みづき

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みづき

JP/EN Writer, traveler, scent enthusiast 日英ライター、旅好きの香りフェチ

最近の記事

私と卵と、これから。それから。 第四話

あれから気がついたら、あっという間に4年が経ち、迎えた2021年夏。 現実はそんなに甘くないらしい。 まぁ、薄っすらわかってはいたけれど。 コロナ禍で2回目の誕生日を迎えいよいよ30代最後の歳になった時、焦燥感は一気に肥大した。誕生日前日、言葉にしがたい気持ちを持て余して一人涙を流す程度には、なんだかいっぱいいっぱいになっていて漠然とした焦りに視界が狭くなっていくような感覚がした。 そして何よりも自分を苦しめたのは、胸が締め付けられるくらいの焦りを感じながら、その焦りが一体

    • 私と卵と、これから。それから。 第三話

      35歳だけど、まだこれから誰かと出会って恋愛して家庭を築くチャンスは十分にあると思っていたから、「もう時間ないでしょ」と暗に告げる先輩のその言葉は鋭く刺さった。 失恋して間もない脆い私の心には特に、傷口に塩を塗られるってこう言うことかと思うくらいには痛く感じた。 今になって振り返って考えてみればわかる。 その先輩や同僚は悪気なく、その年齢の、30代半ばの女性として当たり前に考えなければいけない現実を言葉にしてくれただけだということが。 そして、素直にその言葉を聞き入れていれば

      • 私と卵と、これから。それから。 第二話

        40代の自然妊娠率の平均が4割以下だなんて知らなかった。 卵子の質が35歳を過ぎたあたりから急激に低下するなんて知らなかった。 体外受精でも子供を授かる確率が40歳だと50〜75%くらいだなんて、パートナーもなく予定も立てられない39歳の時に、正直知りたくなかった。 年齢とともに妊娠しづらくなることは想像がついていたし、タイムリミットがあることも頭では理解していたつもりだった。ただ具体的な数字を突きつけられると、あまくない現実に動揺を隠せなかった。 急な情報の嵐に狼狽える私

        • 私と卵と、これから。それから。

          2021年、夏。卵子を凍結した。 昔から子供は好きだった。「いつか自分の子供が欲しい」と漠然と思っていたし、結婚して子供をもつことが「普通」で、自分も例外なく大人になったら結婚して子供を持つのが当たり前のことだと思って一度も疑わなかった。周りのみんながそうであるように、私もいつか自分の家族を持つ、そういう未来が間違いなくあると思っていた。 ところが2021年初夏、思い描いていた「家族と子供をもつ未来」、当たり前だと思っていた「普通」は訪れる気配すらなく、なんならパートナー候

        私と卵と、これから。それから。 第四話

          新しい旅の予感

          わずかなスパイスと砂糖をふんだんに入れたコーヒーの香り。それらをまとった柔らかな早朝の空気を、年季の入ったスピーカーから流れるコーランが震わせる。寝ぼけ眼をこすりながら窓の外をみれば、熱心に祈りを捧げる人々。響き渡る音の中で目にしたその光景は、凛とした静寂の中にあるようだった。 パリッとした白シャツを連想させるイスタンブールの朝 同じような凛とした静寂を再び感じたのは、人よりも神々の方が多く住むと言われるカドマンズ。土埃をあげながら行き交うバイクを避けて歩けば、仏教やヒンズ

          新しい旅の予感