DREAMING GIRL

「わたしも連れてって」と少女は少年に言った。
「でも」と少年は言い淀んだ。なぜなら、そこは少年の見ていた夢の中であり、少女は少年の夢に出てきた少女であったからだ。「夢が覚めれば君はいなくなっちゃうんだ」少年は自分が夢を見ていることを知っていた。
 夢の中、二人は楽しく過ごしていた。美しい草原を手を繋いで走り、花飾りを拵え、花占いをした。言葉は意味を成していなかった。それでも二人はお互いの気持ちをやり取りできた。全てが満たされていた。なにしろそこは夢の中だったのだから。夢の中では全てが完璧なのだ。
 そして、目覚める時が来た。朝が来たのだ。
「もう、起きなきゃ」と少年は立ち上がりながら言った。大きく伸びをして、欠伸をした。「学校に行かなきゃならないんだ」すると、少年の足元の草花が枯れ始めた。そして、それは瞬く間に広がっていき、あっという間に草原は枯れ果て、しばらくすると風でそれらが運び去られて、辺り一面は砂漠になった。
「行っちゃうの?」と少女は少年の手を掴んで言った。
「楽しかったよ」と少年は言った。
「わたしも連れてって」と少女は言った。
「ぼくだって」と少年は困った顔をして言った。「できるならそうしたいよ」
「できるわよ」と少女は少年の手をぎゅっと握った。
「どうしたらいいの?」
「わたしの手を離さないで」と少女は少年の目をじっと見据えて言った。
 夢から覚め始めたのだろう。周囲の風景が次第に薄れ始めた。少年は少女の手を固く握った。夢がどんどん消えていって、二人の立つ場所以外はもう全て覚めてしまった。
「手を離さないでいて」少女は言った。
「うん」と少年は頷いた。「わかった」
 目覚まし時計が鳴っていた。母親が、朝食の支度ができたから早く来なさいと催促している。少女はもぞもぞと布団からでて、伸びをしてから欠伸した。
「変な夢を見たの」と少女は朝食の席で家族に話した。父は新聞を読んでいた。母は「どんな?」と少女に話すよう促した。
「わたしが、知らない男の子の夢の中の登場人物で、その子の夢が覚めちゃうとわたしは消えちゃうから、その子にわたしも夢の外へ連れてって、って言う夢」
「変な夢ね」と母親は笑った。

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