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『不老不死の檻』1 


  あらすじ

 2024年、ニューララインはついに人間への初めてのインプラントを成功させる。会社の創設者である大富豪アーロンは、不老不死の実現を目指してこの技術を開発してきた。しかし、彼にとって被験者たちは単なる実験台でしかなかった。幾多の試行錯誤を経て、人と機械とのインターフェイスが完成した。そこから始まるのは、陰謀とサスペンスに満ちた物語だった。

  著者まえがき

 私が今最も注目している企業はイーロン・マスクのニューラリンクです。最近も次のような記事が出ました。

 この技術が人類に何をもたらすのか。小説化して考えてみました。

  登場人物

・アーロン・メイフィールド
ニューララインの創設者であり、技術の進歩を推し進める大富豪。彼の最終目的は不老不死の実現。

・ジャック・リード
インプラントの被験者。元軍人で、瀕死の重傷を負っていた。彼はアーロンのプロジェクトに参加することで新たな命を得るが、次第にその背後にある陰謀に気づき始める。

・サラ・ウォーカー
ニューララインの主任研究員。アーロンのプロジェクトに深く関わっているが、被験者たちに対するアーロンの冷酷な態度に疑問を持ち始める。

・エリオット・グレイ
FDAの監査官。ニューララインの技術とその倫理性に疑問を持ち、調査を開始する。

・リンダ・スミス
サイバーセキュリティの専門家。かつてアーロンの下で働いていたが、彼の非倫理的な実験と権力への執着に疑問を抱き、彼から離れた。


      不老不死の檻


  インプラント手術

 アーロン・メイフィールドは手術室の窓越しに、人間の脳へのインプラント手術を見守っていた。緊張感が漂う中、彼の顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

 「これが未来だ、サラ」

 アーロンは冷たく言った。

 「我々は神の領域に足を踏み入れたんだ」

 サラ・ウォーカーは眉をひそめた。

 「でも、被験者たちに対するリスクは無視できません。彼らは人間です、実験台ではありません。」

 「結果が全てだ、サラ」

 アーロンは厳しく答えた。

 「成功すれば、全てが正当化される。」

  目覚め

 手術から数日後、ジャック・リードは徐々に意識を取り戻し、目を開けた。最初に彼の目に映ったのは、白い天井と明るい蛍光灯の光だった。頭にかすかな痛みを感じながら、彼はゆっくりと体を起こした。

 「ジャック、聞こえるか?」

 アーロンの声が部屋のスピーカーから響いた。

 「気分はどうだ?」

 ジャックは頭を振って意識をクリアにしようとした。

 「どこだ…ここは?」

 「ニューララインの研究施設だ。君の手術は成功したんだよ。さあ、起きて自分の新しい感覚を試してみるといい。」
 
 ジャックはベッドから降り立ち、足元がしっかりと大地を捉える感覚を覚えた。彼は周囲を見渡し、驚きの表情を浮かべた。部屋の中の細かなディテールが以前よりも鮮明に見え、色彩はより鮮やかに感じられた。

 「これは…本当に現実なのか?」

 ジャックは自分の手を見つめた。機械の腕になっている。手のひらや指先の感触がまるで新しいもののように感じられた。

 「そうだ、ジャック。これがニューララインの力だ」

 アーロンの声には自信が満ちていた。

 「君の脳とコンピューターが直接結びついている。感覚はより鋭敏になり、反応速度も向上しているはずだ」

 ジャックは部屋の隅に置かれた小さなボールに目を向け、何の気なしに手を伸ばした。驚くべきことに、ボールは彼の手に吸い寄せられるように飛び込んできた。ジャックは目を見開き、自分の手を見つめた。

 「どうやって…?」

 「それは君の新しい能力だ、ジャック。」

 アーロンが説明した。

 「君の脳は今や強力なコンピューターと結びついている。物理的な力や反射神経だけでなく、意識的な集中力も大幅に強化されている」

 ジャックはボールを握りしめ、もう一度投げてみた。今度は壁に当たって跳ね返るボールを瞬時に捕まえた。動きが以前よりもはるかに滑らかで速かった。

 ジャックはふと部屋の端にあるモニターに目を向けた。モニターには彼のバイタルサインや脳波のデータが映し出されていた。彼は意識的にそのデータを見つめ、集中した瞬間、データが変化し始めた。ジャックは自分の脳波のパターンを意識的に操作できることに気づいた。

 「君の意識は今やデジタルデータに直接影響を与えることができる」

 アーロンが続けた。

 「これがニューララインの真の力だ。君は自らの脳を通じてデジタル世界を直接操作できるんだ」

 ジャックは信じられない気持ちでモニターを見つめた。

 「この力…本当に使いこなせるのか?」

 「もちろんだ、ジャック」

 アーロンの声には確信があった。

 「君がこの力をどう使うか、それがこれからの課題だ」

 ジャックは深呼吸をし、目の前に広がる新しい世界に一歩を踏み出した。彼の視界はクリアで、感覚は鋭敏だった。手術前には考えられなかった新しい能力を手に入れた彼は、自分の未来に対する期待と不安が入り混じる中で、次の一歩を踏み出す決意を固めた。

  サラの疑問

 サラ・ウォーカーはニューララインの研究室で、アーロンとの議論に巻き込まれていた。彼女の顔には明らかな緊張感が漂っていたが、その目は決して怯えていなかった。

 「アーロン、これは間違っているわ」

 サラは強い口調で言った。

 「被験者たちは人間よ。彼らを単なる実験台として扱うことは許されない」

 アーロンは冷たい笑みを浮かべ、サラを見下ろした。

 「結果が全てだ、サラ。我々の研究が成功すれば、誰も文句を言わなくなる」

 サラの胸には怒りと悲しみが渦巻いていた。彼女はアーロンの冷酷さに対する嫌悪感を抑えつつ、冷静に言葉を続けた。

 「でも、その過程で何人の命が犠牲になるの?それを正当化することはできない」

  病室にて

 ジャック・リードが目覚めた後、サラは彼の回復を見守っていた。彼女はジャックの側に座り、その手を優しく握った。

 「大丈夫よ、ジャック。あなたは安全よ」

 サラの声は柔らかく、慰めるように響いた。

 ジャックは不安げにサラを見つめた。

 「本当にこれでいいのか?俺は…人間のままでいられるのか?」

 サラは微笑みながら頷いた。

 「もちろんよ、ジャック。あなたは人間よ。新しい能力を得たけれど、その心は変わらない。私たちで一緒に乗り越えていきましょう」

 彼女の言葉には、深い信頼と共感が込められていた。ジャックは少しずつ安心感を取り戻し、彼女に対する信頼が芽生え始めた。

 時間が経つにつれ、二人はニューララインの技術を巡る倫理的な問題について話し合うことが増えていった。

  夜の屋上で

 ジャックとサラは研究室の屋上に上がっている。夜風が心地よく吹き抜け、遠くに街の明かりが輝いている。

 「サラ、君のおかげでここまで来れたよ。君がいなければ、俺はきっと耐えられなかった」

 サラは微笑みながらジャックを見つめた。

 「私もよ、ジャック。リハビリに励むあなたの姿に、私も勇気づけられたわ」

  アーロンのデータベース


 夜遅く、サラは研究室の暗い部屋に一人座り、アーロンのデータベースにアクセスしていた。彼女の指先はキーボードを素早く叩き、次々とデータを掘り下げていった。

 被験者ID: 0345

 名前: ジョン・ドウ
 年齢: 45歳
 性別: 男性
 状態: 脳損傷(手術前)
 実験結果: 成功
 備考: 新しい感覚機能の回復を確認
 被験者ID: 0567

 名前: エミリー・スミス
 年齢: 30歳
 性別: 女性
 状態: 健康(手術前)
 実験結果: 失敗
 備考: 実験後に重篤な副作用発生、死亡

 名前: ナンシー・ブラウン
 年齢: 42歳
 性別: 女性
 状態: 健康(手術前)
 実験結果: 失敗
 備考: 実験後に重篤な副作用発生、全身麻痺状態で生存中

 被験者のデータを目にするたびに、彼女の胸には怒りと悲しみが交錯していた。

 「こんなことが…」

 サラは呟いた。

 「これじゃあ、彼らは単なる犠牲者じゃないの」

 次にサラは、アーロンの極秘プロジェクトに関するデータを発見した。   極秘プロジェクトの詳細に目を通すと、彼女の表情はさらに険しくなった。

 プロジェクト名: 不老不死計画
 目的:
 人間の脳を保存し、複数のアバターを操作することで永遠の命を実現
 手順:
 被験者の脳を摘出し、特殊な保存方法で保管
 脳とアバターをニューララインで接続
 被験者がアバターを通じて活動できるようにする
 実験は被験者の同意なしに行う。

 「不老不死計画…まさか、アーロンがこんなことを考えていたなんて」

 不老不死計画の目的は人間の脳を保存しながら、複数のアバターを操ることで永遠の命を実現することである。

 続いてサラはアーロンと他の幹部たちの間でやり取りされた内部メモやコミュニケーションログを発見した。これらのメモには、実験の進行状況や失敗を隠蔽するための策略、さらには政府や監査機関への対応策が記されていた。
 サラの手は一瞬止まった。彼女は深呼吸をして冷静さを取り戻し、メモの内容を読み進めた。

 メモID: 021
 送信者: アーロン・メイフィールド
 受信者: 研究幹部
 内容: 「最近の実験失敗についての報告は全て隠蔽するように。メディアに漏れることは許されない。我々の目標は不老不死の実現であり、そのためにはどんな手段も厭わない。」

 メモID: 045
 送信者: 研究幹部
 受信者: アーロン・メイフィールド
内容: 「被験者の家族からの問い合わせが増えています。対策を講じる必要があります。可能であれば、金銭的な補償で解決を図ることを検討しています。」

 「全てを隠蔽しようとしている…これは許されるべきことじゃない」

 最後に、サラはニューララインの技術的な詳細と研究の成果についてのデータを確認した。これには、インプラントの設計図、接続方法、技術の改良点などが含まれており、アーロンの技術的な天才ぶりを示す一方で、その技術がどれほど危険なものかも明らかにしていた。

 インプラント設計図
 バージョン: 3.5
 機能: 脳とコンピューターを直接接続するインターフェイス
 改良点: 感覚入力の精度向上、脳波パターンの安定化

 技術詳細
 接続方法: 脳内のニューロンとインプラントを微細な電極で接続
 リスク: インプラントの誤作動による脳損傷、長期使用による健康リスク

 最後にサラは技術詳細のデータに目を向けた。彼女はインプラントの設計図をじっくりと見つめ、その技術的な複雑さとリスクを理解した。

 「こんな危険な技術を、どうしてこんな無謀に使おうとしているの?」

 彼女はデータのバックアップを取り、コンピュータの画面を閉じた。サラの心には、アーロンの計画を阻止し、ニューララインの技術を正しい目的のために使う決意が固まっていた。

 「これからが本当の戦いね」

 サラは静かに呟き、暗い研究室を後にした。

  決意

 ジャックとサラは深夜の研究室でデータを分析している。サラがモニターに映し出されたデータを指し示す。

 「見て。ここにアーロンの計画の全貌があるわ。これを公開すれば、彼の陰謀を暴くことができる」

 ジャックはサラの言葉に強く頷く。

 「俺たちはこれを止めなければならない。サラ、君と一緒ならできる気がする」

 サラの目に決意の光が宿る。

 「私たちはチームよ、ジャック。共に戦って、真実を明らかにしましょう」

 二人は困難な状況の中でお互いに支え合うことを誓った。ジャックはサラの強さと優しさに惹かれ、サラはジャックの勇気と決意に心を動かされた。

 続く




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