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僕は君を想う

僕は振り返り歩き出した。

とまどいと少しのふてくされと喪失感と新しいこれからを思いながら・・・
整理がつかない頭の中をこのいつもの騒がしい改札口がより感情を高ぶらせていた。

僕はこの場を早く離れたかった。足早に去ろうとした。だけどやっぱり彼女の声だけは聞こえてくるんだ。

後ろからさっきとは違うはっきりとした口調で聞こえた。

「しんじ、バイバイ。」

さっき言ったばっかりの2回目のバイバイ。

僕は振り返り、彼女を見た。
彼女は満面の笑みで手を振っていた。

それは少し悲しげで、少し寂しげで、それでもこれからを強く生きていくよ。みたいな感じで・・・・ずっと手を振っていた。

そう、僕らは今日別れた。

理由なんてよくある話で彼女は夢を追っていて、僕は仕事でいっぱいいっぱいで、この先の2人が見えなくなった。
気持ちがすれ違った。2人で決めた答えだ。

これが最後になるであろう彼女の笑った顔を見てると、時間が止まったかのような、死ぬ時に見るっていう走馬灯のような残像に包まれる。

この改札口にはたくさんの思い出がある。
いろんな時間を一緒にいた僕ら2人が、あちらこちらに見える。
2人だけの世界だった。

改札口前の広場には、初めて彼女と会った時の僕ら2人。
彼女の名前はあおい。
あおいとは、この日の、まぁー いわゆる合コンで知り合った。最初からタイプで可愛いかった。
勿論話しかけれずに、ただカッコだけつけている僕がいる。
調子のいい友達が人数合わせで、無理矢理僕は誘われたんだ。少しドキドキはしてたけど。ワイワイするなか、みんなの輪に入れずに彼女の背中ばっか見てた。

改札口手前の右のコンビニの前には、2人で話してる僕らがいる。
仕事帰りにたまたま、あおいと会った。僕は見て見ぬふりでやりすごそうとしたけどあおいから声をかけられた時はめちゃくちゃ緊張した。でも嬉しかった。
会話を無理くり盛り上げようとして、テンパってる感がもろに出てたと思う。2、3時間も話してしまった。そして連絡先を交換した。

改札口前には笑顔の二人がいる。
何回か会うようになってから初めて二人きりで居酒屋に行った。
話好きでほとんどあおいの話だったけど僕はすごい楽しかった。どんどんあおいにひかれていった。勝手ながら運命を感じた。
結構、酔っぱらってたし、勢いかなんかで僕らは付き合う事になった。
なんかすべてがハッピーな気分だった。

改札口入ってすぐ右隣のパン屋の前に2人がいる。
あおいがこのパン屋がおいしいって言うから買うことにしたんだ。
僕はカレーパンが好きだから、カレーパンを薦めたんだけど、そんな気分じゃないって断って一人で20分くらいもずっと悩んでいた。なのにどれがいい?って聞いてくるんだ。
そんなもん何だっていいって心のそこから思った。あげくのはてには全部食べたいってさ。たちが悪い。

上り行きのホームへ上がる階段には、じゃれあっている2人がいた。
何回目のデートだったけな? ちょっと遠くの遊園地に行ったんだ。
ジェットコースターに乗ったりお化け屋敷に入ったり、まぁ普通に騒いでふざけてはしゃいでた。最後、日が暮れる頃の観覧車では綺麗すぎる景色に2人して感動したっけ。
なんか、この先の事を少し語り合った。

逆に下り行きのホームへの階段では座り込んでる2人がいる。
仕事帰りに待ち合わせしてご飯食べてカラオケ行ったり、話してたら終電逃した。どうしよっか、ってぐだぐだしてた。
ちょっとだけ何か期待したりして・・・・・
でも結局、朝まで飲もうってなってまた夜の街に戻った。

左側にあるトイレ前の柱には言いあっている僕らがいた。大喧嘩した。
喧嘩はちょいちょいあったけどなぜかこの日は爆発してた。内容は意見の違いだ。あおいはとにかく頑固だ。人の意見をとりあえず否定する。口が上手いほうではないがよっぽどの事が無いかぎり曲げない。
最終的には泣く。それもまた可愛いかった。

年月は3年くらいだろうか。あおいと過ごした日々はとにかく楽しかった。
でも結局はこういう形になってしまった。真剣に将来を話した。人それぞれの人生はある。自分の事を考えてしまう年頃なのか。
あおいとの思い出は、この先も忘れる事はないだろう。

これから別々の道の中でお互いが幸せになれるってそう信じてる。
いつだってあおいは愛想あって明るくて負けん気で、でも少し弱くて。
この先つまづくことがたくさんあるだろう。いろんな事が起こったって絶対にあおいなら大丈夫だ。
僕だってきっと大丈夫さ。
僕らの未来はもっとよくなる。輝いてるだろう。

がんばれ、がんばれ、がんばれ、・・・
バイバイ、バイバイ・・・
ほんとにお別れだ・・・・・

ふざけて笑いあって、喧嘩もしたりして、真面目な話には向き合って、僕らの世界は確かにあった。そしてこの世界は終わりを告げた。

いろいろな事があって、やっぱり別れは悲しい。涙を必死に堪えていたけど、やっぱり止められなかった。
ほんとにありがとう・・・・さよなら・・・・さよ・・・なら・・・
僕はまた振り返り去ろうと歩き出した。頬を流れる涙を止めるように僕は目を伏せた・・・・・・




何してんだ!僕は!
こんなんじゃ、だめだろ!違うじゃないか!
ちゃんと心の底の気持ち、本当の気持ち、今伝えなきゃだめじゃないのか。

僕は走り出してた。あおいのところに。
やっぱり終わらせたくない。終わりなんてありえない。離したくない。ずっと一緒じゃなきゃやだ。
この先が見えないなんて当たり前じゃないか。2人で頑張ってつくりたい。これからがどうなろうと僕はあおいを助けるし応援する。夢に向かって本気になれるようにする。僕も僕のことしっかりやる。2人ならどうにだってなる。僕らはだめになんかにならない。きっとやれる。うまく行くんだ。ずっと一緒にいたいんだ。
ねぇ、そうだろ?

僕は必死になって、涙浮かべ笑ってるあおいを強く抱きしめた・・・・


煙が風にさらわれてくかのように

香りだけを残したかのように

そこには、あおいはいなかった。


僕は膝から崩れ落ちた。
2人じゃなきゃだめなんだ。あおいとずっと一緒にいたいんだ僕は。
なんでだよ。なんでだよ。なんでだよ。

僕は泣いた。ただただ泣いた。右手の握り拳をなんども地面に叩き付けながら。
抑えてた気持ちが溢れ出した。
周りの人の視線が僕に集まってる事も気にしないでひたすら泣いた。

季節は、何も変わる事なく語ることなく過ぎていった。あれからあの駅はあまり使わなくなった。
何日間か心はなにも埋めようとしなかった。
虚無の世界でただじっと。ただじっと。
時間だけが僕を和らげた。もうわかっている。もうわかっているんだ。

そう、僕は2回目のあおいからのバイバイの時、振り返らなかったんだ。聞こえてはいたけどいろんな感情の中、足を急がせたんだ。

そしてあおいは、その後、ホームに上がったら酔っぱらいの男と仕事帰りのサラリーマンが喧嘩していたらしく、それを止めようとして突き飛ばされて、電車にひかれて死んだ。

僕はあおいが死んだ事は次の日に知った。信じなかった。ありえない。そんな事。だって夢に向かって頑張るんじゃなかったの? こんなバイバイはないよ。
僕は最後のバイバイすら言えなかった。いや、言わなかった。

後にあおいと買ったパン屋の店員さんから、あおいは僕が見えなくなるまで手を振っていたって事を聞いた。そして、泣いてたってさ。

僕は馬鹿野郎だ。取り返しのつかないことをした。
もう2度と会えないんだ。もう2度とあおいの笑顔を見れないんだ。
あの時、もう一度振り返っていたら何かが変わっていたかもしれない。 僕のせいだ。

今でも毎日、あおいを想うよ。
1番大切だった。なにもかもより。

大切な人がそこにいたのに僕は、理由や問題、取り巻く環境、僕の人生にばかりで、歯車を合わせれなくなった。
目の前にずっと、1番大切な人がいたのに失くした。
僕は気付くのが遅かった。簡単に手放そうとした。ほんとに馬鹿だ。

この頃になってやっと思う事がある。
きっと1番大切なものは目の前にあるんだって事。
それはなんでもそうだ。
見えるもの、見えないもの。
それは変わってしまうかもしれない。
真剣に見ようとしていないだけなのかもしれない。
ほんとはわかっているのかもしれない。
自分の都合に合わせているだけなのかもしれない。
そばにある。きっとある。必ずある。

あおいが死んだあの日の事を僕は一生後悔し続ける。この先もずっと。だけど、だけどあおいはきっといつもと変わらないあの無邪気な笑顔で応援してくれるんだろうな。こんな僕を。

よく見つめて、
そらさないように傷つけないように見失わないように失くさないように。

生きていくとあおいに誓いながら、僕はゆっくり歩き出すよ。 完

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