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新しい旅の予感

わずかなスパイスと砂糖をふんだんに入れたコーヒーの香り。それらをまとった柔らかな早朝の空気を、年季の入ったスピーカーから流れるコーランが震わせる。寝ぼけ眼をこすりながら窓の外をみれば、熱心に祈りを捧げる人々。響き渡る音の中で目にしたその光景は、凛とした静寂の中にあるようだった。
パリッとした白シャツを連想させるイスタンブールの朝

同じような凛とした静寂を再び感じたのは、人よりも神々の方が多く住むと言われるカドマンズ。土埃をあげながら行き交うバイクを避けて歩けば、仏教やヒンズー教の寺院を多く目にする。一歩それら寺院の敷地内に踏み込めば、しっとり空気中の湿度が増すような静寂がそこにはあった。
内面と向き合うネパールの昼下がり

夕映えを受けキラキラ踊るアドリア海を城壁から眺めていたはずが、突如降り出した雨。びっしょり濡れながら雨宿りを兼ねて駆け込んだワインバーには同じように雨に振られ笑いながら席に着く客たち。
せっかくならと頼んだワインと想像以上に多くきてしまったつまみを持て余し、隣のカップルに少しどうかとすすめる。話を聞けばその数時間前プロポーズが成功したばかりで婚約ほやほやなんだとか。だったらお祝いだ!と、気がつけばお店全体が祝賀ムードに包まれていた。
心温まるドブロブニクの夕刻

これまで数十カ国を旅してきたけれど、まだまだ見たことがない世界を見たいし、そこで生活する人々の日常に触れてみたいと思う。いろんなコト、モノ、人に出会える旅は、新しい自分にも出会える贅沢な時間。
だから、旅はやめられないし「一度は行ってみたい場所」をあげ出したら、きっときりがない。

ペルーのクスコ市街とマチュ・ピチュの歴史保護区
オールド・ハバナとその要塞群
インドのタージ・マハル
ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩窟群
ボリビアのウユニ塩湖
モロッコのフェス旧市街、マラケシュ旧市街、カサブランカ などなど

過去に作っていたリストを見返すと数ページに渡り、一度は行ってみたいところが、ずらり記されていた。

しかし今、リストを片手に改めて「一度は行ってみたい場所」を考えた時、どこもピンとこなかった。いつか必ず行きたいと思ってガイドブックを買ってある目的地でさえも、なぜかこの瞬間、行きたいとは思わなかった。

きっとそれは、今の私が、みたことのない新しい世界ではなく、当たり前にあったのに見れなくなってしまった世界を求める気持ちが大きいから。そこで生活する愛しい人々を思う気持ちが強いからなのだと思い至った。その人たちと再会できたその場所が、きっと今、私が一番行ってみたい場所。

そんなことを考えながら、ふと頭に浮かんだのは空港の搭乗ゲート。
一度は行ってみたい、その特別な場所へ向かうときに、何度も通ったことがある場所。
旅の扉が開かれる、あの場所がなぜか無性に恋しく感じた。

搭乗ロビーで感じるスタッフの方々のちょっとした思いやり。
アナウンス前からゲート前に並び始める乗客から伝わる、旅へのさまざまな思い。
最後のチェックを終え、ゲートを通り飛行機に向かって歩き始める時の、ちょっとした緊張と足元から侵食してくるような柔らかくも確かな高揚感。

目的地は決まっていなくても、あの瞬間あの場所でしか味わえない気持ちを早くまた感じたいと強く思った。

きっと次にその搭乗ゲートを通って、私が向かうのは世界遺産でも有名な観光地でもなく、大好きな人たちの笑顔に出会える場所。私たちの空白だった時間を少し埋められたなら、その先に次の目的地があるはず。
満たされた心は新しい刺激を求めて、今はそっと机にしまわれた「一度は行ってみたい場所」リストを引っ張り出すだろう。
新しい旅はきっともうすぐ始まる。

#一度は行きたいあの場所

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