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【小説】面影橋(四)

 夢の中でスキップしているような詩的な桜の季節から、地に足つけて歩く散文的な若葉のそれにいつの間にか移っていました。頭上の葉桜から足下に目を落とし、私が本当に好きなのはこの慎ましいつつじだったのだと気づきました。多くの人は省みることすらしないかもしれませんが。幻の傑作の一件もそれ以上かかずらっている余裕などなく、そろそろデジカメに切り替えなきゃという教訓に留めました。その後、その人と行き合うことはありませんでした。ちょっとだけ期待していたのですが。何となく大学にはいなさそうな古風な芸術家タイプで、そう言えば小脇に抱えているケースは絵を入れるのにぴったりな感じで、私は勝手にこの界隈のぼろ家の屋根裏部屋でも根城にする不遇の画家と決めつけ、そのうち頭の片隅へと追いやりました。

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