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本の感想・推薦『暗いところで待ち合わせ』

※このnoteは感想文ですが、推薦も兼ねているのでネタバレは含みません。


 個人的に『zoo』のイメージが強い乙一さんの『暗いところで待ち合わせ』を読んだ。本屋さんで平売りされていたのを、あらすじを読んで衝動買いしたのだ。平売りされていたから最近出版されたのかなと思いきや、2002年の小説だった。
 表紙も怖いしタイトルもホラーじみているが、趣向を凝らしたミステリーといった具合で、ホラー小説ではない。

〜あらすじ〜
 孤独な身の上で視力まで失い、全てを諦めて静かに暮らす女性ミチル。人間関係に悩み鬱屈とした日々を送る若者のアキヒロ。殺人事件の犯人と疑われ、追われる身となったアキヒロは、目が見えないミチルの家に逃げ込み、そっと息を潜める。

 目が見えないミチルの家に忍び込み、音を出さず幽霊のように過ごすアキヒロ。無気力な毎日に入り込んだ違和感に気がついているが、度重な不幸で生きる気力を失い、何が起きてもいいやと対応を放棄するミチル。

 どうしても『zoo』で読んだ恐ろしい短編のイメージがあって、どんな酷いことが起こるんだろうと思っていたが、中盤に差し掛かったところでそれは思い過ごしだとわかった。
 物語全体に、ほの暗い優しさが漂っている。ミチルの回想シーンは、胸が痛くなるものばかりだが、ミチルは内省的な性格で、何が起きても悪意が目覚める事の無い清い人だ。アキヒロも、ミチルの無気力な生活を観察するうちに、うかがい知れる彼女の悲しみに共感し心境が変化していく。不器用だけど、優しい。

 人物描写は簡素で、人情ものの小説に登場する人々のような「人間くささ」は存在しない。読んでいて、不幸も悲しみも焦りも、記号化されてそっと提示されているような、不思議な感覚になる。特に負の感情は記号化されて久しいようだ。あくまで私の感覚だけども・・。提示された悲しみを、手に取って眺めるような、物語と読み手の間にそれくらい距離があるように感じる。
 悲しくて流れる涙は熱いはずなのに、一切の熱も感じない。恐ろしいほど冷たく胸を切る。冬に読むのはおすすめしない。

 「目の見えない人の家に、知らない人間が潜む」というアイディアを膨らませて、一つの物語が成り立っている。乙一さん曰く、別作品で採用されなかったプロットを蘇らせたらしい。始まりから終わりまで、実にスタイリッシュだ・・・小説を書くお手本にもなりそうだ。これから、長いこと私の本棚にいることだろう。


 ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。👀

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