゃぎ、口数も増え、そわそわして落ち着きがなくなる。民宿にいるときの妹は、活き活きとして見えたという。
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