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日本型人事管理の特徴と限界について 〜人事管理制度の視点から会社選びを考える〜

こんにちは、リクルートで働いておりますこむぎです。
前回は「人のつながり」についてマルチリレーション社会という概念を用いて、記事を投稿させていただきました。

人材業界で働く自分が、「これから一歩を踏み出そうとしている就活生・中途求職者の方たち」に少しでもお役立ちできればと思って、今回も雇用領域の話をテーマに記載します。

日本型の人事管理システムを正しく知り、「何がメリットで、何がデメリットなのか」を自分自身の希望する/所属する会社に照らし合わせて考え、キャリアをより深く考えるきっかけになれば幸いです。

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サマリ

本記事の簡単なサマリから始めます。

【過去】
終身雇用制/年功制/企業労働組合を前提とした日本型人事管理は、高度経済成長期の日本には非常にマッチしたシステムだったと言えます。
【現在】
・しかし、変化の激しい現代において、日本型人事管理は機能不全を起こしやすいシステムであることがはっきりしてきました。
【未来】
・過去と現在を踏まえ、就活生/求職者が会社を選ぶ際には、今後以下を意識することが重要となります。
①変化に対応できる柔軟な人事管理制度を持つ会社に身を置きましょう
②自身のどんなスペシャリティを磨くための一歩にするか考えましょう
③希望する企業から得られる報酬は何か、徹底的に情報収集しましょう

それでは、以上の観点をこれから詳述していきたいと思います。

はじめに:人事管理の基本機能とは

まず「人事」と聞いて、皆さんが思い浮かべるのはどんな仕事をする人たちでしょうか?
採用担当、自分の働きぶりを評価する人、人事異動を通達する人、、、様々でしょう。

一般的に人事管理の基本機能としては、大きく以下の3つに大別されます。

①人材の確保と配置
②報酬の決定
③人材の有効活用

つまり人事管理の基本機能とは、「企業にとって必要な人材を採り、適所に配置する。人材に報酬を還元して、企業活動においてその人材を有効に活用し続けること」に尽きます。

そして、高度経済成長期に日本企業が強い国際競争力を実現してきた秘訣の一つに、日本型といえる人事管理があると言われ、世界の注目を集めてきました。

しかし、近年は経済のグローバル化が進み競争が激化し、経営の不確実性が高まる中で、日本企業の安定的な成長を前提とした人事管理システムでは、機能不全が起こりつつあります。

前提:日本型人事管理における組織戦略と理念

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まずは、日本型人事管理の前提となっている規定条件から見ていきます。

<規定条件(I) 日本らしい組織戦略>
①仕事の編成 - 属人主義(↔職務主義)
日本企業では、部門にとって重要なコア機能には、明確な担当者を決めて職務に当たらせるが、重要でない周辺的な機能には状況・人の能力に合わせて職務を配分するという傾向があります。
「いやこんな仕事聞いてませんよ!」というような雑務を振られる経験や、「他の人の仕事を手伝ってやりなさい」といった指示を受けることはかなり日本的だと言っていいです。
つまり、「職務に合わせて人を配分する」欧米の職務主義に比べると、「人に合わせて職務を配分する」ことになります。
また、職務ありきで人を配分するわけではないため、特定の専門業務に特化するスペシャリストではなく、ゼネラリストが育ちやすく評価されやすいです。

この特徴は、最近では「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」という言葉で表現されることが多くなってきましたが、組織戦略における主義の違いが雇用手法の大きな違いを生んでいると言えます。

②経営資源の配分方法 - 平等主義(↔格差主義)
日本企業では、決済権を部長が持っていたとしても、部下が原案を作成したり、意見を求められたりすることが往々にしてあります。
例えば、リクルートでよく上司から言われる「お前はどう思う?」なんかは、まさに平等主義の権化だと言っていいでしょう(ありがたくもあり、面倒くさいな〜と思うこともあります)。
それに対して、欧米企業では、部長は自分の考えをもとに決定して、部下には上から指示する傾向が強く見られます。
つまり、「トップダウン型の意思決定を行う」欧米企業と比べると、「ボトムダウン型の意思決定を行う」ことになります。
これが日本の経営資源配分の基盤となっているため、「意思決定に時間がかかる」など揶揄される一方、KAIZENなど日本らしい現場主導での経営効率の向上が行われてきました。

<規定条件(II) 日本らしい経営理念>
社員の生活の保証とそれを実現するための制度
日本企業は、全社員の生活を最低限以上のレベルで保証しようという理念を持ち、それをどう実現するかということを人事管理制度に求めてきた。それがこんにちの日本型人事管理を形作っています。

では、次にこれらを前提とした日本型人事管理の特徴を見ていきます。

What:日本型人事管理の特徴

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(1)終身雇用制と年功制と企業内労働組合
日本企業は、「社員の生活をできる限り保証する」という経営理念を実現するために、第一に雇用を、第二に生活費に見合った給与を社員に保障することが必要と考え、<終身雇用><年功制>という制度を形成しました。
(こうみると企業側が安定を志向しているため、求職者の「安定志向」は生まれてしかるべきですね。)

この制度の形成を基盤に、労使関係は長期的な関係が前提となります。
ただし、会社が景気悪化によって突然「よっしゃクビきるで〜」とならないよう、「組合員の仕事と生活を守ること」を目的とした<企業内組合>が形成されました。終身雇用制を標榜する会社の機能としては、非常に合理的な組織だと言えます。
これらは日本企業の人事管理における非常に特徴的な制度であり、企業・社員双方にとってメリットが非常に大きいため、三種の神器と呼ばれています。

(2)人材の確保と配置の仕組み
日本企業は欧米企業に比べて、中途採用より新卒採用を重視してきました。
それゆえに、以下のような特徴を持つようになりました。
(I)企業の外から人材を確保するとき(外部調達)には新卒を採用し、組織の最も下のランクの仕事に配置する
(II)高度なランクの仕事に欠員ができたor新しい仕事ができたとき/ある仕事に余剰人員が発生したとき、社内で適切な人材を配置/差配する(内部調達)

「今年はどんな後輩入ってくるかな〜」「〇〇さんは10年目やし、そろそろ昇進するよな〜」「突然人事異動になったわ〜」というような会話が当たり前に行われるのはかなり日本的です。
でもよく考えてみると、こうした人材確保の手法と人材配置の仕組みは、先に見た<終身雇用><年功制>と不可分です。

なぜか?
「A部門の仕事が減少し、B部門の仕事が増加したとき」に、社員の人数と構成を調整するという人事管理の基本機能を、終身雇用制のもとでワークさせようと思うと、どうしても社員を再配置することでしか対応できないからです(A部門の人をクビにし、B部門の人を中途採用で雇うようなことはあまり起きませんよね?)。

こうやって社員個人の雇用を守ってくれているのは日本型人事管理の素敵なところだと僕は思っています。

(3)報酬の配分の仕組み
報酬配分の基本原理は「ハイレベルな仕事についている人」「大きな成果を上げた人」により多くの報酬を配分することです。
しかし、この原則だけではどれだけの報酬を配分するかは決定しません。

そこで、日本企業がとってきた配分政策は平等主義に則った上で、すべての社員を同一の方法によって処遇することを最優先にしています。
すべての社員が月給制で、福利厚生も一律。そして、社員全員の生活を最低限守るために、家族がいる(=生活費のかかる)おじさん世代には月給をより高く、独身が多い若手世代には、月給は低めの設定がなされています。

これが<年功制>ですが、欧米のような成果主義的な報酬の調節弁はボーナスのみで、その変動幅は非常に小さいという特徴を持っています。
これも日本では当たり前のことですが、欧米企業では当たり前ではありません。

長くなってしまいましたが、ここまでで是非「日本型人事管理」のメリットとデメリットは何か?思考を巡らせていただきたいと思います。
個人的には、経営面の合理性・経済面の合理性が非常に大きなメリットだと感じています。以下の書籍などは考察を深める上でとっても参考になりますので、興味がある方は是非読んでみてください!


では、この記事の最後に「なぜ日本型人事管理が限界を迎えているか」個人的な意見を3つ述べます。

Why:なぜ日本型人事管理は限界を迎えているか

①急速な世界の変化スピードへの対応
グローバルでの競争の激化、テクノロジーの革新による急速な環境変化によって、経営の不確実性が高まっています。
これまでとは比べ物にならないほど、変化の速度が早くなっており、長期的な視野に立った経営が困難=長期的な労使関係を前提とすることが困難となっています。
したがって、<終身雇用制><年功制>を前提とした人事管理が機能不全を起こしやすくなっていると言えます。

②日本における高度専門人材の不足

まず、平成元年〜平成31年の30年間での世界時価総額ランキングの推移を見てください。

時価総額ランキング

※引用元:STARTUP DB『平成最後の時価総額ランキング。日本と世界その差を生んだ30年とは?』https://media.startup-db.com/research/marketcap-global

衝撃的ですね…。米国のGAFAや中国のBATHが台頭してきた中、日本企業は後塵を拝し続けてきました。
様々な理由はあると思いますが、現状の日本で深刻になっているのが高度専門人材、第一にIT人材の不足です。

先に見たように日本はゼネラリストを育成し、評価することを基本とした人事管理を進めてきたため、スペシャリスト、つまり高度専門人材を育成しづらい環境にありました。
例えば、スキルの高いIT人材にもマネージャーをやらせたり、人事異動を盛んに行ってきました。

しかし、それでは世界と戦えなくなっているのが現状です。
世界水準の企業を輩出し続けるためには、根本の人事管理システムを、部分的にでも見直さなければいけない状況となっています。

そんなこんなで経団連の中西会長はジョブ型雇用を推し進めようとしています。

③個人の価値観の多様化

これまでの個人は「生活の安定」が最重要の目的であったため、金銭的に生活を保障し続けてくれた日本型人事管理との相性は抜群に良かったと思います。
しかし、一昔前とは違い、人々の情報リテラシーが格段に向上し、現代の個人の価値観は非常に多様化しています。転職/副業も当たり前になってきています。
以下の図にみるように「金銭的報酬(Financial)」「環境的報酬(Environmental)」「関係的報酬(Social)」という観点で個人は働く環境を選択するようになっていくと想定されます。


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※引用元:リクルートワークス研究所『Works Report 2020 マルチリレーション社会 多様なつながりを尊重し、関係性の質を重視する社会』https://www.works-i.com/research/works-report/item/multi2040_3.pdf

したがって、これまでの報酬配分の仕組みだけでは、個人のモチベーションを最大化し、人材を有効に活用し続けることは困難になっていると言えます。


以上3つ、日本型人事管理が限界である理由をみてきました。
一方で、これらの限界を感じつつも、簡単には変えられないほどの旨味があるのが、日本型人事管理です。
「じゃあ日本はこの制度の限界をどう乗り越えるべきか?」これは次回の記事で記載したいと思います。

今回の投稿では、これらの背景を踏まえ、今後の就活生/求職者目線では何を意識して行動することが重要か?を以下サマリにて改めて記載いたします。

サマリとメッセージ

冒頭に記載したサマリに就活生/求職者向けのメッセージを詳細に添えて、結びにします。

【過去】
終身雇用制/年功制/企業労働組合を前提とした日本型人事管理は、高度経済成長期の日本には非常にマッチしたシステムだったと言えます。
【現在】
・しかし、変化の激しい現代において、日本型人事管理は機能不全を起こしやすいシステムであることがはっきりしてきました。
【未来】
・過去と現在を踏まえ、就活生/求職者が会社を選ぶ際には、今後以下を意識することが重要となります。
①変化に対応できる柔軟な人事管理制度を持つ会社に身を置きましょう
└今後の会社選びでは、変化に対応できる柔軟な人事管理制度を持った企業かどうかを目利きすることが重要になります。旧態依然の制度を持つ会社は機能不全を起こし続け、成長が鈍化していくと想定される(実際に鈍化している)ためです。
②自身のどんなスペシャリティを磨くための一歩にするか考えましょう
└これまでの人事管理制度を背景として、スペシャリストを育てられていない企業がほとんです。自分のスキルを今一度見つめ直して、自身の希少性を高めるキャリアを見極めていきましょう。
③希望する企業から得られる報酬は何か、徹底的に情報収集すること
└あなた自身が会社に求める報酬は、金銭的報酬だけでなく、相当多様化しているはずです。しかし、これまでの人事管理制度では皆一様の報酬設計がなされていることが多いため、個人へのカスタマイズ性が非常に低いです。したがって、上記のFESTimeの観点で「どれだけ自身にマッチする企業か」を確認することが重要となります。

最後に宣伝

最後にちょっぴり宣伝させてください!

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この記事は「就活生、求職者の方に日本の人事管理について正しく知って、キャリア選択に活かしてほしい」という気持ちで書きました。

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