私の涙

お父さんとお母さんが死にました。
私はひとりぼっちになりました。

 今日はお通夜です。私は悲しみをじっと我慢しています。

「かわいそうね。あの子、まだ17歳でしょ。両親失くしてこれからどうするのかね。」

「いろいろ身内の人達もこれから大変だわ。」

「あの子、悲しい顔一つも見せないわね。」

「普段からあまり表情に出さない子らしいわ。」

「いつも愛想があまりないのよね。」

「両親死んじまってこんな言い方ないけど、うまい育て方できなかったんだろーな。」

「我慢してしっかりしてるのよ。」

「話しかけてもうんともしやしない。今の若いのは何考えてるんだかわからないよ。」


 あちこち周りで私の話をしているのがわかりました。
 私は両親を亡くし、悲しくて悲しくて仕方がありませんでした。


「あかねちゃん、よかったら家にこない? これから受験もあるしいろいろ大変でしょっ?」

「つらいわね。これからどんな事があっても頑張って生きなきゃだめよ。」

親戚の人達が優しい声をかけてくれました。
私の事を思ってくれる人もいました。

 私は悲しくてこの後の事など考えられませんでした。


 綺麗な花達に飾れたお父さんとお母さんの遺影が真っ直ぐ私を見ています。

お父さんは前にこう言いました。
「あかね、人前では絶対に泣くな。この先何があってもだ。心を強く持つんだ。」

お母さんは前にこう言いました。
「あかねちゃん、あなたは大切なものを持っているわ。大切なものは見せないように大事に心に閉まっておくのよ。」


 私はいろいろな思い出に浸りました。
 苦しかった事、楽しかった事、いろいろな感情がありました。

 この気持ちを、この気持ちを必死で堪えようとしましたが堪えきれませんでした 。
 今まで我慢してきたのに溢れ出てしまいました。

「わぁーー、わぁーー、なんでよ! なんで死んじゃったのよ! 私だけを置いて行かないでよ! どうしたらいいのよ! あーー あーー。」


 私は大きな声で泣きました。

「えっ? 何?」

「おい、あの子急に泣いたぞ。」

「ビックリしたぁ。」

「大丈夫か?」

 皆がひそひそし始めました。


 私は大きな声で泣きました。

「つらいだろーな。」

「可哀想だわ。」

「こればっかりは何て言えばいいのか。」

「残念だな。」
 
 皆が私に同情しました。


 私は大きな声で泣きました。

「ねぇ、あの子、涙がすごいくない?」

「あの子の下、キラキラしてるわ。」

「何? どうした?」

「えっ? 何? これ?」

皆が私の事を注目しました。


私は大きな声で泣きました。

「えっ? これ! ダイヤモンドじゃない?」

「これ、本物のダイヤモンドよ!」

「うそだろ! ダイヤモンドだ!」

「おい! ダイヤモンドだぞ!」

「こっちだ! こっち!」
 
 皆が騒ぎ始めました。
 

 私は大きな声で泣きました。

「すごい! すごいわ!」

「まじかよ! 」

「これは現実なのか! 信じられん!」

「拾え、拾え、いいから拾え!」

「かき集めろ!」

「バッグに詰め込め!」

「あなたも拾いなさい!」

 皆が拾い始めました。


 私は大きな声で泣きました。

「離せ!俺のだ!」

「私のものよ!」

「俺のものを取るな!」

「私のものよ。取らないで!」

「凄い!これで金持ちだ!」

 皆が奪い合い、争いが起こりました。

 
 私は大きな声で泣きました。

「そうだ! もっと泣け! もっとだ! もっと!」

「あの子を絶対に家に来させるわ! 誰にも渡さないんだから!」

「外部には漏らすな!」

「幸福が舞い降りてきた!」

「泣きなさい!もっと泣きなさい!」

 皆は自分の事で頭がいっぱいになりました。


 私は大きな声で泣きました。

 そんな大騒ぎのとこにはいろんな人が入って来ました。
 親戚、友人、知り合い、知らない人、騒ぎで集まった人達でぐちゃぐちゃになりました。
 
 その中には、服は汚く髪もボサボサの浮浪者のおばあさんもいました。

おばあさんは1粒のダイヤモンドを大事に抱えて言いました。
「あー、神様、貧しいオラの為にありがとうごぜぇます。ナンマイダァ、ナンマイダァ。」

 そんな中、葬儀屋の人達は騒ぎを必死にずっと止め続けていました。



 私は大きな声で泣きました。

いったい、本当に大切な事とは何なのでしょうか。     完

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?