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私は風になる

私は風になる。
猫に恩返しはしないが、それが夢なのだ。

温度の差で生まれる私の体は人々の間を通り抜け、時たま勢いよく吹いたと思えばのらりくらりと少し顔を伺うかのように隣に居座ったりする。

誰も気がつかない、そんな空気になりたいのだが、たまには感謝もされたいのでいい香りを運んであげたり、誰かの帽子を飛ばして運命の糸を結んであげたりもするのだ。

気まぐれに。

人に干渉することも、干渉されることも苦手なので避けてきた。
その道のりは随分と長く、もうどの様に接すればいいのかもわからない。
接していたとて、それは自分で在りながらも私ではないのだ。


ハルは言った。
「過去は、今の積み重ねであって常に過去である。未来は今の積み重ねた先にある過去である。今はいつだって消え去り何も感じさせずに消えていく過去なのだから、あなたが感じては消えていくその刹那程もない感覚だけは信じてあげればいいんじゃない?」


だから私は今感じた瞬間を、何もかもを後にして 信じている。
通り抜ける一瞬のあの”勘”覚も、誰かに触れたあの感”核”も、好きを感じた感覚も。


好き、とは。


音楽は好きだ。
言葉が好きだ。
いつも言葉に振りまわされるくせに、好きなのだ。

言の葉。葉のようにヒラヒラと流れ落ちていくその一瞬に私が風を吹かせてやってもいい。そして、それはいつも儚いのだ。

私の夢は私ごと吹き飛ばし、感情に飲み込まれていてもがいていても知らんぷりをする。

それが私の思考するエサとなり、また前を向いた時には少し違う景色を見せてくれることを知っているから。


思考する。
生きるために。
自分の核芯を持ち続けるために。


私は、風になる。


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