天空の神と人を結んだ”アナサジ”を追う!/保江邦夫・UFO墜落現場探検記(2)
湯川秀樹博士の最後の弟子にして武道家、そして伯家神道の祝之神事(はふりのしんじ)を授かったという異能の物理学者・保江邦夫氏は、もうひとつ「UFO研究家」の顔を持つ。20余年前に材質に関する研究報告の専門誌「バウンダリー」(コンパス社)に連載されていた「UFO調査」がここに復活!
文=保江邦夫
前回までのあらすじ
1994年4月アリゾナ州セドナで開かれた国際会議での出会いをきっかけに、筆者一行はUFO調査の冒険へ繰り出すことになる。
ラスベガスの近くのブルー・ダイヤモンド・ヴォルテックスの巨大なトンネル、アラモの奇妙な発光編隊、そしてレイチェルの「エリア51リサーチセンター」と、”フリーダム・リッジ”から望んだ「基地」の存在……。
一行は、はるか昔からアメリカインディアン達がアナサジと呼んでいた種族が作り上げた地下施設の情報を求め、次なる目的地を目指す。
グランドキャニオン大洞窟
3人とも久しぶりにぐっすりと眠ったおかげで、次の日の朝は早くから気分良く目を覚ますことができました。昨晩は皆ワインを飲みながらリブ・ステーキをほおばって寝てしまったため、胃袋だけはくたびれているようです。モーテルの受付にあるコーヒーとクッキーだけで簡単な朝食をすませ、私達はルート66を朝日に向かって走り出しました。
しばらく行くと、道沿いにしきりに「グランドキャニオン大洞窟へようこそ」と書いた看板が目につくようになりました。
「クニオ、あのグランドキャニオン大洞窟って看板は、この前ここを通ったときにもあったけど、いったい何なんだい? 地図を見ると、グランドキャニオンにはまだだいぶあるようだが」
残念ながら私も知りません。
「いや、聞いたこともないな。まあ、何かの洞窟で、看板があるところを見ると、観光客に開放しているんだろう」
私は人の多い観光地になど興味もないので、素っ気なくそう答えながら「グランドキャニオン大洞窟入り口」と書いたひときわ大きな看板を通り過ぎようとしました。その瞬間、私の脳裏を、ふとあのアラモのガス・ステーションのお爺さんが教えてくれたアナサジが残した地下施設の話がかすめたのです。
私は他に車も走っていないルート66の道幅をふんだんに使って、ゆっくりとUターンしました。
「どうしたの、先生。キングマンに忘れ物?」
「なあ、マリー、それにスコット。やっぱりあのグランドキャニオン大洞窟とやらに寄ってみてもいいかい? ちょっと気になるんだ」
スコットはマリーのほうを振り返り、いたずらっぽく笑います。
「なあ、マリー。寄ってもいいかいと聞くときには、もうこの高級車は向きを変えてしまっているわけだからな、ここはひとつ君の先生の気の済むようにしてやろうじゃないか」
「ええ、もちろんよ。それに、ひょっとしたら面白いところかもしれないし。ほら、見て。大きな恐竜がいるわよ」
マリーに言われたスコットが体を戻すと、ビジター・センターらしき丸太の建物の前に恐竜の模型が置かれていました。
「へえ、ひょっとすると洞窟の中には恐竜がいるのかな?」
笑いながら車を降りたスコットに続いて、私とマリーも建物の中に入っていきました。中は半分がレストランで、残りの半分が土産物売場になっていましたが、朝早いため他に客は見当たりません。レジカウンターの前まで行ったスコットは、座って何か計算をしていた女性に声をかけました。
「ハイ。お早う。このグランドキャニオン大洞窟って、中に入れるのかい?」
顔を上げた女性は、後ろの値段表を指し示しながら、ガイド付きの徒歩ツアーがあるが、まだ時間前だから今は無理だと申し訳なさそうに告げたのです。
「そうか、残念だなあ。この後ろの人はね、遠く日本からやってきた地質学の専門家なんだよ。これからグランドキャニオンの調査に行くんだけど、ハイウェイを走っていたらこの洞窟の看板が目に止まってね、ガイドの僕にどうしてもここに寄ってくれと言ってきかないんだ。まだ若いけど、日本の地質学界じゃあかなり有名な学者らしいぜ。だからさあ、時間前なのは分かるんだが、何とか入れてもらえないかなあ」
何を言い出すのかと私もマリーもびっくりするやら呆れるやら、しかしすぐにスコットの真意を理解して困った顔をして女性を見つめます。
「そうしてあげたいのは山々なんだけど、ガイド付きでないと危険だし、彼らもまだ勤務時間前だから……」
ますます申し訳なさそうに口ごもるカウンターの女性の背後から、野太い声があがりました。
「それなら、俺が行ってやるよ。あと1時間も待たせるのは、はるばる遠くからやってきた学者さんに悪いからな」
どうやらすでに出勤し待機していたガイドのようです。
「でも……」と追いすがるレジの女性に、ガイドらしき男性は「それに、俺もここでまずいコーヒーを何杯も飲んで待機しているよりも、中を案内していたほうが楽しいからな。ボスだって、ちゃんと入場料を払ってもらえれば、文句もあるまい」と微笑みかけ、軽く肩を叩きました。
すかさずスコットが女性に入場料を握らせます。
「さあ、俺についてきな。洞窟の入り口はあっちだよ」
まだ何かぶつぶつ言っているらしき女性に背を向け、私達は男に引き続き旧式のエレベーターに乗り込みました。
「このエレベーターは俺と同い年か少し先輩ってところだ。ケーブルが切れることもあるかもしれないが、保険には入っているから心配ないぜ」
冗談とも本音ともとれる口調のガイドさんは、笑いながらスイッチを押します。ドアが開くと、そこはひんやりとした、それでいて極度に乾燥しきった空気が充満した闇の世界。よく見かける鍾乳洞とは、まるっきり違う世界が開けていたのです。
「こいつは睨んだとおり、すごい洞窟ですね、教授」
スコットはまだ演技を続けています。私は初めて目にする景色に頷きながら、適当に調子を合わせました。
「これは日本ではお目にかかれない乾燥洞窟だ。フランスにはジュラ山系があるから、ひょっとしてこんな大洞窟は多いかもしれないが、気候的には乾燥洞窟にはならないでしょうな、マリアンヌ博士」
急に火の粉が飛んできたマリーは一瞬私を睨みつけましたが、すぐにすました顔になり、こう言ってのけました。
「おっしゃるとおりですわ、ヤスエ教授。ジュラ山系には多くの鍾乳洞や洞穴がありますが、中はほとんどが水浸しで、地底湖になっているのが普通ですね。ここのように、まったく水分を含んでいない地底洞窟は初めてです。連れてきていただいて光栄ですわ。ガイドさんも時間前なのに親切に案内してくださって、ありがとう」
キラーパスをあっさりさばかれ、ゴールまで決められて、私とスコットは降参とばかりに肩をすくめました。
「女は皆女優だって言うけど、本当だな、クニオ」
演技とも知らず、ガイドさんは外国から来た地質学の権威達が感心してくれたため、とても気分良さそうに説明してくれました。アメリカ大陸がまだ海底にあった頃の原始的な藻の化石やら、9000年前にこの大洞窟に落ち込んでしまった何とかザウルスが這いあがろうと必死でもがいてつけた壁面の爪痕やその化石、その後西部開拓時代に落ち込んでそのまま乾燥してミイラ状になった山猫などなど。
バクテリアや細菌も72時間以内に死滅するという湿度6%の大乾燥庫の威力に感心しながらガイドさんについていった私達の目の前に、突然山のように積み上げられた明らかに軍事物資とわかるケースが現れました。
「ガイドさん、これはどう考えても何万年も前の化石ではないけど、いったい何なんだい?」
スコットに尋ねられた男は、笑いながら答えてくれました。
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