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夢見たことが

 人々の夢が実現した。人々のお願いが、神様に届いたのだ。ただし、その願いが神様に届くまでに多少の時間を要した。もしくは、永遠の存在である神様にとっては、それはほんの一瞬であったのかもしれないが、有限の時間を生きる人にとってはいささか長い時間であった。その時間、およそ三十年。そして、そのかなった夢とは、小さな、年若い少年少女たちが、夜空を見上げながら祈ったお願いだ。
「神様、お願い」
 少年少女たちはそう夜空を見上げて祈った。それは熱心な祈りだった。だからこそ、神様もその願いを叶えたのだろう。とはいえ、神様にとっては取るに足らないような時間かもしれないが、少年少女たちにしてみれば大人になるのに充分な時間が流れたわけであり、彼らなりに奮闘努力はしたのだろうけれど、多くのものは夢破れ、夜空に祈ったのとは違う人生を歩んでいた。
 そんな時に、夢が実現したのだ。
 夢の実現した世界では、働き盛りの人々がその職場から消えていた。彼らの出勤したのはプロスポーツの練習場である。練習場はかなりの人口過密状態になった。まるでおしくらまんじゅうである。試合になると、観客席はもぬけの殻だ。いるのは選手ばかりである。満員状態はグラウンドである。
警察官の数も増えた。いたるところに警察官である。消防士も多い。
 それまで主婦をやっていた女性がお菓子屋さんになった。町は虫歯で溢れたが、歯医者の数は圧倒的に少なかった。お嫁さんを夢見た女の子は、すでに実際お嫁さんになっていた人は変化無しである。
 世の中は大混乱に陥った。本来必要とされる職業に全く人がいなくなり、インフラの不具合は放置され、基本的な小売店が閉店した。大統領や首相までもがスポーツ選手や恐竜学者になっていた。
子どもの頃の夢が叶った人々は喜んだかと言えばそうでもなかった。なにしろ大混乱状態だし、それまで積み上げてきた生活がそれほどイヤではなかったからだ。もちろん、子どもの頃の夢が叶うというのは満更ではないが。
子どもをもつ大人たちは、三十年後に備えて、子どもたちに現実的な夢、大金持ちとか、権力者とか、そういった夢を持つように仕向けたが、それが上手くいったかどうかは三十年後にならないとわからない。そもそも現実的な夢などという言い方は矛盾だ。
「神様、お願い」
 ちなみに、子どもの頃にアニメやテレビの登場人物になりたいと思ったような人々の夢も叶ったが、悪役はいないので、開店休業状態である。


No.581


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