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掌篇小説『夏のアサインメント』(438字)

「柊、宿題どうした」

ふり返ればいる、体育教師。針鼠の如き髪、青のスウェット、右手に恰好だけの竹刀。サングラス奥の眸は無垢。

宿題どうしたも何も、夏に体育の宿題なぞ無く。そもそも私は貴男を卒業しているのに。

しつこいですね、と言えば。
「長距離得意だろお前」
意味不明の答と共に、顎をあげ嗤う。

いつからか夏、ふり返ると時々、彼がいる。生徒と大差ない顔、鼻の頭が紅い儘の彼。もう私柊って姓じゃないし、貴男の歳も追い越しましたけど。

教師は場所をとわず現れる。職場でもキッチンでも、旅先でも風呂場でも。

……そう、風呂では、歳上になった私の躯も晒したし、彼の裸体も同時に見た気がする。かつてプールの授業で、そこだけは生徒と違う幻惑的な肉体美を記憶しているからか、或いは彼とのあいだに、もっと深く、何かあったか、忘れた宿題が。体育の。

同級生と電話。ふいに「ほんとの」教師の消息を聞く。今もあの学校にいると。

会ってみようかしら、と言いつつふり返ると。
教師はソファに仰臥し、竹刀で床を突く。拗ねた眸。





©2022TSURUOMUKAWA


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