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『俺が初めてDXMキメた時の幻覚レポート』前編



『注意』

初めにDXMとはデウス・エクス・マキナの略である。
決して乖離性幻覚剤の効果がある『デキストロメトルファン』を意味するものではない。

そのうえで、これから述べる内容は友人から聞いた話であり、それを元に考えたフィクションである。
純粋な創作活動としての文章表現であり、あらゆる行動を推奨する意図はない。


これらを理解した上で、楽しんで欲しい。


ーーー

『内容』

前半
1.『薬局と人生の冬』
2.『全然効かねーじゃんコレ!』
3.『幻覚旅行、ゲロの海と踊るシヴァ神』

後半
4.『言語性の崩壊と不思議の国』
5.『トリップ疲れ。元の世界に帰りたい…』
6.『堕ちBADタイム、まとめ』







◆◆◆








1.『薬局と人生の冬』


大学二年、冬。
俺は絶望していた。

街灯が照らす夜の繁華街を歩く。
すれ違って行くのは同年代くらいの大学生、若い女性、サラリーマン、カップル。

暗く沈んだ俺に反して、彼ら彼女らはキラキラと輝き、とても遠い存在にみえた。


ああ、窮屈だ。

俺が今も青春をドブに捨てている間に、同年代のヤツらは様々な事を経験し、俺を追い越して行く。
もし少し選択が違えば、俺もあちら側に居たのだろうか…?


いや、ないな。
俺は彼らと本質的に違う人間だ。

俺は彼らには成れないし、彼らもまた俺には成れない。

じゃあ俺は何故、身も凍る冬空の中1人で繁華街まで歩いて来たんだろう。


ああ、そうだ。
幻覚見たくて、コンタ○ックw買いに来たんだった。


ーーー


レジ袋片手に薬局を出る。

警戒心から、一応薬はすぐバッグにしまっておく。
なんの確認もなくすんなり買えてしまったな。

そりゃそうか。

俺はただ市販薬を買っただけだ。
別に悪いことしてる訳じゃない。


そもそもODと言っても、市販薬を快楽目的で多量摂取するだけ。
違法薬物を扱ってる訳でもなければ、誰かに迷惑をかけてる訳ではない。

これから俺が行う行為は、ただ『間違って薬を多めに飲んでしまった』というだけの事だ。


ていうかもう、そんな事も別にどうでも良いよ。

今の俺にそんな些細な事を気にしてる精神的余裕はない。
とにかく最近、行動力がかなり低くなっている。


ほぼ部屋から出ない。
ベッドからも出ない。
喋らない。
笑わない。

一日の中で人と関わるのは、ちょっと家族と話すだけ。
あとは若い貴重な時間をネットで消費する日々。

そう。
今の俺は自分からみても客観的に見ても、明らかに鬱状態。

ネットぐらいしかやる気が起きない状態だった。


しかし俺は別に、本気で死のうなどとは思ったりしない。

最近では、毎日3回くらい『もう死のう』と思うようになったが、俺はこれまでの経験でそう簡単に死ねないと分かっているのだ。

それに俺は、この状態が『すぐに過ぎ去るもの』だと分かっている。


元々俺は躁鬱気質で、普段から鬱状態など慣れっこだからだ。

俺は周期的に鬱っぽくなるし、しばらく経てば抜け出して躁状態に戻る。
今は一日に二三度しか笑えなくても、きっと3ヶ月後には能天気にガハハと笑っていることだろう。

だからこの鬱状態は、脳ミソの不具合に過ぎない。
コロナという状況で、俺というロボットが錆び付いて『エラー』を起こしているだけ。

だが、そんな俺からしても今回の鬱状態は、人生に2番目くらいのそこそこ重い物だった。



だからともかく、今の俺にできる唯一の事は、この『人生の冬』を死なずに耐え凌ぐ事だけ。

綺麗事は言いたくないが、どんな手段を取っても生きてさえいればやり用はある。



薬の入ったリュックサックを背負い直して、俺は自宅へと歩き出した。







◆◆◆









2.『全然効かねーじゃんコレ!』


ーーー、ーー。ーー〜?

「………あー、……ちょっと散歩」


ーーー。ーー!

「うん。ま〜最近運動不足だしね…」


外出の理由を適当に誤魔化す。
俺の嘘は、母にほとんどバレた事がない。


基本的に俺は自分の思った事は素直に言う。
逆に隠したい事は心の奥底にずーっと押し留めて、おくびにも出さない。

だから彼女からしたら、きっと息子は正直者に見えているハズだ。


まさか俺がここまで何気なく嘘をつくとは思はないだろう。

大丈夫。
今回もきっと隠し通せる。


ーーー


自室にて、薬の入った紙の箱を取り出す。
裏側の成分欄には『DXM』の文字。


うん。
コレで間違いない。

俺はそそくさと中に入った、薬剤を取り出す。
薬剤は白いカプセルで、12カプセルがプラスチックのバーに収められていた。


さて、ここで1つ考えないといけない。
はたして俺は何錠飲んだらいいだろうか…?

俺の体重は55キロ。
ネットで調べた情報では、この体重なら12カプセル(DXM360mg)で恐らく酔いは中程度の筈だ。

うーん。
まあビビって少量で済ませて、全く効かなかったら金のムダだ。
それよりは多少効き過ぎだくらいの方がマシだろう。


よし、12C全て入れてしまおう。

俺は白いカプセルをプチプチと取り出す。
そして、3回に分けて全てのカプセルを飲み込んだ。


ーーー


あれから2時間が経った。

しかし、感覚の変化はまったく感じない。


あれ、DXMってブロ○ンより凄いんじゃねーの?
嘘だったのか?

なんか、肩透かしというか、キツネに頬をつままれた気分だ。
気合いを入れて色々調べたのに、俺の労力と1500円はムダかよ…。


まあ、もういい。
いつ効くか分からないし、そもそも効かないかもしれない。

待つのやめて、なんか好きな事しよ。







◆◆◆








3.『幻覚旅行。ゲロの海と踊るシヴァ神』


フラリ。
椅子から立ち上がろうとして、視界がフラつく。


なんだ……コレ…。
なんか、車酔いみたいな…。

少し、気分が悪い。


あ…。

「……ぁっ」


やばいやばいやばいやばい。


「……っ!オロロロロrrrrrrrッ……!!」

ドボドボと胃の中身を、勢いよく吐き出す。


落ち着け!…落ち着け。
吐く程度酒でもよくある事だ。

焦らなくていい。


足元を見るとほぼ透明の液体が、ブワーっと床に広がっている。


良かった。
時間的に夕食前だったおかげが、吐瀉物はほとんど水だった。

あ…、よく見ると白い粉が浮いている。
おそらくカプセルの中身だろう。

俺の1500円、勿体ない。


「…ジュルッ……ズズッ……」

俺は自ら吐き出した液体から、粉が浮いてる部分をすすった。


どうせ自分が吐いた物なんだから、もう一度飲みこんでも同じだ。
そもそもODなんてやってる時点で、俺はモラルとかそういうネジが外れた人間なのだ。

吐いた薬の1滴すら惜しい貧乏人を笑え。


そして、立ち上がる。
ようやく効いてきたらしいな。

でもコレ、結構気持ち悪い。
視界がグワングワンと揺れてなかなか収まらない。


俺はこの状態をどうやって楽しんだら…。


あ…、やばい。

「…っ!……ゲェッ!」


ちょっと…、また…。

「………オロロロrrrrrr!!!」



え、待って…。
飲んだ薬全部吐いちゃうじゃん。

「……rrrrrr!!!」

「rrrrrr!!!」


え、待って待って待って。

「rrrrr!!!」


ちょっと、コレ…。
吐くの止められない。


「rrrrrrロロロッ………っぁ!!!」

これマジでやばい……!!


「っ…!!……ハァッ、ハアッ……」

さすがに…これはヤバい。

経験したことのない異常事態。
俺はややパニックを起こしながら、ヘロヘロと床にへたり込む。

ふと足下を見ると、床に大きな水溜まりが広がっていた。
俺の身体の中に、こんなに水が入ってたのか。

「……rrrrrr!!!」

「rrrrr…………ッ、ゲェッ…!!!」


ちょっとコレ…、どうしたら…。


「オウェっ……ぁ……!!」


…さすがにもう吐くものが無いのか、ようやく落ち着いたみたいだ。


てかこんなに胃液吐いたら、下手したら脱水とかになっちゃうんじゃないか。

もうコレ、救急車呼ぶべきか?
でも家族に迷惑をかける訳には…。

ともかく、吐いた分水分を取らないと。
水を汲みに行こう。

あ、でも今立ったらまた吐いちゃうかも。



ヤバい、怖いっ…!!
怖い怖い怖い。


「………っぁ、……」

ツーっと、頬を涙がしたたり落ちる。
久しぶりに流した涙は、温かかくてしょっぱい味がした。


やっぱりやめとけば良かった。
気軽に手を出していい物じゃなかった。

ごめんなさい、ごめんなさい。
取り消したい。
今すぐ時間を戻したい。

飲んじゃダメだった。


あ、なにこれ…。
俺、もう、どうしたら…。


ちょっと、なんか、目を開けてられない。


目を、閉じた。


ーーー


…………あれ、……海じゃん。


突如、俺の目の前には海が広がっていた。


青く澄んだ大海原、いや湖なのか?
周りは草原に囲まれ、心地よく風が吹いている。

あ、幻覚ってこれの事?
マジじゃん、スゲーな。

ていうかなんで海?


全く見覚えのない景色に違和感を覚え、目を開けてみる。

するとやはり、俺の部屋だ。
先程俺が吐き出した透明のゲロが広がり、カーペットの端に染み込んでいる。

しかし見慣れたハズの部屋は、体育館のようにだだっ広く感じた。
まるで俺が小人になったみたい。


スゲーなコレ。


あ、分かった。
さっきの海と草原、この部屋だったんだ。

海は俺のゲロで、草原は多分もじゃもじゃしたカーペットだ。
なるほど、そーいう感じね。


いや、浸ってる場合じゃない。

早く水汲みに行かねーと。
机の上にある水が1リットルは入る容器を取ろうとして、立ち上がる。


すると、グニャリ。

足がフラついてよろよろとよろける。
床が歪んでいる、いやバラついているのか?


そして、なんだ?
1歩進む度に数メートル進むような感覚。

たった数歩で、まるで50mを急激に走り去ったような体感だ。
1歩がスゴい遠かったし、歩く速度がすごく速く感じた。


これが『乖離』という事か。

きっと脳ミソの中で、色々な感覚を感じる部位が『バラバラに暴走してしまっている』のだろう。

ちょっと歩いたところで気持ち悪くなり、ヘタりと床に座る。
乗り物酔いみたいだ。

平衡感覚がおかしい。



あ、なんかイメージが見える。


俺の身体が部屋の中からポッカリと抜け落ちて、宇宙になってる。

周りがスゴい紫色だ。
星が見える。


『…サーッ……』

砂嵐のような、壺や貝殻に耳をくっつけた時みたいな音が聞こえる。

あ、いや?
囁いている?


星たちが囁いてくれてるんだ。
ありがとう。

ここも宇宙だったんだね。

そっか。


ーーー


…いやいや!
今何を考えてんだ俺は!

いけないいけない。
明らかにトビ過ぎていた。


正気に戻れ…!!
大丈夫、大丈夫!!

俺は理性的なハズだ!
酒を吐くほど飲んだって、記憶も飛ばないしちゃんと理性は保てるヤツだ!


そうだ、俺は……。
水を汲みに行かないといけないんだった!

自分のやるべき事を思い出した俺は、覚悟を決めて部屋の外へと飛んでいく。


風を切って進む。
スゴいスピードだ。

いや、実際にはちょっと早歩きしているだけだが、スゴい速度に感じる。


部屋の扉を開け、すぐ側の洗面所に向かってギコギコとぎこちなく身体が歩く。

まるで全身が鉄クズを繋ぎ合わせたガラクタのように感じられる。
手足はサビだらけになったチェーンみたいで、ユルユルブラブラと揺れる様に歩く。


やっとの事で洗面所についた。
たかが数メートルの道筋だが30分くらい歩いていた様な気がする。

蛇口を捻り、1リットルの容器を水で満たしていく。

視界は二重にボヤけている。
しかし、流れる水を見つめる今だけは少しシラフに戻った気がした。


『__aru_syum___』

いや、そんな事ない。
今もアタマの中に『あの世界』が続いてる。


ほら、今も俺を呼ぶ声が聞こえてる。
多分今は、理性で抑え込んでる状態なんだ…。


『_ma_tra___マヤ__』

これは、原色みたいなケバケバしいイメージ。
赤や緑、紫、黄色、チカチカと濃い原色のイメージがアタマにチラつく。


大丈夫、大丈夫だ。
イメージはアタマに浮かんでるだけだ。

ちゃんと水は容器の中に入っている。


『___ヤトラ、ウマヤ___』

謎の文字が、アタマに響く。
『ウマヤトラ』という謎の単語が見えて、アタマの中で誰かが囁いていた。

どういう意味だろう?
昔の、古い日本の言葉か?


『___ウマヤトラ、ウマヤトラウマヤトラウマヤトラウマヤ』

厩取ら?馬や虎?


馬屋虎?


っあ???うんなぁ???


ーーー


やっとの事で水を汲んできた。

頭では数分の事だと分かっているが、まるで数時間出かけて来たように感じる。


ああ、もう『幻覚』を抑えられない。
イメージが頭にどんどん広がってくる。


『___アッ、ェッ、ahーー〜、エェ〜〜!!』

クネクネと人型の『何か』が歌い踊っている。


彼はその『4本の腕』を奇妙に、しかし水が流れるごとく滑らかに動かし、止まることなく踊り続けている。

その肌の色は赤だったか、緑か紫か、その何色にも見えた。



ああ、そうか。

貴方がシヴァ神か。
よくぞ現れた、破壊と想像の神よ…。


幻覚剤を摂取すると、人は皆似た幻覚を見るらしい。
神や仏の姿、ペイズリー柄や万華鏡などだ。

ヒッピーに、仏教や東洋思想かぶれが多い事から、何か関係があるのだろうとは思っていたが。
しかし、ホントに俺の前にも現れるとは…。


ああ、きっと彼は俺を祝福している。

俺が『この世界』に来たことを呪い、同時に歓迎しているのだろう。



今、俺は人間をやめてしまった。



『境界線』を越えたのだ。






◆◆◆




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