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ポスト・コロナ時代のベテラン社員向けリスキリング

今年9月19日の日本経済新聞朝刊の総合1面にて、私たち一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブの取組みについて特集をして頂いて以来、実に150社以上もの企業からお問い合わせを頂戴しました。

そのお問い合わせの半分近くは、

「ベテラン中高年社員のリスキリングをどのように行ったら良いか?」

という内容でした。私自身、ずっとテクノロジーと全く縁のない仕事をしていましたが、40歳の時に一念発起して自分自身のリスキリングに取り組み、10年かけてネットワーク、ハードウェア、ソフトウェア分野をそれぞれ少しずつ経験しました。必死に新しいことを学び、実践する場を頂くことができたおかげで、現在50歳となった今、デジタル分野の事業開発のお仕事をさせて頂けるようになりました。以下、自分自身の経験を元に、ポストコロナのVUCA(変動、不確実、複雑、曖昧) 時代において、ベテラン中高年社員がどのようなスキルを身につけたら良いか、お伝えしたいと思います。

1.「リスキリング」というソフトスキル

結論からお伝えすると、ベテラン中高年社員が身につけるべき最重要スキルは、自分自身を「リスキリング」するスキル、そのものになります。人生100年時代、定年して平和にゆったり隠居できる時代ではなくなってきており、50代、60代からでも外部環境の変化に合わせて自分自身で新しいスキルを身につける自己変革力と同類の「リスキリング」を習慣づける必要があります。

スキルには大きく分けて、ハードスキルとソフトがあります。

ハードスキル: 
AIやブロックチェーンなどのコーディング、英語など外国語、弁護士・会計士の資格、大学や大学院などで学んだ専門性等、評価基準が明確で定量的なスキル。

ソフトスキル:
コミュニケーション能力、リーダーシップ、課題解決能力等、人間の内面的な性質に基づき、明確な評価基準がみえにくい定性的なスキル。

自分自身をリスキリングするというスキルは、上記の分類においてはソフトスキルにあたり、外部環境の変化に合わせてどのような新しいハードスキルを身につけていくか、をコントロールする大前提のスキルとなります。

いわゆる意識の高い人は、自分で将来のキャリアに必要なハードスキルを学び、転職したり、起業したりといった道を自ら開拓してゆくことができるかもしれません。しかし、ベテラン中高年社員の多くの方々は、会社の命令に従って強制的な転勤や配置転換に基づいて業務を行なってきた結果、自分自身の望むキャリアを構築するためにスキルを習得してきたとは言い難いのが現状ではないでしょうか。また新卒で社会人になって以来、自らの意思で意識的に知識やスキルを学ばずとも、ある程度の昇給、昇格を許容してきた日本企業の文化そのものが、ベテラン中高年社員のリスキリングを難しくしている原因の一因となっています。

2. ポストコロナ時代の必須4スキル

自らをリスキリングするというソフトスキル、習慣や行動を身につけるには、どうしたら良いのでしょうか。中高年ベテラン社員のリスキリングを始める前に実は、大切な3つのプロセスがあります。以下、私がいつもクライアントにお薦めしている、リスキリングに至る4つのプロセスになります。

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(1) アンラーニング(学習棄却)

アンラーニング: 学習棄却
いったん学んだ知識や既存の価値観を批判的思考によって意識的棄て去り、新たに学び直す。

まずベテラン中高年社員のリスキリングを考える前に一番大切なのは、「アンラーニング(学習棄却)」です。急に配置転換をして新しいハードスキルを身につけて下さいと頼んでも、それを受け入れる素地ができていないため、結果が出ないまま徒労に終わります。新しい外部環境の変化に対応して会社が変わらなくてはいけない、だから働く個人も変わる必要がある、ということに納得する必要があります。

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ベストセラーとなったBarry O'Reilly氏の著書、"UNLEARN"では、①Unlearn→②Relearn(再学習する)→③Breakthrough(古い習慣を打破し新たな飛躍を遂げる)、というサイクルを回す重要性が語られています。

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2019年、サンフランシスコで開催されたSingularity University Global Summitに参加していた際にBarry氏と出会い、幸運にもUnlearnのコツを伺うミーティングを持つ機会に恵まれました。デジタル化が遅々として進まない日本企業はどうすべきか?、と聞いた際、"Get Comfortable Being Uncomfortable(居心地の悪い状態に慣れましょう)"というメッセージがとても印象に残りました。そして更に、以下が続きとなります。

「真の変革をもたらすためには、自分にとって難しい、新しい行動を試してみる必要があります。最初は苦労するでしょう。違和感を感じるかもしれません。しかし、自らの変革に成功したいのであれば、その違和感にコミットし、まず慣れる必要があるのです。積極的に新しいことに挑戦し、自分のコンフォートゾーンから外れるような状況に身を置くことで、新たなチャンスと自己成長が必然的に訪れるのです。」

僕も以前は新しいハードウェア製品の設定や、新しい業務管理ソフトウェアの導入など、本当に面倒でイライラしがちだったのですが、最近は、「この面倒なプロセスそのものが自分自身の『リスキリング』になっているんだ」と思い込むようにして対処しています。新しいことを始めてうまくいかない居心地の悪い状態を乗り越えた時の快適さや便利さを多く経験できるとそれがある種の成功体験となり、次に新しいことを始める際にも大丈夫と思えるようになってきます。

東京オリンピック開催にまつわる政治家や著名人の方々の発言や不祥事などは、まさに「アンラーニング」のスキルを身につける必要性、意識的な自己変革が求められている事例ではないでしょうか。また、役職定年した方々が、現場で年下のリーダーに対してマウンティングをするためチームミーティングの雰囲気がギスギスするといった声を頻繁に聞くようになりました。こういったベテラン中高年社員に関わる課題は、新しい環境を受け入れるための「アンラーニング」というお膳立てが不十分なために起きているのです。ベテラン中高年社員が、

捨てるべきもの
 ・執着(現状を変えたくない、ラクをしたい気持ち等)
 ・過剰なプライド(営業成績トップだった自分の意見が正しい等)
 ・ノスタルジー(昔は◯◯部の部長で、部下が50人いた等)

上記のような感情を自ら意識し、距離を置くことができるようになることが理想的ですが、年齢や過去の成功体験がそれを難しくします。ベテラン中高年が抱える不満や気持ちに寄り添いながら、丁寧にアンラーニングのプロセスを進めてゆくことがとても重要です。


(2) アダプタビリティ(適応力)

アダプタビリティ(適応力):
自分自身の「認知→理解→行動」のプロセスを客観的に評価し、AQ(適応指数)をブーストさせる

アンラーニングを意識的にできるようになったら、次に行うのは、適応力、アダプタビリティの強化です。新型コロナウィルス感染症の蔓延により、全世界が強制的に新しい働き方、生活様式を受け入れることを余儀なくされてきました。同じ環境変化の中で、オールドノーマルに執着する人、ニューノーマルを受け入れる人、ネクストノーマルに向けて飛躍する人、これらの違いは、アダプタビリティの能力の差によるものです。

シリコンバレーで最近注目されているのが、外部環境に適応する能力を計測するAQ(Adaptability Quotient: 適応指数)という指標です。IQ(知能指数)、EQ(感情指数、心の知能指数)、と同様、トレーニングによって適応指数を改善し、外部環境への適応能力を高めることができるのです。シリコンバレー発で主にグローバル企業向けにAQ(適応指数)トレーニングを提供している、Adaptability Universityは、以下の10項目による個人の適応力を計測します。

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日本人が外部環境の変化に適応するために、このAQ(適応指数)を高めたらもっと幸せになれるのではという想いから、このAdaptability Universityのプログラムを日本展開するお手伝いをさせて頂いています。共同創業者のAmin Toufani氏のご厚意で、入門編のプログラムを受講させて頂きましたが、私のAQ指数は驚く結果でした。自分としては適応能力は高い方だと思っていたのですが。。。確かに新しいスキルを学ぶ等、オープンなマインドを持つという点でAdaptive Receptibity(適応受容力) は高かったのですが、自分ではコントロールできない環境下においての分析力を計測するMetacognitive Adaptability(メタ認知を伴う適応力)が低く、まさに自分の長所や短所が明確に数値化され、驚愕しました。Amin氏から、

「誰でも適応しやすい分野と適応しにくい分野が必ずあり、意識的に苦手な計測分野の適応力を高めるトレーニングを行うことで、自らの新たな可能性を開拓することができる」

というアドバイスを頂き、目から鱗が落ちる思いがしました。アンラーニングして出来上がった新たなスペースに、「アダプタビリティ(適応能力)」が備わることで、新たな外部環境から吸収できる内容が変わってゆくのです。


(3) プランニング(未来予測)

プランニング(未来予測):
将来起こり得る「悲連続・想定外」な未来のシナリオを複数描き、それに基づいて戦略を導き出す

アンラーニング→アダプタビリティの次に外部環境の変化等を未来予測することで、自らの人生を計画するプランニングのスキルが求められます。未来予測のスキルを高めるための優れたプログラムを提供している2社をご紹介したいと思います。

①Future Today Institute

Future Today Institute社の創業者であり、New York University ビジネススクール教授のエイミー・ウェブ氏はFuturist(未来学者)として様々な発信をされています。日本語に翻訳されている著書「シグナル: 未来学者が教える予測の技術」「BIG NINE~巨大ハイテク企業とAIが支配する人類の未来~」は、未来予測の技術を学びたい方、必読です(※)

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毎年恒例の風物詩として毎年3月に米国テキサス州オースティンで行なわれる、テックカンファレンス、音楽際、映画祭などを組み合わせたイベント、SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)では、Future Today Instituteが新しいテクノロジーに関する"Tech Trends Report"を発表することが恒例となっており、そのレポート中では、未来予測のメソッドが惜しげもなく公開されています。以下のThe 11 Soursesというチャートを用い、

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1.富の分配、2.教育、3.インフラ、4.政府、5.地政学、6.経済、7.公衆衛生、8.人口統計、9.環境、10.メディア&通信、そして上記10分野全てに密接に関わる、11.テクノロジー

の11分野の外部環境の変化を分析します。そして、その変化の強いシグナル、弱いシグナルを捉えてゆくことで、未来予測を行ってゆきます。2021年で14回目の発行となるTech Trends Reportでは、新型コロナウィルス感染症の影響を反映したポストパンデミックの予測に特徴がありました。自分が関わっているVR/AR含むXR業界の新たなトレンドの一例として、

・AR: Assistive Reality
  (例:大人には聞こえない、蚊を寄せ付けない周波数を出すデバイス等)
・DR: Diminished Reality
  (例:実際には騒音がうるさいのに、特定のノイズを消す窓ガラス等)

などが今年のSXSWで取り上げられていました。人間の幸福の最大化を実現するWellbeing Techへの認知度とともに、今後浸透してゆくのではと感じました。今年のフルレポートは更に増えて、なんと504ページありますが、各テクノロジーや分野ごとに、短く分割されたレポートも読むことができます。

※ エイミー氏の著作、ウェビナー等ではいつも任天堂など日本企業のデジタル化のケースについて取り上げられることが多く、日本における講演のお手伝いをさせて頂いた際に伺ったところ、以前岩手県と東京都に住んでいたことがあり、なんと日本語検定2級、合気道初段の腕前、現在も和食を自分で作って食べるのが大好きとのことです。

②SciFutures

次にご紹介させて頂きたいのが、SciFutures社が提供している、Sci-Fiプロトタイピングというメソッドです。このメソッドは、SFを活用したシナリオ・プランニングを企業向けに行うもので、将来起こり得る「悲連続・想定外」な未来のシナリオを複数描き、それに基づいて戦略を導き出すのが特徴です。徹底した業界リサーチに基づいてクライアント企業に並走しながら、バックキャスティング(予測される未来から遡って現在のアクションを決定する手法。レトロキャスティングとも呼ばれる)したシナリオに基づいてストーリーテリングを行います。プロトタイピングしたアウトプットとしては、ワークショップ開催、ビデオ動画、グラフィックノベル(いわゆるアメコミ等で採用されている形式の出版物)といった様々な形式を用いてクライアント企業の未来を描きます。

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SciFutures社のメソッドは、前述した社会課題をテクノロジーを通じて解決するためシリコンバレーの研究機関 Singularity Universityのプログラムでも採択され、現在フォーチュン・グローバル500企業などで多数導入されています。クライアント企業の将来的な戦略創出を担うコンサルティング業務となるため、極めて秘匿性が高く、具体的なSci-Fiプロトタイピングの事例はあまり世の中で出回っていないのが実情です。有名な事例としては、米国のホームセンター大手のLowe's社のR&D機能を担うLowe's Innovation Labsが発表しているグラフィックノベルがあります。この中でLowe'sの社員はデジタルツールを活用して様々な顧客の課題を解決してゆくスーパーヒーローとして描かれています。

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このグラフィックノベルから導き出された未来に向けてデジタルトランフォーメーションに早くから取り組み、ホームセンターチェーンとして、3Dモデリング、仮想現実、拡張現実、ロボティクスといった技術を活用し、Lowe's社の取り組みは小売業におけるデジタル化の最先端事例となっています。

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上記①②で紹介したような、テクノロジーの進化に基づいた未来予測やSci-Fiプロトタイピングのようなシナリオ・プランニングのスキルを個人が身につけることで、自分のキャリアプランを企業の配属任せにせず、自分の意思に基づいたリスキリングを行い、必要となるハードスキルを計画的に身につけることが可能となります。

(4) リスキリング(スキル再習得)

リスキリング(スキル再習得):
DX時代に求められるデジタルリテラシー向上および現在・未来に必要となる新たなスキルを獲得する

前述してきたように、(1) アンラーニング、(2) アダプタビリティ、(3) プランニングの手法を理解することで、より効果的なリスキリングを行うことが可能となります。リスキリングは国策として、また企業等組織の事業構造変革に伴うニーズ(例: デジタルトランスフォーメーション等) に基づくため、政府の支援に加え、組織がリスキリング機会を従業員へ提供するのが理想的です。しかしながら、政府や日本企業が今まで推奨してきた「キャリア自律」の文脈を鑑みると、企業が従業員に身につけて欲しいスキルと、従業員個人が自律的に描くキャリアに必要なスキルにギャップが生じる可能性があります。

キャリア自律:
働く個人が自らのキャリアについて主体的に考え、自らのキャリアに責任を持ち、自らキャリア形成に取り組んでいる状態のことを指す。
 (出典: リクルートマネジメントソリューションズ)

そのため、企業がリスキリングに取り組み、成功させるためには、

①経営者および役員のコミット
②将来自社が向かう事業の方向性の明示と徹底
③DX推進等を担う部署と人事部の連携
④Future Skillsと呼ばれる将来必要なるスキルの提示
⑤1on1等による従業員個人との合意

上記のような項目が従業員の観点から整っている必要があります。しかしながら、自分の働く企業で著しくデジタル化への取り組みが遅れていたり、会社が提示するリスキリングの方向性と自分の希望が合わない場合には、従業員自ら自身のリスキリングに取り組む必要が出てくるのです。そのため、冒頭で述べたように、「リスキリング」というスキル・習慣を身につける必要があるのです。


3. ベテラン社員に効果的なリスキリング手法

今年5月に世界経済フォーラムから、最も効果的な高齢者向けのリスキリング方法は?という記事が発表されました。

ベテラン中高年社員が持つ専門的な知識や知恵、経験をどのように生かしてゆくべきでしょうか。雇用者はベテラン中高年社員のスキルを大切な資産、アセットとして捉え、金融資産同様に効果的なアセット・マネジメントを実施すべきと考えます。ベテラン中高年社員がリスキリングを行うことで、現在持つスキルに新しい分野の知識や技能、デジタルリテラシーが加わることで、今までには存在しなかった未知の分野を開拓することができるのではないでしょうか。

(1) 築いてきた熟練スキルとデジタルスキルを融合する

一例として、現在私が取り組んでいる事業について簡単にご紹介させて頂きます。私はアバターを活用したメタバース事業を支援する米国のプラットフォーム、Virbelaの日本進出支援を担当しています。

新型コロナウィルス感染症の影響で運営が難しくなったオフィスワーク、講演会、展示会、イベント、国際会議、大学の授業等をリアルタイムで会話が可能なアバターで今までのリアルで行っていたビジネスを支援しています。米国ではVirbelaのような分野は不動産テックと分類されます。不動産会社のオフィス物件の賃貸営業やイベント運営を担当している部署で働くベテラン中高年社員の方々が熟練したスキルに加え、メタバースやVRといった分野のデジタルスキルを身につけることで、新たな収益を生み出す事業部を新設できるのではと思い、研修やワークショップを提供させて頂いています。現在持つ不動産営業やスペース運用のスキルを活かしながら、デジタルツインやメタバースの世界観について理解し、ソフトウェア分野でプラットフォーム事業やSaaSビジネスを学び、デジタルリテラシーを高めてゆくチャンスを掴むことができるのです。

デジタルトランスフォーメーション等を推進して事業構造や収益構造を改革してゆく会社のニーズに基づいてリスキリングは推進してゆく必要があります。そのため雇用主はベテラン社員の身につけてきた業務分野の知識、経験、スキルと、テクノロジーやデジタルスキルを結びつける接点を創出する義務があると考えます。

(2) 若宮正子氏に学ぶ、リスキリング・マインドセット

日本では、労働基準法により70歳までの就労を支援しており、雇用者は定年退職を70歳まで引き上げるか、場合によっては定年退職自体の廃止を検討することが求められてきています。高齢者のリスキリングで日本が世界に誇るロールモデルは、皆さまもご存知の若宮正子氏ではないでしょうか。若宮氏は、58歳で初めてパソコンを購入して様々なPCスキルを身につけたのち、81歳で高齢者向けのスマートフォン向けゲームアプリを開発しました。2017年には、アップル社が毎年開催している開発者向けカンファレンスWWDCに招待され、「世界最高齢のアプリ開発者」として世界中から注目されました。アップルのCEOティム・クック氏とのインタビューは記憶に新しいところです。


認定特定非営利活動法人育て上げネット理事長の工藤啓氏との対談では、若宮氏の人物像やリスキリングに向き合うためのエッセンスがたくさん詰まった内容となっていて必見です。特にタイトルの「人生100年時代、ゆっくりやればいい」というメッセージや「人生50年なら残り10年という最終楽章かもしれません。(しかし) いまの時代だったら、まだ3回裏くらいじゃないですか。」という言葉には、もっと肩の力を抜いてリスキリングのことを考えても良いのでは?という視点を頂いた気がします。


86歳となった現在は、高齢者向けにスマートフォンの使い方を教えるワークショップを開催しています。SWI(スイス公共放送協会)からの取材に対し若宮氏は、「学びに年齢は関係ない」「シニア世代こそ、デジタルリテラシーを持つことが重要。高齢者には、「インターネットがなくても生活できる」と敬遠する人が多いが、少子高齢化が進めば介護の現場などで、できるところはロボットにやってもらう時代がどうしても来ると思う。だからこそ、使う側の高齢者がデジタルの知識を習得しないと。AIスピーカーやスマート家電が使えれば、寝たきりの人の生活もずいぶん楽になる」と話しています。


また若宮氏は、Business Insider誌のインタビューにおいては、「テクノロジー側が年寄りのことをわかってくれてない」「パソコンの身体認証なんて、年を取ると動脈硬化で末梢の血管にうまく血が巡らないから、本人だとなかなか認めてもらえない」と訴えています。

デジタル・デバイド(情報格差)を縮小し、インクルーシブな社会を築いてゆくためにできること。それは、新たなデジタルスキル等を身につける必要があるベテラン中高年社員の気持ちや立場に寄り添って、政府や企業がリスキリングを推し進めてゆくことに他なりません。「テクノロジー側が年寄りのことをわかってくれてない」という若宮氏のメッセージは、とても重要な示唆を私たちに与えて下さっているのではないでしょうか。

4. まとめ

1.「リスキリング」というソフトスキル
2. ポストコロナ時代の必須4スキル
3. ベテラン社員に効果的なリスキリング手法

についてお伝えしてきました。結論としては、企業からの支援の有無等、外部環境に左右されず、誰もが「リスキリング」というスキル・習慣を身につける必要があることがお分かり頂けたのではないでしょうか。

経済協力開発機構(OECD)諸国では、労働年齢層(15~64歳)に占める65歳以上の高齢者の割合は、2050年までに5人に2人になると予測されています。また、世界の人口は2050年に99億人に達すると見込まれており、そのうちおよそ21%(21億人)が60歳以上の高齢者となると予想されています。諸外国がこれから高齢化に向かう中、前述の若宮正子氏のようなリスキリングに成功したベテラン中高年社員がどんどん増えてゆき、リスキリングに関する多様な成功事例が生まれてくれば、これから日本企業は世界各国の企業のロールモデルとして貢献してゆくことができるのではないでしょうか。

日本において産学官民が一丸となって協力し合い、ベテラン中高年社員1人ひとりが前向きにリスキリングに取り組むことができるように、私たち一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブは政策提言や様々なプロジェクトを展開してゆきたいと思います。

#日経COMEMO   #ベテラン社員に学んでほしいスキル

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