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【5日目】奪うモトあつめ、増やすモトあつめ(ニンゲンのトリセツ・改)

◆『一番目のモトあつめ』の実例

 では、『モトあつめ』というものが実際にどのように行われているかについて、二つの『モトあつめ』それぞれのパターンに分けて、簡単な例を紹介していきます。

 まずは『一番目のモトあつめ』のパターンです。一番目のモトあつめは『奪う』タイプのモトあつめでしたね。では、こんな状況を想像してみてください……。
 上司と部下、二人の人物が会社で向かい合っています。上司はカンカンに怒っていて、部下を一方的に怒鳴り散らしています。暴力こそふるっていませんが、部下のミスを口汚くののしるように、ひどい言葉で暴言を吐きまくっています。

 このとき部下はどんな気持ちでしょうか。たぶんですけど……「いい気分」ではないでしょうね。むしろ「ものすごくイヤな気持ち」だと想像できます。ミスを責められてツラい、暴言が悲しい、上司が怖い、こういう気持ちかもしれませんし、上司のこういう暴言に慣れっこだったとしても「またかよー」とうんざりしているかもしれません。
 イヤな気持ちが出ているときは「モトの量が減っている」ときです。【3日目】に書いたことを思い出してほしいのですが、

・モトの量……減 ↓ → イヤな気分(ネガティブな感情)

こうでしたね。『モトの量』が「減る」とココロは自動的になんらかの”イヤな気分”を出してくるんです。
 ではこのとき、なぜモトの量が減っているかというと、怒っている上司に「注目」しているからです……僕たちのココロは、僕たちが「注目」しているものに対してモトを飛ばす働きを持っています。さらに、怒っている生き物というのはとても危険です……自分に危害を加えるかもしれませんから。ですから僕たちは「怒っている生き物」にはどうしても「注目」してしまいます。
 部下はこういう状況に置かれているので、自動的にココロのモトを上司に「吸い取られて」います。こういうカラクリで、部下のココロからはなにがしかの「イヤな気持ち」が出てきます。

 一方の上司はというと……怒りをこのようにストレートに表現するタイプの人というのは、ガーッ! と怒鳴り散らして、やがてスーッと気分がおさまってしまうものです。こんなことが起こるのも、ココロの『モトの量』が関係しています。
 まず、何らかの拍子に「怒り」がわきます……おそらく、部下のしょうもないミスを発見したんでしょう。それで先方に叱られたのかもしれませんね。
 その時にはまず先に上司のモトが「減った」はずです。というのも、怒りというのは「イヤな気持ち」の一つですから、イヤな気持ちが出ているときは「ココロのモトが減った」ときだ、というわけです。先方に叱られて減らしたのか、ミスを見つけたときにすでに「イヤな気持ち」になったのか(ミスの部分に「注目」するから)、ともかく何らかの拍子にまずは上司がモトを減らします。
 モトを減らした上司のココロは「怒り」という感情を出します。怒りはモトが急に減ったときの感情です(後の章でくわしく)。そして上司は怒りの矛先を、ミスをした部下に向けて怒鳴り散らしはじめます。
 こうして最初に書いたように「上司が部下を怒鳴り散らす」ことになるわけですが、そうこうしているうちに上司のココロには「部下のモト」が入ってきて、さきほど「減らした」分の量をおぎなっていきます。そうするとココロは「モトが増えた」と判断して、ネガティブな怒りの感情を出すのをやめてしまいます。怒りがおさまった上司は多分、捨てゼリフを吐いて席に戻っていくでしょう。

 これは極端な例かもしれませんが、このように僕たちは日々の生活の中で誰かと関わるたびに「ココロのモトの量」を増やしたり減らしたりして、その中でさまざまな『感情』を体験しながら生きているのです。


◆『二番目のモトあつめ』の実例

 一方、モトあつめには『自分で増やす』タイプのものもあります。僕が『二番目のモトあつめ』と名付けた、とても「幸せな」モトあつめです。これがどのように行われるのか、実際の場面を紹介していきます。

 二人の人物、友達どうしがカフェでおしゃべりをしています。美味しい飲み物をはさんで、一緒に見て面白かった映画の感想を言い合っているような感じです。こんなときは、二人ともちょっと興奮気味で、そしていい気分になっています。
 と書くと「あれ?」と思った鋭い読者の方もおられるでしょう……モトというものは「注目すると減る」わけですから、会話をするたびにどちらかがどちらかに「注目」して、ちょっとずつ減っていくはずです。でも、実際は二人とも「楽しくて幸せな気分」になっているわけで……「注目」という点だけで考えると「何かおかしい」ですよね。
 ここで出てくるのが『二番目のモトあつめ』、つまり『増やす』モトあつめなんです。では一人ずつ、どうしてモトが増えているのかをつぶさに確認していきましょう。

 まず、片方がもう片方に話しかけます。そうすると話しかけられたほうが「聞き役」になります。このとき「聞き役」は「話し手」に『注目』しますので、いったんココロのモトを相手に向かって飛ばします。
 このとき(さきほどの上司と部下の例と違って)相手の話に「面白い」とか「同意できる」といった考えがわき起こると、ココロが「モトを増やし始め」ます。
 前回も書いたのですが、実は僕たちのココロにはとても素晴らしい機能が自然とついていて、それは

・良いもの(美しい・感動する・興味深い・興奮するなど)に触れたとき『モトを生み出す』

というものです。この『機能』が自動的に働いて、僕たちのココロは注目した相手に渡してしまったモトより、よりたくさんのモトを自分で「生み出す」ことがあります
 今回「聞き手」にまわった人のココロも、相手の話に「おもしろい」という考えを持って、それでココロが「モトを増やし」ていることになります。こうして、「注目しているのにモトが減らない、むしろ増えていく」という不思議な現象が起こるのです。

 一方で、最初に「話し手」に回った方は、「聞き役」の人のココロが「注目によって飛ばしたモト」を受け取ることになります。もちろん「話し手」のココロはモトの量が増えていい気分になります。
 さて、会話というのはこの「話し手」「聞き役」が入れ替わりながら続いていくものです。ですからこの「話し手」が一通り話し終わったら、今度は逆に「聞き役」に変わります。
 役割が交代したとき「聞き役」になった「元・話し手」は、相手に注目することになるのでモトを減らすことになります。ですが「もともと相手にもらったモト」を送り返すような形になるので、そもそも「最初に比べると減ってない」状態になります。そのうえで「相手の話が面白い、相手との時間が楽しい」と感じることによって、さらに「ココロがモトを生み出す」現象が起こります。こうしてまた、自分のココロのモトの量が増えていくのです。
 「話し手」「聞き手」と役割を次々と交代しながら、お互いのモトを分け合い、そして自分自身のココロでも「生み出し」て増やす……こういう『メカニズム』でもって、このような「楽しい時間」が生まれるというわけです。

 こういう「お互いのモトを送り合って、増やし合う」ような状態を【良いモトの循環】と呼びます。【良いモトの循環】については第二巻『初級編』で実例付きでもっとくわしく解説しますので、どうぞお楽しみに。


◆モトは「ココロの動き」をメカニズムで説明する

 『一番目のモトあつめ』と『二番目のモトあつめ』の実例を、ちょっと誇張した「日常の場面」で見ていただきました。もしかしたら、読者のみなさんの中には「これと全く同じ経験がある」という方もおられるかもしれませんね。 その時の経験や、あるいは似たような経験で感じた「ココロの動き」と、今回紹介した「モトの増減のメカニズム」を、ぜひ比較してみてください。もしかしたらもう「あ、モトって本当にあるかも」と思っていただけるかもしれません。

 さて、こういった二種類の『モトあつめ』を比べて、どちらが好きですか? と聞かれたら……おそらくほとんどの方が
「二番目がいいよね!」
とお思いになると思うんです。僕自身もそうです。なぜかというと、その場にいる人がみんな「幸せな気分」になれる方法だからです。
 今まではこういうふうに「みんなが幸せになれるような関係」を作るやりかたというのは、経験やシチュエーションにもとづいておのおのが「自分で考えましょう」というものだったはずです。なんというか「なんとなく分かるでしょ?」という雰囲気の方法だったと思うのですが、 実は筆者の僕はココロがものすごく不器用な人間だったため、こういった「なんとなく」を理解するのにはものすごく苦労しましたし、時間もかかりました。幾度となく社会で失敗を重ね、そのたびに外に出て誰かと会うことが苦手になっていったものです。
 そこで、僕がそんな苦心の末に編み出した『モトの話』を利用すれば、具体的な「ココロの【量】」とその「動き」を推測することで、誰もが「アタマで考えて理解できる」メカニズムでこの「みんな幸せになる方法」を目指すことができるようになります。多分これは、世界で初めての試みではないかと思っています。

 では次回から、この『メカニズム』をもっとくわしく解説していきます。まずは「ココロが【モトの量】をどうやって「はかって」いるか?」という話をしましょう。


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「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)