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熊と猟師とその妻

「熊の仕業だな」猟師たちはその凄惨な死体を見てそう判断した。「それも、かなりの大物に違いない。知恵も働くし、残忍で力も強い」見るも無惨に食い散らかされたのは彼らの仲間のひとりだった。
「慎重なやつだったんだがな」そう言ったのは、殺された猟師の一番の親友だった猟師である。「腕も良かった。いい猟師だったのに。不意をつかれたのに違いない。よほど知恵の回るやつだ」
「熊は手負いだろう」これが猟師たちの見立てだった。大きな熊の足跡と一緒に、点々と続く血痕があったからだ。「見つけ次第殺さなければならん。やつは人の肉の味を知った。きっとまた、人に危害を加えるだろう」
 猟師たちは銃を持つ手に力を込めながらその場を離れた。息を潜め、足音を忍ばせ、めいめいに森に姿を消した。
 殺された猟師の親友の猟師は腕のいい猟師だった。どんなにはるか彼方の的でも撃ち抜くことができるだけの腕前があった。隣の山の木の実を撃ち抜いて見せたという噂があったほとだ。その技術は獲物を無駄に苦しめないために、一撃で殺すために使われた。猟師は心優しかった。
「必ず仇をうってやるからな」と、猟師は心に誓った。
 その猟師には美しい妻があった。都で生まれ育った女で、山を迷っているのを助けたのが縁である。女は猟師を深く愛し、猟師もそれに劣らぬほど女を愛した。女は一時でも猟師と離れるのを嫌がったが、猟師は仕事に妻を連れていくようなことはしなかった。女を連れていくには危険な仕事である。また、ひとりで外出することも禁じていた。
「お前は山のことを知らんから、きっと危ない目に遭うだろう」
「でも、あんたに会いたくなるわ」
「すぐに帰ってくるさ」
 女は不満であった。猟師が一緒にいれば安全ではないかと思った。「きっとあの人は外で別の女に会っているに違いない」ひとりで過ごす長い時間は、女の不安を掻き立てるばかりであった。
「ああ、あの人に会いに行きたい」
「行けばいいさ」という声がして振り返ると、一匹の狐が立っていた。「会いたいのだろう?なら会いに行けばいい」
 女は身を強張らせた。獣を間近で見るのは初めてだったのだ。「あの人がダメだって」
「大丈夫さ」狐は声を潜めて言った。そして、あたりを見回しながら女に近づくとこう言った。「あいつがお前を愛しているのなら、お前が会いに来れば喜ぶはずさ。でなければ、お前を愛していないのだろう」
「けど」と女は息を大きく吸った。「山にはあんたみたいな、あんたより恐い獣がたくさんいるのだろう?あたしひとりじゃあ行けないよ」
「山で一番強い獣が何か知ってるかい?」と狐は髭を手入れしながら女に尋ねた。
「いいや」女は首を横に振った。
「熊さ」
「熊?」
 狐が手招きするのについていくと、女と猟師の家の庭に、一頭の熊の死骸が横たわっていた。それはまるで黒い山のように巨大で、血と糞尿と汗の入り混じった、獣の臭いがした。剥き出された牙は刃物のように鋭く、爪には血がこびりついている。その死骸を見るだけで、女は身震いした。それが歩き回っているのだと想像するだけで、卒倒しそうだった。
 狐は言った。「この熊の皮を剥いでそれを纏えばいい。そうすれば、山の獣はみんなお前を避けて通るだろう」

No.307

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