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工業製品だからこそできること

「手作り」という言葉に、良いイメージを感じる人は多いと思います。一方で、「工場で機械で作られたもの」と聞くと、どんなイメージをもつでしょうか? ファッションデザイナーの村松啓市さんがセカンドブランドとして立ち上げたニット専門のブランド「AND WOOL:アンドウール」は、これまでずっと、人の手で1枚1枚仕上げるものづくりの良さを伝える活動をしてきました。ところが先日より、「AND WOOL」初となる工業製品の販売を開始したというのです。

こんにちは、記者のカミュです。連載「村松啓市の仕事」では、世界で活躍するデザイナーの村松啓市さんの魅力や、その作品について、ご紹介しています。今回のテーマは「工業製品」です。


■手仕事で仕上げる製品の良さ

この連載でも幾度となくお伝えしてきたことですが、村松さんの生み出すニット製品が他にはない高品質なものに仕上がる理由の1つが、1枚1枚「手仕事」によって仕上げられることにあります。

「手編み機」と呼ばれる昔ながらの機械を使って編み上げ、その後、洗い・乾燥・アイロンがけなどの工程を経て、製品に「風合い出し」のための加工を施します。

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正直言って、こんなに手間がかかって利益も薄くなってしまうような製造方法で、誰も製品を作ろうと思わないんだと思います(笑)私たちは、だからこそこういう作り方をすることで、他にはない製品を作ることができると知っているので、あえてこんな方法を取っていますが。徹底的に効率化を考えて量産しようと思ったら、とてもこんな方法は選べません。自分たちのような小さなブランドだからこそできることだとも思っています。弱みを強みに変えられる方法はないかと考え続けて、たどり着いたと言ってもいいかもしれません。

村松さんのこの言葉から、工場で大量生産される製品は、効率的に均一の品質を生み出すために、「ものづくり」における重要な部分が削ぎ落とされている、1枚1枚「手仕事」で仕上げる製品と比べ粗悪なものができている、もしかしたらそんなふうに感じる方もいるかもしれません。

でも村松さんは、「それは違う」とおっしゃっていました。

例えば、服の価格に大きな影響を与える「流通量」。材料費や作業工程などにもよりますが、一度にたくさんの服を作ることで価格は抑えられます。大量生産された服は、同価格帯の少量生産の服よりも、品質が高い。消費者にとっていい側面もあるんです。私は、大量生産を否定しているわけではなく、「それぞれできることが違う」という考えなんです。

それぞれできることが違う中で、他にはないものを作り上げる。手作りが一番良いというわけではないということなんですね。

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■工業製品に挑戦する理由

自分たちの強みを生かしたニット製品の作り方として、素材から仕上げまで、すべての製造工程を一括管理する方法をとっている村松さんのブランド。編み上げから仕上げまで、1枚1枚「手仕事」で仕上げられる製品は、空気をたっぷりと含みふわふわで、とても軽くて暖かいのが特徴です。

オートメーションの機械は、均一の動きで製品をあっという間に仕上げていきますが、人の手を使うことによって、さまざまな部分で「加減」がきくようになるんです。いつも私が言うことなんですけど、私たちの製品は、直接手に取って触ってもらえれば、その違いはすぐにわかると思います。

村松さんは、自分たちのブランドのニット製品は、一般流通している倍の価格帯のものにも負けない品質に仕上がっている自信がある、とよくおっしゃっています。それを実現できているのは、1枚1枚「手仕事」で仕上げているからに他なりません。

そんな村松さんのブランドが今回、初めて工業製品の販売を始めるというのです。

実はこれは、私が「AND WOOL」で以前からやりたかったことの1つなんです。先ほどもお話ししたように「それぞれできることが違う」中で、工業製品には手仕事で作られる製品にはない良さがあるんです。そのことをたくさんの人に知ってほしいと思っていたからです。

今回、村松さんたちが挑戦したのは、これからの春夏にも気持ちよく着ることができるサマーニットです。工場で製造することを前提として、素材選びから製造の試行錯誤が始まったそうです。

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今回使用している糸は「シルクコットン」素材です。コットンに20%シルクが入っていることで、コットン100%に比べて光沢感がありしっとりした感じに仕上がるので、汗ばむ時期でもとても気持ちよく着ることができます。先週から、予約販売が始まったところなので、よろしければどうぞ(笑)

写真からも、その高品質な仕上がりがよくわかりますよね。というわけで、一応、購入ページのリンクを貼らせていただきますので、ご興味のある方はどうぞ(笑)


シルクコットンのハイネックプルオーバー(ライトグレー/チャコールグレー)

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シルクコットンのカーディガン(ライトグレー/チャコールグレー)

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シルクコットンのロングカーディガン(ライトグレー/チャコールグレー)

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「工業製品にしかない良さを伝えたい」という思いから、この製品の制作に挑戦された村松さん。実はそのきっかけとなるような出来事が、背景にはあったそうです。

直接のきっかけになるようなことが起こった瞬間があった、というわけではないんです。これは、もう何年も前からファッション業界にいて感じていたことなのですが、今回、私がこの製品を一緒に作ったような日本の工場は、このままだと数年後には、みんななくなってしまうと思います。つまり、服が作れなくなるということです。そのような現状をなんとか食い止められないか……そんな考えは私の中に、ずっと以前からありました。

村松さんが服づくりのために工場の現場に足を運ぶと、どこへ行っても、厳しい経営の問題や後継者不足など、さまざまな問題から「工場の継続が難しい」という話を耳にしたそうです。デザイナーとして自分にできることがあるのではないかと、常に考えていたことを、今回ようやく具体的な形にできたということでした。

■工場の職人さんたちのすばらしい技術を伝えたい

村松さんが今、日本の工場に起こっている問題を、自分のデザインでなんとかできないか、と考えているのは、何も単なる人助けということではありません。

私が一緒に服づくりをしている現場の工場さんは、「工場」と言っても、工員10人程度で作業をしているような規模です。中には、高齢のご夫婦が2人でやっているようなところもあります。「工場で機械で作ってるんですよ」と言っても、実際の現場で作業しているのは「職人さん」です。高い技術で高品質なものを作ることができるんです。

村松さんはこれまで15年間、自身のファッションブランドで活動してきていますが、以前作っていた服が、工場の閉鎖や職人さんがいなくなることで、現在では再現できないものがいくつもあるそうです。

村松さんが守りたいのは、工場というよりも、そこにいる職人さんたちがもっている高い技術なんですね。

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そもそも、セカンドブランドとして立ち上げた「AND WOOL」で、「手仕事」から生まれる製品の良さを伝える活動を行ったり、全国で「手編み機」を使ったワークショップを積極的に開催したりしてきたのは、「手仕事」のすばらしさを知ることで、職人さんたちが生み出す「工業製品」の良さにも、同時に気づいてほしかったからです。今回私が作ったニットを見て、「こんなすばらしいものが、あと何年かしたら作ることができなくなる」ということを、私が感じているのと同じように「さびしいな」と思ってくれる人が出てくれたらいいなと思っています。


村松さんの作り上げた「工業製品」には、デザイナーとして自分にできることをしたいというやさしい気持ちと、その思いに応えた工場の職人さんたちの情熱が詰まっています。今回の製品を通して、多くの人の「工業製品」のイメージが変わればいいなと思いました。


(記者:カミュ)


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