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ヘイトとフェイクに飲み込まれない「Strategic Silence(戦略的沈黙)」とは

先日Craigslistの創設者クレイグ・ニューマーク氏が、Recodeのポッドキャストに出演し、ニューヨーク市立大学のCUNYジャーナリズム専門大学院に2000万ドルを寄付したことについて話していた。

ニューマーク氏はこれまでもファクトチェックサイト「Politifact」や報道の質と信頼性向上を目指すプロジェクト「The Trust Project」などに金銭的な支援を行なってきた。

アメリカでは大統領が毎日のようにメディア叩きをしている。11月に控えた中間選挙に向けて、ニューマーク氏を含め米国のリベラル層の間で危機感が高まっているようだ。

そんなニューマーク氏はポッドキャストのなかで、「Strategic Silence(戦略的沈黙)」に言及していた。これは、根拠のない情報や過激なメッセージをむやみに増幅せず、多様な世論が形成されるよう、優先して扱うべきストーリーや視点を検討する姿勢・取り組みのことだという。

「Data and Society」のリサーチャーJoan Donovan氏とDanah Boyd氏の記事では、アメリカ・ナチ党に対するユダヤ人団体の事例が紹介されている。

1960年代、ナチ党は白人至上主義的な主張を繰り返し、世間の耳目を集めていた。そこでとあるユダヤ人団体は同党の過激なメッセージについての報道を控えるようジャーナリストに伝えた。地元メディアがこの戦略的な沈黙を行った地区では、ナチ党が新たなメンバーを雇用するのが困難になったという。

60年代に比べて、2018年はより一層ヘイトが増幅されやすい環境だ。インターネットでは偏ったもの、過激なものほど広がりやすい。ビュー数で評価されるメディアは、読者がわかりやすく反応できるトピックを選ぶ。特にビュー数を追い求めていないとしてもネットで旬なトピックを取り上げようとすれば、過激なメッセージや組織への言及は避けられなかったりもする。だからこそ戦略的な沈黙が必要だ。

ヘイトを撒き散らすエクストリームな人々のプラットフォームに反抗する為にも、ニュースルームは落ち着いて戦略的な沈黙を再び取り戻さなければいけない。(中略)暴力とエクストリーミズムが溢れる時代、エディターたちには読者を先鋭化させるストーリーよりも、戦略的な沈黙を選び取ってほしい。

日々ネットを見ていると、過激で攻撃的な意見を発する人や組織に出会い、憤りを感じたり、途方に暮れたりしてしまう。その度に「こんなひどい人たちがいるんやで...!」とすぐに拡散したくなってしまう。このどうしようもない現状を共有せねばという謎の義務感に駆られる。

もちろんこうしたヘイトやフェイクが溢れる現状を伝えるメディアは必要だし、文字通りただ“沈黙”してしまってはいけないと思う。

けれど、それらを報じ続けることでヘイトやフェイクを発する人たちに力を与えてしまっていないか、読み手を先鋭化”させてしまっていないかは、常に自分に問いかけていきたいと思う。


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