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巻き込まれて生きていく #羊6

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2018年3月12日。
前回 #5 で菊池さんに取材をしてから早や半年以上が経ったころ、岡千晴さんに取材をした。

岡さんは羊齧協会のイベントに行くと、わりと高い確率でお顔を見かける女性。
羊齧協会のイベントに何回か顔を出すようになってわかったことに、幹部の人たちは皆、常にイベントに参加しているわけではないということがある。主席の菊池さんは毎回見かけるが、他の人はそうでもない。その背景にある裏事情とか力関係とかについては、いつか知る機会があれば書くことがあるかもしれないが今のところはわからない。

つまり岡さんは出席率の高い、中の人だ。

取材ということで待ち合わせた新宿西口の喫茶店で「岡山県倉敷市美観地区の近くに実家があります。でも実家に戻る予定は今のところないんですけどね」と、来し方を語り始めた。

「大学のときから東京に住んでいるので、東京在住はもう13年になります」と、年齢を明らかにする情報だってバンバン出してくれるこのサービス精神。東京外国語大学でポルトガル語を専攻したのをきっかけに、ブラジルのリオデジャネイロに1年住んでいたという。さらにはインカレサークルで浅草サンバカーニバルにも参加。「あ、サンバは踊る方じゃありません」と、おじさん(わたくし)の好奇心が向かう方面には、早々に防御線が引かれた。
菊池さんが「羊の人」だとすれば、岡さんは「ブラジルの人」か。や、それだとただのブラジル人になってしまうから「ブラジルな人」と言い換えよう。あんま変わらんか。

どうしてポルトガル語だったのですか? スペイン語とかじゃなくて。

「そこはもうズバリ偏差値です。東京の大学で、海外に行けるところなら良かったのです。それで自分の得意科目を踏まえると、ポルトガル語しかありませんでした」

消去法で進路決めるかー!? と一瞬思ったが、推薦で行けるという理由で中国にあまり興味もなかったのに中国文学専攻へ進んだ自分にそんなことを言う資格がないなと思い至り、黙って頷いた。そんな自分も気づけば中国に関わる機会が増えているわけで。

ポルトガル語を学んで、ポルトガルではなくブラジルに惹かれたのは?

「大学1年生の時にポルトガル、2年生の時にブラジル、両方行きました。それで感じたのは、ポルトガルは年をとっても行けるところだなぁということ。あと、なによりブラジルの方が面白かったので」

今ではブラジルと日本をつなぐというコンセプトのフリーペーパー「Guia JP」で月1回のコラムを執筆したり、ブラジル関係のイベントを手伝ったりしているという。

ではやはりお仕事はブラジル関係なんですか?

「それが全然違いまして。畜産関連の独立行政法人で働いています」

??? 聞いたことがなかったので調べてみると

国産農畜産物の安定供給を図るため、生産者の経営安定対策、需給調整・価格安定対策、緊急対策、情報収集・提供に関する業務を実施しています。

と、法人のwebサイトには書いてある。

あ!畜産からの羊齧協会という流れ??

「それが違うんです。羊の畜産って国からの支援がほとんどないので。仕事では牛か豚に関することが大半です。私が就職活動をしていたころ、この法人にはアルゼンチンに事務所があったんです。ここなら南米に関わる仕事ができそうだと、そんな理由で入ったんです。それが民主党の仕分けにあって、入構して1ヶ月でその事務所も閉鎖の憂き目にあうわけですが」
民主党の仕分け…すでに懐かしさすら覚えるフレーズ。あれなんだったんだろう。

とはいえ入社してから3年目までは、南米へ年に数回、出張で行く機会があったという。出張後に調査結果をレポートとしてまとめる業務に従事するうち、文章を書くことに関心が湧き、ライタースクールに参加。

それにしても羊への入り口がどこにも見当たらない。
聞いた方が早い。
では、羊にはどんなところから?

「社会人2年目の夏休みに北海道へ酪農家の仕事体験に行ったんです。1週間泊まり込みで。そのときに偶然連れて行ってもらったイベントで、モンゴルで修行した後に北海道で羊を飼っている人と知り合いまして。羊ってこんなに美味しいのに、羊を出すお店は少ないなぁと思って、それで羊がどうのこうのとあちこちで話していたら、知人から羊齧協会の存在を教えられたんです」

それで入会したと

「それが当時の羊齧協会は紹介制だったんです。なので存在を知ってから2年くらいは入ることができませんでした」

敷居高い感じだったんだ。

「協会の存在を知ってから入るまでに2年くらいかかったかもしれません。ある日友人が『参加者募集してるよ』って教えてくれて、それでイベントにお客さんとして行くようになりました。最初に行ったのがたぶん4年前(2014年2月)の落語会です」

そうして参加するうちに、ライタースクールに通っていたタイミングと重なっていたらしく「なにか書いてみますか?」と菊池さんから声をかけられて中の人になっていった。

「今思うと、羊のイベントに顔を出していた頃ってイベントジャンキーだった気がします。ライタースクールに通ったのも、仕事以外に新しい広がりを探していたところがあって」

誰しも何かに巻き込まれる。大切なのはどのように巻き込まれていくか。

とはいえ今は岡さん、羊齧協会になくてはならない存在ですよね。

「だといいのですが。でも学生時代から知っている友人にとっては、私はブラジルな人なんですよね。なので『最近やたら羊づいてるの、あれなに?』って聞かれたりします」

誰かの中のイメージのために生きているわけではないので、当然そうなりますね。
興味も状況も、その時々で変わりますし。

「ブラジルから羊の人になって、菊池さんのお手伝いをしているうちに青森のイベントも手伝うようになりました。それはとても面白いので良いのですが、活動が全て放課後の活動なんですよね。自分が仕掛ける側に回りたいという欲求はあります」

何かに巻き込まれた結果、誰かを巻き込みたく思うのは必然かもしれない。

岡さんは自分を引いて見る目を持っている人だ、と思った。

岡さんが仕掛ける「なにか」に、いつか僕も巻き込まれることがあるかもしれないし、そうなったら楽しいなぁなどと思いながら取材を終えた。

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