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流れ星に願いを

 わたしはどちらかというと人見知りなタイプだから、初対面の人と打ち解けるなんてことはほとんどないのだけれど、彼の場合は違った。ちょっとしたきっかけで会話が始まり、それは何気ない会話なのだけれどとても楽しいし、こんなことを言って変に思われたりしないかな、みたいな不安を覚えることもない。子どものころからずっと友達だった相手と話しているみたいな感じだった。とてもリラックスして、会話ができた。だからこそ、自分の夢を語るなんてことまでしまったのだと思う。普段なら、絶対にしないようなこと。親友にだって話さない。親友なんていないけど。
「これがわたしの夢」と、わたしは何気なく言った。
 本当に何気なくだ。熱く語ったとか、そういうのではない。たぶん、悲壮感とかも無かったと思う。どちらかというとささやか系の夢だし、大きな野望を持つような人から見たら鼻で笑われるような夢かもしれない。
「そっか」と、彼は深刻そうに言った。「いい夢だね」
 わたしは照れくさくて下を向いた。ほめられたのは夢だけど、なんだかわたしがほめられたみたいな気分だった。
「ぼくには」と、彼は相変わらず深刻そうに言う。「君の夢を叶えてあげることはできない」
「へ?」
「なにか手助けができればいいんだけど」と、言って彼は考え込んだ。「ほんの些細な助けにもなれそうにないんだ」
「いいんだよ」と、わたしは首を横に振る。「そんな、手助けしてほしいとか、そんなことで話したわけじゃないから」
「いや」と、彼の言葉は力強い。「ぼくは君の助けになりたいんだよ!」
「えぇ」と、わたし。なんだか話の雲行きが怪しくなってきた。
「ぼくにできることと言えば」と、彼は空を見上げた。夜空だ。「ねえ、流れ星が光ってる間に願い事が言えると、それが叶うって知ってる?」
「うん」
「ぼくが流れ星になるから、その間に願い事を言ってくれ。ぼくが君のためにできるのは、それくらいだ」
 というわけで、彼は打ち上げられるロケットを用意し、宇宙服に身を包んだ。
「流れ星になったら」と、ロケットに乗り込み、操縦席に体を収めた彼に言った。「あなたは燃え尽きてしまうんじゃない?」
「そうだね」と、彼は言った。「君がちゃんと願い事を言えるように、頑張って少しでも長く燃え尽きないようにするから、心配しないで」
「いや、違くて」
「じゃあ、なに?」
「死なないでよ」
「君の」と、彼はわたしをまっすぐ見つめて言った。「夢がかなってほしいんだ」そして、ハッチは閉じられた。
 カウントダウン、発射、空に向かって白い煙を引きながら昇っていくロケット。
 ロケットが見えなくなってからしばらくすると、流れ星が現れた。わたしは慌てて、自分の夢がなんだったのかが思い出せなくなり、あたふたして、どうにかこうにか願い事を言うと、流れ星は消えた。とても長く光る流れ星だった。
 こうして、彼は燃え尽きたのだ。跡形も無く。
 ちなみに、わたしの夢は叶わなかった。そんなものだ。


No.585


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