見出し画像

【詩】狐の嫁入り

狐の嫁入り

キラリ。

足元の水溜りが、ふと僕に光を投げかける。

生あたたかい太陽の光を、

折りたたみ傘越しに感じる。

そおっと傘の下から顔をのぞかせると、

ぴしゃり。

空から落ちた冷たい雫が、僕の頬打つ。

天邪鬼な空め

お天気雨なんか降らせやがって

悪態をつきながら傘を閉じた僕の身体を、

光と雫がゆっくりと濡らしていく。


あのお天気雨の帰り道、彼女は呟いた。

「好きなんだ、お天気雨。」

彼女は、僕の目を見て言った。

「だって、綺麗だから。」

彼女は、にっこりと微笑んで言った。

「綺麗だから、狐の嫁入りって言うのよ。きっと。」

その笑顔に多少の寂しさが混じっていたのは、

僕の勘違いだったんだろうか。


「私ね、結婚するの。」

「結婚して、実家の神社を継ぐの。」

そうか そうなのか

「何か言ってよ。」

「大学はどうするの。」

「やめる。」

僕の頬を伝う涙をよそに、

君は顔にはにっこりと笑顔が張り付いていて、

嫌だな これじゃなんだか

お天気雨みたいじゃないか


それから彼女は姿を消した。

彼女の消息を知る者はいなかった。

そもそも、僕以外の人間は、

誰も彼女のことを知らなかった。

僕が狐につままれたような心地がしたのは、

言うまでもない。


天邪鬼な空め

お天気雨なんか降らせやがって

光と雫をほろほろと浴びながら、僕は呟く。


「おめでとう」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?