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それぞれの役割

 国王の近くには常に予測屋がいた。
 国王、宰相、道化、予測屋の四人組はいつも行動を共にしたわけだ。
 国王、宰相の役割は言わずもがなだろう。道化は笑われるためにいる。そして、予測屋は予測をするためである。何の? 未来のである。
 国王はとにかく未来に起こる出来事を知りたがった。国王自身の考える国王の仕事は決定であり、それは常に決断であるのだけれど、決断を下すためにはその材料が必要なわけで、様々な要因、情報を重ねていくとその決断が正しい決断になる確率は高まっていく。しかしながら、それは完璧な決断に確実に漸近はするものの現実には完璧にはなりえず、残念ながらそこには不確実なものが紛れ込み、それが国王の選択を撹乱するのだった。
「どう思うかね?」国王は宰相に尋ねる。国王は決断を下すのに躊躇していて、それに後押しをするなにかが欲しいのだ。藁にも縋るというくらい。もちろん、そんな様子はおくびにも出さない。出せない。威厳を失っては国王の務めは果たせなくなるのだと、国王は考えているからだ。
「恐れ多くも、わたしにはお答えしかねます、陛下」が宰相の返答である。
 宰相のすべきは国王の意を国の隅々まで伝えることなのだ。決断は宰相の仕事ではない。すくなくとも、この当時、この国にあっては。
 そこで国王陛下は予測屋をお召しになるのだ。
「ちこう寄れ」
「ははあ」
 そして、国王は未来予測を予測屋にさせるのだ。もしも未来が見通せれば、選択は途端に簡単なものになる。最善の選択をすればいいのだ。確実な予測ができれば、それは実に容易い。
 かくして、召された予測屋は全身全霊を込めて予測をしてみせるわけなのだが、残念ながら予測は往々にして外れるのだ。そんなに簡単に未来が見通せればわけない。見通せないからみんな困っているのだ。しかしながら、だからこそ藁にもすがる思いで未来が予測できるという輩に飛びつく者も出てくるのだけど。
 予測が外れ、国王がした選択も失敗に終われば、それが陛下の逆鱗に触れたとしてもなんの不思議もないだろう。
「首をはねよ」
「ああ、どうかご慈悲を」と泣き付く予測屋。
「お前は予測が外れた時にこうなることも予測できなかったのか」
 と、多くの無辜の予測屋たちの命が犠牲となったのだった。無辜ではないか。彼らの誤った予測で、どれだけの無辜の民が迷惑をこうむったかわかったものではない。
 ああ、国王の役割について語り忘れた。
 予測屋の予測が外れ続け、失政が繰り返され、人民怒りは頂点に達した。革命が起き、国王は捕らえられた。とにもかくにも裁判が開かれ、国王の首ははねられた。
 国王はつまりそのためにいるのだ。それが国王の役割である。


No.701

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