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寝室に、なんかいる…!

夫は結構頻繁に家を空ける。
友人との飲み会や旅行でもなく、私と喧嘩したわけでもなく、植物の世話をしに実家に帰っているのだ。

植物が好きなことは、交際を始める前から知っていたが、初めて家にお邪魔した時、「これは…並大抵の植物好きではない」と驚いたのを覚えている。
部屋の中には育てている植物が並べられた銀ラックが二つ。
ベランダも植物で埋め尽くされている。
今まで自分の周りにはいなかったタイプで、面白い人だなぁと漠然と思った。

そんな夫だから、電車で通える距離にある彼の実家にも植物を置いている。
一緒に暮らす前は、彼の実家と私の家の方が距離が近く、実家に帰省と私と会うがセットになっていた気がする。それほど頻繁に世話をしに帰っているのだ。

結婚の挨拶をしに実家に伺った際も「これは…予想通り」と庭を見渡して思ったのを覚えている。予想外だったのはトイレの窓から見える裏庭にも植物が置かれていたことだ。
「あの…植物の量大丈夫でしたか?」と、彼が庭仕事のため席を外した時ににお義母さんから聞かれて思わず笑ってしまった。

もともと私にも収集癖があるし、自然は好きだし、彼の趣味に関して全く嫌な気はしない。むしろ、最近「なにかを続けることの大変さ、たいせつさ」をじんじんと感じているので、中高生くらいから情熱を注いでいる趣味があることはすごいなと尊敬の念を感じる。

夫と暮らし始めてから現在に至るまで、自分以外の人間と暮らすことの大変さと面白さを味わってきた。
大変さについては、ぬいぐるみが緩衝材となってくれたのと、お互いの理解が時間が経つにつれて進んだおかげでだいぶ解消されてきたように思う。
ただ、面白さの面ではまだまだ知らない変化球が飛んできて毎日楽しんでいる。

さて、春は色々なものが蠢く季節。夫が愛する植物も例外ではない。
暖かくなってくると彼の帰省の頻度はさらに高くなり、二週間に一回くらい一人で週末を過ごすことになる。
この帰省があるおかげで、私は一人の時間ができてありがたく思っている。
自分の性格上、こうした時間がないとどこかでパンクしてしまうのだ。

先日も夫は実家に帰って行き、例の如く一人で過ごす週末がやってきた。
近くのスーパーでお気に入りの惣菜を買って、冷蔵庫の残り物と食べ、途中まで読んでいた、くどうれいんさんのエッセイ「コーヒーにミルクをいれるような愛」を一気に読む。

すっかり夜も更けたし、久しぶりに本を一気に読んで目も頭も疲れたので、
そろそろ寝ようかとベッドに入り電気を消す。

…カサカサ…

なにか音がする。
窓が開いているわけでもないし、水道を閉め忘れたわけでもない。ただ音がするのじゃなく、「なにかがいる」音がする。
昼間にこの寝室で漫画を読んでいた時はこんな音しなかったのに。

私は霊感がないのにも関わらず、おばけや幽霊が時々異常に怖く感じることがあり、先月も旅行先で寝られないという何回繰り返したかわからない体験を再びしてきたばかりだった。
狭くて暗いところが苦手なのも影響しているのかもしれない。

得体の知れないものに対してのビビリ度はまだ警戒モード。
しかも一人暮らしの時に夏になると出てくるあいつの足音に似ている。
虫も蠢く季節。ブラックキャップは置いているけども集合住宅…。

しかし、足音はいつまで経っても移動しないのだ。
夏になると出てくるあいつだと、時間によって足音の場所が変わる。
やっぱりおばけ?でもなんか違う。
一体なんなのかはわからないけどなんか大丈夫な気がする。
変な確証に安心感を覚えたのと、眠さの方が極まって私はそのまま寝落ちしたのだった。

翌日の夜に夫は帰ってきた。週末はいい天気だったので、耳の裏までしっかり日焼けをしていた。
なんでもない夕飯を食べ、風呂に入り、最近習慣になったストレッチをして二人でベットに横になる。
じんわり汗をかいたので、水でも飲んでこようと思ったその時…

…カサカサ…

またあの音が。
すると、夫が「あ!」と思い出したように話し始めた。

「ごめん、言ってなかったから驚いたよね。クワガタが賑やかになってきたね。」

クワガタをずっと繁殖させていたことは知っていた。
彼は植物だけでなく、生き物全般に詳しいし愛着をもっている。
冬眠中なので外の物置か玄関にいるはずだったけど、ここまで動く音が聞こえるのか…?クワガタ元気すぎるな。

「実は、この間からこの部屋(寝室)に移動して…ベッドの下にいます…」
とのこと。それを聞いて責める気は全く起きず、なんだそうだったのかと妙に素直に納得してこの怪奇事件は終わりを告げた。

一緒に暮らし始めてそろそろ2年。
この夫といることがいつのまにか普通になってきたな、と私の嬉しい気持ちもちょっとだけ蠢いたのであった。



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