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【短編小説】炭酸が飲めない

昔から炭酸が飲めない
好き嫌いの話ではなく、口に入れても飲み込めないのだ
周囲からは“おこちゃま”だと言われ早三十年
残念なことに社会人になっても炭酸飲料を進められる機会は意外とある
正直周囲の人に説明するのは面倒くさい

しかしコレが役に立つときもある
飲み会である
「すみません。アルコール飲めなくて。あー炭酸も飲めないのでウーロン茶1つお願いします。」
そういえば序盤は逃げることができる
中盤になるとワインや日本酒を進めてくるバカが現れるので、中盤には中盤の逃げ方を編み出す必要がある

ある日、SNSでとある写真が目に入った
まさに映えるために作られた翠色に輝くそれは、堂々とアイスがのっているクリームソーダだった
“おこちゃま”は、ふと飲みたいと思ってしまった
人生で初めての感情
これは困ったことになった

間違いなく飲み干すことができない
飲めて二口だ
かといって注文して残すのは問題外
悩んだ末、自宅で作ることにした

数日後スーパーの飲み物売り場で熟考するアラフォーが一人
それもそのはず
炭酸飲料など人生でほとんど飲んだことが無く、どれがおいしいか分からないのだ
最低限の知識でCCレモンの炭酸が強いと聞いたことがある程度だ

結局、ネットで飲みやすいと評判の炭酸水を二本とファミリー用の大型バニラアイス、メロンのかき氷シロップを購入し帰宅した。
家には前日に届いたクリームソーダ用のグラスとアイスを丸めるやつがすでに洗われて準備万端だ

見よう見まねでグラスに氷を半分ほど入れ、濃い緑色のかき氷シロップを恐る恐る入れる
変な緊張感がある
炭酸水をグラスの八割ほど注ぎ、急いでバニラアイスを丸める
購入してきたばかりのアイスはすでに溶けかかっていたがそれが功を奏した
アイスは初めてにしてはきれいに丸まったように思う

完成した自作クリームソーダは先日SNSでバズっていた写真とは透明度もアイスの形も違っていた
しかしお世辞にも映えるとは言えないそれは、しゅわしゅわ音をたてながら私だけを夏の海にいざなってくれる気がした。


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