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病院から飛び降りた影の正体は……/あなたのミステリー体験

曰くつきの土地や事故物件。出入りの激しい宿泊施設。これらは、代表的な心霊スポットといえよう。人が生き死にする病院もそのひとつ……。あなたが病院で見た人影は本当に“人”だったのか。それとも……。

イラストレーション=不二本蒼生


飛び降りた人影

◆Sさん/愛知県(37歳)
 今から半年ほど前でした。
 その日、私は仕事のために帰りが遅くなり、車で自宅に向かったのはすでに22時半を少し過ぎたころでした。そんな時間のせいか自宅に向かう県道には、私のほかに数台が走っている程度でした。
 県道の途中の左側に、5階建ての市立病院があります。ちょうどその手前の交差点の信号が赤になり、私は車を停めました。信号が変わるのを待ちながら、何気なく病院の建物に目をやり眺めていました。
 すると、屋上に何やら人の姿のようなものが見えました。こんな時間に病院の屋上に人が……と思いながら目を凝らして見ると、それは確かに人です。
 それだけではありません。さらに目を凝らして見つめると、どうやらその人は屋上の高いフェンスを乗り越えて、こちら側に立っているようなのです。
 私は焦りました。ちょうど目の前の信号が青になったので、すぐに車を発進させて病院の玄関へと続く道に乗り入れました。とにかくこのことを、急いで病院関係者に知らせなければと思ったのです。
 しかし、夜の病院の玄関はすでに閉ざされています。私は玄関前に車を乗り捨て、夜間受付の入り口を捜しました。
 そのとき、さっき人が立っていた屋上のほうに目をやると――なんと今まさに、そこから人が飛び降りた瞬間だったのです。
 私は思わず「アーッ!」と声を上げていました。同時に、きっとその人が落ちただろうと思われるあたりを目指して走りだしていました。
 あんな高いところから落ちて、無事なわけなどありません。私の脳裏にはすでに、無残に潰されて血まみれになったご遺体の映像が鮮明に浮かんでいました。
 ところが、なぜか息を切らして駆けつけた場所のどこにも、遺体が見当たらないのです。
 何度もさっきの人が立っていたと思われる屋上を確認して、その真下と思えるあたりを歩き回ってくまなく捜しましたが、なにも発見できませんでした。
 そして、やがて私は自分の目を疑いはじめました。あれは、きっと何かの見間違いだったのだ。そうに違いない、と。
 それでもなお、自身でなんとなく納得できない気分のまま車を停めた病院玄関のほうに向かうと、なんとその途中に夜間受付の入り口がありました。いったんは首を振って通り過ぎたものの足を止め、迷いながら結局、その入り口に入りました。
 そのときちょうど、30代半ばくらいの看護師さんが通りかかり、私と目が合いました。
「どうしました?」
 と、優しく訊かれた私はしばらく口ごもったあと、自分の見たことを話してみました。すると――その看護師さんの顔が、何やら急に青ざめ真剣になり、やがて、
「……そんなこと、きっと、何かの見間違いです。忘れてください」
 というなり、いきなりサッと私に背を向け、薄暗い廊下のほうへ走り去っていったのでした。
 それから数日後、私は今から2年ほど前に、その病院の屋上から飛び降り自殺をした患者さんがいたことを知りました。では、私が見た人影は……!?

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研究室の香り

◆Kさん/愛知県(58歳)
 数年前、私が愛知県内のとある仏教系大学の大学院に所属していたころの出来事です。
 その日、研修会があり、私と友人が院生室に戻ったのは夜8時を過ぎたころでした。
 院生室の扉を開けると、窓がすべて開けはなたれていて、窓から強い風が吹きこんでいました。おまけに天井の蛍光灯も煌々と灯っています。
 ほかの院生は皆、院生室には寄らずに帰ってしまいました。私と友人だけがその日のうちに持ち帰らなければならない私物があったので寄ったのです。
「不用心ねえ……」
 などといいながら、私たちは窓を閉めはじめました。
 そのときです。突然、部屋中にこれまで嗅いだことのない花の香りが立ちこめました。しかし室内には花などありません。もちろん私も友人も香水などつけていません。
 決して嫌な香りではありませんでしたが、得体が知れない香りなので無気味でした。しかもその香りはなぜか私たちが窓を閉めるたびにだんだん強くなります。香りの源はまったくわかりません。まるで部屋全体が生きていて、得体が知れない匂いを発散させているとしか思えないような妙な気分でした。
 私たちふたりは何やら怖くなり、すぐにここから出ようと声をかけあいました。
 次の瞬間、部屋の外の廊下の蛍光灯が点滅を始めたのです。それは一定間隔でゆっくりと繰りかえされる点滅で、蛍光管が古くなって起きるような点滅ではありません。だれかが私と友人を怖がらせるためにやっているとしか思えませんでした。
 私は院生室の扉を開け、廊下を窺いました。廊下の蛍光灯のスイッチは一か所。しかしそこにはだれもいません。不思議なことに私が覗くと同時に蛍光灯の点滅が止みました。首を捻りながら扉を閉めると、またすぐに点滅が始まりました。
 わけがわからないため、簡単に院生室から出ていくことができません。
私と友人はそのまましばらく身を寄せあうようにして、廊下の点滅を眺めていました。一方で、例の花のような香りは少し弱くなったような気がします。
 そんな状態が5分くらい続いたでしょうか。私たちはようやく決心し、部屋から出ることにしました。
 ところが友人が窓のカーテンを閉めようと手を触れた瞬間、なぜかあの花の香りが一気に強く部屋中に立ちこめたのです。
 私は思わず「キャッ!」と叫び、仮眠用ベッドの上に置いてあった自分が持って帰るはずのパソコンの入ったバッグに手を伸ばしました。するとその瞬間、目を疑うようなことが起きたのです。
 何とベッドの上の重いバッグが、手を触れてもいないのにピョーンと高さ20センチほど跳ねあがったかと思うと、そのまま30センチくらい向こう側に着地しました。まるで私から逃げるかのように。
 あまりの出来事に、私と友人は悲鳴を上げ、同時に跳びあがりました。
 その後、どうやって院生室から逃げだしたのかは、まったく記憶がありません。気がつくとふたりとも外に出ていました。
 ハアハアと肩で大きく息をしながら、ようやく私たちは立ちどまりました。そして、院生室のほうを振りかえったときには、すでに廊下の蛍光灯は点滅していませんでした。このときの不思議な現象は、今も鮮明に覚えています。

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川へ釣りに

◆Oさん/大分県(25歳)
 すでに故人である母方の祖父は、川釣りを趣味にしていました。そのため、暇さえあれば近所の川へと出かけ、釣りを楽しんでいたそうです。
 そんな祖父にも、どんなに釣りに行きたくても気軽に出かけられない期間がありました。それはお盆の時期です。
「お盆の間は霊の動きが活発になりますからね。釣りはもちろんのこと川に近づくことも絶対に止めてくださいね」
 と、いつも祖母からきつくいわれていたからです。
 それでも、釣りがしたくてたまらなかった祖父は、お盆の期間中にも、祖母の目を盗んでこっそりとよく川に出かけていたようです。
 そんな祖父のことを祖母はすべてお見通し。祖父が釣りから帰るたび、祖母からたっぷりと小言をいわれたことは一度や二度ではなかったようです。
 そんなある年のお盆の時期のことです。そのときも祖父は釣りに行きたい誘惑に負けて、こっそりと川へと出かけたそうです。
 当然、祖母にバレないわけがありません。祖父は帰ってきてからひとしきり祖母の小言を聞かされることになったのですが、その後異変が起きました。
 その日の夜、なぜか徐々に祖父の体調が悪くなったのです。真夏だというのに寒気を訴え、頭から毛布を被って部屋の隅でガタガタと震えはじめました。
 その様子を見て、祖母はお盆に川へ釣りになど行ったから、きっと悪い霊にでも取り憑かれたのに違いないと確信したそうです。
 そのころ祖母には、隣町に住む霊能力者と呼ばれている女性の知り合いがいました。
 さっそく祖母はその女性に電話し、祖父の状態を詳しく伝えて相談をしたそうです。
 するとその女性は祖母の話にうなずき、
「それでは今から遠隔でお祓いをしますから、電話を切ってそのまま待っていてください」
 と、いってくれたそうです。
 祖母は不安ながらも電話を切り、なおもガタガタと全身を震わせつづけている祖父の様子をそばで黙ってジッと眺めていました。
 それから1時間がたったころでしょうか、何と祖父の震えがピタリと止まったのです。青ざめていた顔にも次第に血の色が戻り、さっきまでの苦悶がウソのように元気になっていったのでした。
 祖母がその状況を隣町の女性に伝えてお礼をいうと、
「恐らく(祖父は)とてもいい人なので、何とかしてもらいたい霊たちが集まってきやすいのだと思いますよ。だから、とくにお盆には絶対に川などに釣りには行かせないほうがいいですよ」
 と、いってくれたそうです。
 確かに祖父は、人格が優れていたようで、まわりの人たちからもとても好かれていました。
 私自身、いつも優しく面白かった祖父のことがずっと大好きでした。
 もっとも、隣町の霊能力者からも家族たちからも止められているにもかかわらず、祖父はその後も、
「川に呼ばれている」
 などといって、お盆の期間中に、懲りもせずに川へ釣りに行っていたようですが。
 私の母は結婚して家を出るまで、毎年、お盆期間に川釣りをして、祖母に叱られている祖父の姿を見ていたそうです。

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すぐそこにある不思議

亡くなるまでの憑依
◆Tさん 山口県(40歳)
 友人のS子の小学生のころの体験です。S子には年に数回顔を合わせるくらいのN君といういとこがいました。
 ある冬の寒い日の深夜12時ごろだったそうです。S子が突然、苦しみだしました。S子のお母さんによれば、
「苦しいよう、頭が痛いよう」
 と、訴えるその声が、まるで人が変わったかのような野太い男の声だったので、驚くと同時に気味悪がったそうです。
 彼女の母がすぐに救急車を呼ぼうとしたのですが、間もなくS子が静かになり、何事もなかったように眠ってしまったそうです。
 翌朝早くS子の家の電話が鳴りました。お母さんが電話に出ると、何とN君が昨夜12時ごろに亡くなったという知らせでした。
 その訃報に接し、初めてお母さんは昨夜のS子の苦しさを訴えた声がN君にそっくりだったと気づき、愕然としたそうです。でも、いとことはいえ、ふたりはそれほど親しくもなかったのに、なぜ!?
女性部屋のベッドに
◆Kさん 埼玉県(24歳)

 昨年9月、高校時代からの友人R子が、ある病気で都内の某大学病院に入院したことを知り、お見舞いに行ったときの出来事です。
 R子は4人部屋に入っていました。その病室の入り口を開けて中に入ろうとした瞬間、私は思わずハッと息を呑み、その場に足を止めていました。なぜか入ってすぐの右側のベッドに、痩せて青白い顔をした中年の男性が入院患者用の衣服で寝ていて、ジロリと私を睨んだからでした。
 私はあわてていったんドアを閉め、入り口脇の入院患者の名札を確かめました。4人部屋でしたが、3人の患者名しかなく、その中に間違いなくR子の名前もありました。しかもそのすべてが女性の名前で、男性のものはありません。女性専用の病室に男性患者などいるはずがありません。
 私はその場でひとつ大きく深呼吸をすると、思いきって再び病室のドアを開けました。すると――入ってすぐ右側のベッドは空っぽで、だれかが寝ていたような痕跡すらありませんでした。では、さっきのあの男性の正体は!?


小林世征の心霊相談室

 1年を通して霊が一番活発に動くお盆。この時期、霊が好む水場へ行くのはおすすめしません。
 黄田さんのおじいさんと似た体験談が私の友人にもあります。
 仲間と連れだち、お盆に海にサーフィンに行った友人。悦に入って波乗りを楽しんでいたときのことです。突然、何者かに足を引っぱられました。恐怖を感じた友人は、以後、海に入るのを止めました。それに対し仲間は、「こんなにいい波が来ているのにもったいない」といい、サーフィンを続けました。やがて時間が経過し、帰宅。しばらくたってからのことです。仲間が亡くなったという知らせが友人に届いたのは……。
 倉本さんは、お見舞いに行った際、女性の4人部屋でベッドに横たわる男性を目撃したとのこと。倉本さん自身、想像しているように、この男性はすでにこの世にいない存在です。
 ではなぜ女性部屋にいたのか。それは、男性がこの病室で亡くなったのではなく、このベッドの上で亡くなったため。ベッドに男女の区別はありません。空きが出ればベッドメイキングを施した後、ほかの病棟で使用することはままあることです。
 ベッドに横たわっていた男性は、病に打ちやぶれて死を迎えました。現世に未練を残したまま……。どうか1日も早くこの男性が成仏できることを願うばかりです。

(ムー2020年7月号掲載)


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